第107話 行き違い

 私がモランから思いもしない言葉を聞く15分前。

 ルークは、人混みの中を歩き待ち合わせの場所へと向かっていた。


「(にしても、この通りを通ったのは失敗だな。思ったより進行方向から人が流れて来てて、進みずらい。一本裏手に出るか)」


 するとルークは、脇道に入り裏手通りに出る。

 そこも人が多く行きかいしていたが、先程の通りと比べると少なく、歩きやすい為その道を通り待ち合わせ場所へと向かう事にする。


「(少し時間を無駄にしたな。間に合うか?)」


 ルークは少し歩くスピードを上げて目的の場所へと向かっていると、突然後ろから名前を呼ばれたので足が止まり振り返る。


「あれ? ルーク? 貴方、ルーク・クリバンスよね」

「ん? 確か貴方は、エリス先輩」


 そこに居たのは、同じ学院の第3学年で女帝と呼ばれて、オービンやミカロスとよく一緒にいるエリスであった。

 ルークは彼女の名前は知っていたが、直接会うのは今日が初めてであった。


「いや~まさかこんな所で会えるとは、私は運がいいな」

「あの、何か用ですか? 俺急いでるんですけど」

「もしかして、デート?」


 エリスからの問いかけに、ルークは少しムッとしそのまま無視して行こうとしたが、エリスがすぐに謝って来たのでもう一度顔を向けた。


「ほんの少しだけ聞きたい事があるんだよ」

「何ですか? 手短にお願いします」

「ここじゃ、人の邪魔だしもう少しあっちで話そうか」

「……分かりました」


 そう言ってルークは、エリスの後に付いて行った。

 その姿をちょうどモランが見かけたが、急いでいたのでそのまま素通りして行った。

 少し通路から外れた所で、エリスは止まりルークの方を振り返る。


「それで、聞きたい事って言うのは?」

「うん。これは風の噂で聞いたんだけど、君オービンの代わりになれるよう目指すって言うのは本当?」

「っ!」


 エリスから思ってもいない言葉が出て来たので、ルークは目を見開いた。


「(何でそれを知ってるんだ? 少しニュアンスが違うが、意味合いとしては合っている。クリスたちが誰かに漏らす訳ないし……となると、兄貴か?)」


 ルーク自身が今後どうするかについては、公に誰かに言っては居ない為、エリスが知っているのはおかしいと感じていた。

 だが、オービンから聞いたとすれば納得いくと考えていたが、それだとしても何故それを問いかけて来るのかが分からずルークは、エリスを見ながら考えていた。


「どうしたのかな? 何か考え事?」

「(目的が何だか分からないが、この人の問いかけに全て答える必要はないな)」

「お~い、ルーク?」

「エリス先輩がどうしてその事を知っているかは、置いておいて。それに関してエリス先輩にどうこう言われる筋合いはないです」

「なるほどね。噂の事は認めるんだね」

「えぇ。だいたいその通りです」


 ルークは話はそれだけだと決めつけ、待ち合わせ場所へと向かおうとするとエリスが問いかけて来た。


「それでルークは、どうやってそれを目指すの? 今まで、自分自身の事しかしてこなかった君が、どう皆に認められているオービンの様になるの?」


 エリスの言葉にルークは足を止め、振り返る。


「それこそ、貴方には関係ないですよ」


 それだけ言って、ルークは足早にその場を去って行く。

 残されたエリスは小さくため息を漏らすと、壁と寄りかかる。


「はぁ~全く、面倒な事を押し付けてくれるなミカも……もう少し私の事を気にして欲しんだけど。まぁ、やるって言ったのは私だし、終わったら色々わがまま言ってる」


 そしてエリスは寄りかかった壁から離れ、軽く背伸びをする。


「さ~てと、後は2人か。この中で探すのは大変だけど、前日祭を楽しみながら探すとしますか」


 エリスは少し鼻歌交じりに歩き始める。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「確か、この通りでルーク様とエリス先輩を見たんだけど、凄い人で見つかるかな」


 私たちはルークを探すために、モランにルークを見たという所に案内してもらっていた。

 だが、その通りはモランが通って来た時よりも人の数が増え、物凄い人混みになっていた。


「いや~すっげぇな。どの通りも、同じ位人がいるもんだな。今年の前日祭は、去年より人が多いんじゃねぇか?」

「確かに。この人の数は、収穫祭並みだ」

「シルマちゃん、はぐれないでよ。手でも繋ぐ?」

「あたいは、子供か! そんなはぐれる様なことしないって」

「クリス。ほ、本当に探すのルーク様? 待ってた方がいいんじゃ」

「うっ……でも約束破って、他の人といるとか許せないから、ガツンと言ってやるんだ!」

「クリスがそこまで言うなら」


 モランはあまり進まない感じであったが、私が言うならとそのまま案内を続けてくれた。

 何で私、ここまで躍起になってるんだろう……トウマまで巻き込んで約束してた事をすっぽかされたからだよ! それ以外に何もない!

 そう私は約束を破ったルークに怒っているんだ。

 ただそれだけで、このままじゃご飯を奢ってもらえないからで、別にエリス先輩との関係が気になると言うのでは絶対にない!

 私はそれを自分に言い聞かせつつ、皆と歩き続けルークを探す。


「ごめんなモラン。こんなことに付き合わせて。今日は3人でどっか行く予定だったんだろ?」

「そうだけど。クリスが困ってるなら力になってあげたかったから。それに元々前日祭を回る予定だったし、ルーク様を探しながらでも見て回れるから、私は大丈夫だよ」

「そうか。悪いな、あいつを見つけたらモランたちの分もあいつに奢ってもらう様にするかさ」

「別にそこまでしなくてもいいよ」


 私とモランが2人で先頭を歩いているのを、後方からシルマとミュルテが見つめていた。


「何かいい感じぽいな」

「そうね。偶然会えたんだし、この機会を活かさない手はないわ」

「おい、2人で何話してるんだよ?」


 そこに隣で一緒に歩いていたトウマがぐっと近づくと、2人はすぐに怪しまれない様に「何でもないよ」と笑顔で答える。

 その対応に少し首を傾げるトウマだったが、2人に追求する事無く前を歩く2人を見失わない様に歩き続ける。


「(危なかった……でもこのままじゃ、あの2人の雰囲気が続かないな。何とか、トウマを引き離しておく方法はないかな?)」


 とシルマは1人腕を組んで考えていると、近くに数多くの出店が出ているのが目に入り、軽く指を鳴らす。

 その行動を見たミュルテは、何をするのか見ていると、シルマは突然トウマに声を掛けた。


「おいトウマ、あの出店で出てる食べ物旨そうじゃないか?」

「ん? どれ? いっぱいあってどの出店の事か分からないんだが」

「あれだよ、あれ。あの鉄板で作って、いい匂い出してそうな出店だよ」

「あ~あれか。確かに旨そうだな」


 その言葉に、ミュルテもシルマが指さした方に視線を向ける。


「それならトウマ、買って来てくれよ私たちの分も」

「最初からそれが目的かよ……たっくよ~分かったよ。クリ……って、あの2人どこ行った?」

「えっ?」

「ちょっと目を離した隙にはぐれるんなて、想定外」


 その頃私たちはと言うと、トウマたちとはぐれたとはまだ分かっておらず、2人で話しつつルークを探していた。


「やっぱり、この人混みで人を探すのは無理があったな……ごめんモラン」

「そんなに謝らないでクリス。それならまた戻って待ってれば、ルーク様とも会えるよ。もしかしたら、もういるかもしれないし」

「そうかな~約束破って、女子の先輩と歩く奴だよ」

「そこは何とも言えないけど……」


 モランは、私の言葉に苦笑いする。

 私はひとまず一度戻ろうと判断し、後ろにいるトウマたちにもそう伝えようと振り返り、そこでトウマたちとはぐれた事に気付いた。

 振り返ったまま動かない私に気付いたモランが、声を掛けて振り返り現状を同じく知る。


「も、もしかして、はぐれた?」

「いつから?」


 私たちは完全にその場で足を止めてしまう。

 モランは知らない内にはぐれてしまった事に、動揺していた。


「ど、どうしようクリス」

「落ち着いてモラン。大丈夫、来た道を戻ればトウマたちとも会えるはず」


 私は冷静に考えて、この道をただまっすぐ来ただけなので、その道を戻って行けば自然とはぐれたトウマたちとも会えると考えていた。

 だが、はぐれてからどれほど時間が経ったのか分からないので、なるべく急いで戻らなければどこかですれ違いになるとも思っていた。

 とりあえず、モランと一緒に周囲を見ながら来た道を戻れば、トウマたちとも再合流できるはず。

 私は直ぐにモランに、その考えを伝え歩き出そうとした時だった。


「おや? もしかして貴方、クリス・フォークロスだったりするかな?」


 突然名前を呼ばれて、私は咄嗟に振り返るとそこに居たのは、エリスであった。

 モランも同じ様に振り返り、声を掛けて来たのがエリスである事に驚いた。


「エリス先輩!?」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃ルークはと言うと、集合時間から20分遅れで待ち合わせ場所に到着していた。


「またエリス先輩に絡まれたら面倒だと思って、別の道に変えて来たが失敗だったな。にしても、あいつらがいないな……来てないなんて事はあり得ないよな」


 ルークはひとまず噴水の時計台近くで座れそうな場所を探し、腰を掛ける。


「(さすがに20分以上の遅刻は言い訳のしようがない……あの2人が帰ってきたら、素直に謝るか……にしても、どこかに行ったのか? いやいや、2人きりでどこかに行くか、あのアリスが?)」


 座りつつルークは、2人の行先を気にしていた。


「も、もしかしてですが、ルーク様?」

「ん?」


 そこに偶然通りかかり声を掛けたのは、ジュリルであった。

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