第109話 親密度アップ作戦

「なるほど、偶然ルーク様と会ったから積極的に攻めたけど、何も出来なかった所だったと」


 ウィルの言葉にジュリルが勢いよく首を縦に振る。


「まぁそれは分かったけど、ルーク様凄くこっち見てるけどどうするの?」


 マートルの言葉にウィルもジュリルも一瞬振り返るも、直ぐに背を向けてこそこそ話を始める。


「どうしようウィル、マートル。私嫌われたかもしれないわ」

「いやさすがに大丈夫だと思うけど、まずはいつも通りのジュリルになれ。そして普通に接すれば問題ない」

「そうね。今のジュリルはおどおどしてて変ね。それが無くなれば大丈夫よ」


 するとジュリルは何度か深呼吸して、自分を落ち着かせた。

 それからルークの方を振り返り、近付いて行く。


「ル、ルーク様。先程は急に隣に座ってしまい、申し訳ありません」

「そんな事で謝るなよ、ジュリル。俺は怒ってないし、俺の方こそ急におでこを触って悪かったよ。いつものジュリルじゃない感じがしたから、熱でもあるのかと思って心配してたんだ」

「(私を心配してくれての行動でしたの……それを私は、何て勘違いを!)」


 何故かジュリルが急に悶える様な表情をしだす。


「見た所、体調不良とかではなさそうで安心したよ。それに、待ち合わせしてた友人とも会えたんだろ?」

「はい」

「それは良かった」


 ルークは優しい笑顔で答えると、今までほとんどルークの笑顔など見た事なかったジュリルはその顔に、雷に打たれたような衝撃でその場で硬直してしまう。

 急に動かなくなったジュリルが心配になり、手を振って確認するルーク。

 それを遠くから見ていたウィルとマートルも異変に気付き、近づいて来る。


「おいジュリル。大丈夫か?」


 ウィルはジュリルに近付き、肩に片手を乗せて軽くジュリルの体を揺らしながら声を掛けた。


「君たちは、えっと……」

「初めまして、ルーク様。私はジュリルの友人で、マートルと言います。そっちが、ウィルと言います」

「ジュリルの友人か、会うのは初めてだな。一応俺も名乗るが、ルークだ。よろしく。出来れば、第二王子とかそう言うのは関係なく一学友として接してもらいたい」

「分かりました。ですが、お名前を呼ぶときだけは今まで通りとさせて下さい」

「あからさまな態度でなければ、今まで通り君たちの自由にしてもらっていい」


 その後に、ウィルが遅れて挨拶をし始めた。

 ジュリルも我に返って、ルークにバレない様に背を向けて軽く両手で頬を叩いていた。


「(今日はやけにジュリルの行動が変だな。誰かに何か言われたのかな? それより、ルーク様の印象が聞いていたものと全く印象が違うな。もっと冷たい感じだと思っていたが、話す感じも物腰が少し柔らかいし距離感も普通だ。そう言う人を演じていると言う可能性はゼロではないが、それをしている感じではないな)」


 マートルは、ルークと直接話した印象と今まで聞いていた噂とを頭の中で照らし合わせ、ルークが本当はどう言う人なのかを見極めていた。

 するとウィルが、思った事を口に出していた。


「ルーク様は、どうしてこちらに居るのですか? 誰かと待ち合わせですか?」

「あぁ、そうなんだ。トウマとクリスを誘ってご飯でも食べようと思っていたんだが、俺が遅刻してしまって……ここに来たら2人共居ないんだ」

「なるほど。ルーク様と言えど、約束の時間に遅刻をするのはダメですね。でも、その2人がここに居ないという事は、その2人も遅刻しているのでは?」


 そこに完全復活したジュリルが会話に参加する。


「クリスの性格からして、遅刻はないと思うわ。まぁ、自称親友の方は分かりませんが」

「ジュリルはあのクリスとか言う男を過大評価し過ぎでは? ああいう男こそ、意外と時間など守れないものなんだぞ」


 そこからジュリルとウィルの間で、クリスについての軽い言い合いが始まる。

 その光景を見ていたルークは、クリスがジュリルとウィルとも知り合いなのだと初めて知った。


「2人共、そこまでにしなさい。ルーク様の前でみっともないでしょ」


 マートルが言い合う2人の間に入ると、2人は言い合いを止めすぐに謝った。


「(ジュリルは、この2人といる時の方が気を許しているのか、表情が明るいな。俺といる時とはまた違う感じだな)」

「それでルーク様は、これからどうするのですか?」

「そうだな。もう少しここで待つつもりだ。もしかしたら、2人が来るかもしれないからな」


 ジュリルの問いかけにルークが答えると、ウィルが何か思いついたのかマートルに耳打ちをする。

 その内容にマートルは一瞬悩んだが、ジュリルの為にもなるかと思い賛同した。

 するとウィルが、ルークにある提案をする。


「ルーク様。良かったら、私たちと手分けをして、クリスを探しませんか? 待つより、探しに出た方がいいと思うんですよ。もしかしたら、彼かもルーク様の事を探しているかもしれないですし」

「……確かに、あいつらならやってたりするかもしれない……だが、この人混みで探しに行くのは無謀だろ。見つけられる可能性は低いだろ」

「ふふふ。私だって、何の策もなく言い出しませんよ。これです!」


 そう言って取りだしたのは、腕輪型の魔道具であった。

 ウィル曰く、この魔道具は互いに通信で話し合えるものらしい。

 だが、使える範囲は狭く2キロ程度らしく、更には事前に魔力を登録した者どうししか使えない物であった。

 これを使い、2人ずつに分かれてこの周囲を探し見つけたら連絡をとるというものであった。


「どうですか? これなら、見つければ連絡取れますし、そこまで遠くまで探さずに近くを探せますよ」


 ウィルは少し自慢気に語るが、ルークは頷く事はなかった。


「(まずい、このままじゃジュリルとルーク様を2人きりにさせて、親密度アップ作戦が出来ない……こうなったら)」


 するとウィルはマートルの方をチラッと見て、軽く目配せをするがマートルは何の事だが全く分かっていなかった。


「そう言えば、マートル。クリスぽい人見たとかさっき言ってたよね」

「っ!?」

「ほ、本当か?」


 そう言ったウィルは、既にマートルから顔を逸らし明後日の方向へと吹けない口笛を吹いていた。


「(ウ、ウィルあなたね……)」


 マートルはウィルの後頭部を睨みつけると、その視線に気づいたウィルは一瞬だけ震えるが、マートルの方は向かなかった。

 そしてマートルは小さくため息を漏らし、気が向かなかったがウィルの嘘に乗る事にした。


「……確かにぽい人の後ろ姿を見たけど、本人かは分からないわ」

「と言う、目撃証言もあるので、探してみると言うのもありでは?」


 ウィルが最後の一押しと言わんばかりに、ルークへと提案すると渋々ルークは首を縦に振った。

 それからは、ウィルがマートルの見たと言う証言の方をルークとジュリルで探すという事にして、その反対をウィルとマートルが探すという段取りをとった。

 そのままウィルがちゃっちゃっと仕切り、最後にジュリルに通信用の魔道具を渡して、ジュリルの背中を押した。


「状況は作ってあげたんだから、何でもいいから話してルーク様との親密度を上げるんだよ」

「わ、分かった」


 小声でジュリルと話し終えると、ルークとジュリルは2人で歩いて行った。


「……ふぅ~何とか上手くいった」

「上手くいったじゃない。さっきのあの振りは何?」

「ごめん! でも、助かったよマートル。だって、あのジュリルが今日は積極的に攻めてるんだから、手伝いたいじゃない。親衛隊としてもさぁ」

「私は親衛隊なんかではないけど……にしては、かなり強引だったけど?」


 ウィルは少し苦笑いしながらも、「結果良ければ全部大丈夫」と答え、マートルは額に片手を付け軽く首を振りながらため息をついた。


「で、私たちはどうするの?」

「一応、私たちもぐるっと周辺探しに行く?」

「何故疑問形なの」

「あれ? お姉ちゃん?」


 2人の背後からそう呼びかけれ振り返ると、そこにはトウマ・シルマ・ミュルテの3人と遅れてエリスがやって来ていた。

 その時、トウマ・シルマの2人とウィルでは違う所で驚いていた。


「へ? お姉ちゃん? 誰が?」

「ん? ミュルテのお姉ちゃん!?」

「え? エリス先輩!?」

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