第70話 寮長と副寮長

「クリス、ヒビキ先輩のこと知ってるの?」

「あの人ヒビキって言うのか。いや、知り合いと言うか、転入初日に女の子だと思われて声掛けられたんだよ……」

「それは何て言うか、うん残念だったね……にしてもヒビキ先輩でも、間違える時とかあるんだね。あの人、臭いとかでその人が良い女の子とか見分けがつく人だから、女の子だと間違えて声を掛けられたクリスは本当に珍しいよ」

「そ、そうなんだ……」


 やばい、思ってたより一番の脅威になりそうな人だな、あのヒビキって言う人は……この先あの人には、あまり近付かないようにしておこう、うん。

 私はガードルの言葉を鵜呑みにしてヒビキの方を見ながら、勝手に脅威判定にしていた。

 するとヒビキの背後から、他の第3学年の先輩たちがぞろぞろと出て来た。


「おい、ヒビキ! 俺様より先に出て目立つんじゃねぇよ! 俺様が一番に出るってさっき話したろうが!」

「いやいや、君みたいな暑苦しい人が出ては、子猫ちゃんたちも引いてしまうだろ、ダイモン」

「お前はいつも、俺様の気に障る様な事を言うな。てめぇの寮長はどう言う教育をしてるんだ?」


 ダイモンと呼ばれた人物は、ヒビキを後ろから押して口喧嘩をし始めた。

 特徴は、赤く炎の様に赤と黄色の髪色に後ろ髪を小さく縛っている所と、一人称が俺様と言う所だとガードルは教えてくれた。

 名前から私は、ライオン寮の寮長だと思い出した。


「おい、ワイズもそう思うだろう。お前からも言っやれ」

「それを我輩に言われても、困ると言うものだ寮長」

「おめぇ、それでも俺様の寮の副寮長か!」

「それとこれとでは、関係がないではないか」


 ワイズと呼ばれた人物は、両目の目元に小さい赤色のひし形の宝石が3つ付いているのが特徴で、ダイモンと同じくライオン寮所属で、副寮長と言われる存在だとガードルは教えてくれた。

 私は副寮長の事が分からず、ガードルに問いかけた。

 ガードルが言うには、副寮長とは寮長の補佐役的な役職らしく、寮長とは真逆の性格の人だったり、几帳面な人やどんな時も寮長を支えられる人がなる役職らしい。


「おい、いつまで出口を塞いでるつもりだ。さっさと進め」

「あ? おい、スニーク。俺様に喧嘩売ってるのか」


 そこに出て来たのは、両手に黒い手袋をはめ、両耳に鈴音がする耳飾りを付けているのが特徴的な人物であった。

 ガードルはスニークと呼ばれた人物は、カモメ寮事エメル寮の副寮長だと教えてくれた。


「当方がそんな事をするわけないだろうが、寮長の命令でもなければお前になど、声すら掛けない」

「何だと! おい、エメルどう言う事だ」

「ダイモン、あまり変に絡むものじゃない」

「そうだぞ、ダイモン。僕はお前のその暑苦し所が、好きじゃない。だからスニークに、さっさと遠ざけるように言ったんだ」


 そう言ってスニークの後ろから出て来たのは、両手に白い手袋をはめ、男子にしては珍しく髪が長く、後頭部でお団子の様にしそこから1つだけ三つ編みにして出しているエメルと呼ばれる人物が出て来た。

 ガードルはエメルと呼ばれる人物が、エメル寮の寮長だと一応教えてくれた。


「スニーク、もうそんな奴は放っておけ。ダイモン、お前は僕にばかりかまっていていいのか? ヒビキの奴は、先に歩いているぞ」

「何! あっ! おいヒビキ、俺様より先を歩くなって言ったろが!」


 とダイモンは、エメルに言われ先に歩いて目立つヒビキに視線を切り替え、走って行ってしまう。


「ワイズ、副寮長ならしっかり寮長の手綱を握るべきじゃないのか?」

「いやいや、お前にそう言われる謂れはない、スニーク。お前こそ、少しは自分の意思で行動するべきではないか?」


 ワイズとスニークが互いに睨み合っていると、エメルが歩き出しスニークに行くぞと声を掛けた。

 スニークは、すぐさまエメルへ返事をしワイズには何も言わずに、エメルの真後ろに付いて歩いて行った。

 それを見たワイズは、軽くため息をつきダイモンの元へと向かい始めた。

 そして、入れ替わる様に降りて来たのは、物凄く眠そうな顔をした人物だった。


「はわぁ~~~あ~~……ねっむ。外明るっ! 早く寮に戻って寝たい、と言うか、このまま中で寝てたい」

「何言ってるんだ。もう降りるんだよ」


 眠そうな人物が、戻ろうとすると後ろから早く出ろと言いつつ背中を押し、押し出した。

 ガードルは、あの2人がスネーク寮事、イルダ寮の寮長と副寮長だと言い、眠そうな顔をして首に目隠しをかけて、右耳に蛇の耳飾りをしている方が寮長のイルダだと教えてくれた。

 また、後ろからイルダを押した人物が副寮長のマルロスだが、その人はこれまでの中で一番インパクトがあり、目元を隠すように鷲の仮面をつけていたのだ。


 それを見た私は、「何あれ」と声を出してしまい、ガードルはそう言う反応になるよねという顔をしていた。

 マルロスが何故目元を隠すような仮面をしているのかは、ガードルも知らずと言うか、学院でも誰も知らないと言われているらしい。

 唯一、寮長のイルダだけは知っているという噂もあるらしい。


「マルロス~寮まで運んでくれよ~」

「自分に甘えないで、しっかりと歩いてくれよイルダ。寮長としての威厳が下がるぞ」

「僕は別にいいよ~と言うか眠いから、寝かせて」

「それが本音か。ダメだ、ほら歩け。自分も疲れてるんだから、わがまま言うな」

「え~……分かったよ~」


 そう言ってイルダはとぼとぼと歩くが、変な方に行くので結局はマルロスが肩を掴み、後ろから押すように一緒に歩いて行った。

 次に現れたのは、眼鏡姿に銀髪で釣り目が特徴の人物であった。

 するとガードルが、口を開いた


「クリス、あれがうちの寮の副寮長だよ。名前を、ミカロス・アンデルセ先輩だ」

「あの人が副寮長」

「うちオービン寮長とか親しい人には、ミカって呼ばれてるんだ」


 するとミカロスは、後ろから誰も来ず中を覗いた後、頭を抱えてため息をついていた。

 そこへ学院の制服を着た、エメラルドグリーンの髪色でショートカットヘアーの女性が近付いて話し掛けていた。

 私がガードルに聞くと、あの女子はうちの第3学年女子生徒で、女帝と呼ばれる凄い人だと言われた。


「どうしたのミカ? 帰って来てそうそう、ため息をつくなんて」

「あぁ、エリスか。あいつがもう乗ってないんだよ、全くいつの間に出て行ったんだ」

「うふふ。彼は、貴方の縛りが嫌になったんじゃないの?」

「そうなら困るのはあいつだ。どうせ、一足先に寮に行ったんだろうが、少しくらい集まった後輩の事も考えて欲しいもんだ」

「彼もたまには、自由にしたいんじゃないの?」

「そうは言っても、やる事がまだあるんだがな」


 そう言ってミカロスとエリスは共に歩いて、学院の中へと入って来た。

 するとガードルが寮長の姿が見えないなと辺りを探すが、見つからずに首を傾げていた。


「ガードル、副寮長たちで最後みたいだな。そのオービン寮長はもう先に行ったとかか?」

「う~ん分かんないけど、そうかもしんないね。いつも副寮長と一緒に居るはずだから、居ると思ったんだけどな~」


 ガードルは両腕を組んで少し唸っていたが、私はそろそろお腹が空いて来て集中力も切れて来たので、大食堂に行こうと提案するとガードルも「そうだな」と言ってその場を後にした。

 その後私たちは、大食堂で昼食を食べた後、再び大図書館で互いに教え合ったりして、昼下がりの鐘の音が鳴るまで行った。

 その日はそこで一旦区切りとして、ガードルはそのままタツミ先生の所に寄ると言ったのでその場で別れた。


 私は借りた本を持って寮へと帰ると、食堂兼リビングの方が騒がしいと気付き、これは第3学年の先輩たちが帰って来たからだろうと直ぐに分かった。

 一応初対面だし挨拶はしておこうと向かった先の通路の曲がり角で、見知らぬ生徒と誰かが何か言い合っている様な声がしたが私が近付いた時には、既に終わっており見知らぬ生徒だけであった。

 その生徒は、軽く頭をかいて「参ったな~」と口に出していた。


「あの」

「ん? あっ、もしかして君が、転入生のクリス君かい?」

「えっ、そうですけど。もしかしてと言うより、第3学年の先輩ですよね?」

「そうだよ。ちなみに俺が、この寮の寮長だよ。よろしく」

「じゃ貴方が、オービンさん? 何かどっかで見たことがある様な……」

「うん。後、さん付けじゃなくて先輩の方がいいかな。さん付けだと何か堅苦しいし」


 オービンは私が想像していたより、接しやすい雰囲気の人で少し私は戸惑ってしまった。

 そしてオービンは手を出して、握手を求めてきたので私も手を出して握手をした。


「よし、これで新しい仲間全員に挨拶も出来たし、一安心かな。どうだいこの寮は?」

「えっと、その、やっと慣れて来た感じです」


 その私の答えにオービンは、「そうかそうか」と笑顔で返してくれた。


「何か困った事とか、相談があれば先輩を頼れよ。俺でもいいし、他の奴でもいいからな」

「は、はい」


 するとそこに、遠くからオービンを見つけたミカロスがやって来た。


「ここに居たのか、オービン。もうすぐ時間だぞ。お前が遅れてどうする」

「えっ、もうそんな時間。まずいな、と言うわけだから、また近いうちに話そうなクリス」


 そう言ってオービンは走って寮の外へと行ってしまう。

 ミカロスも「話してる所すまないな」と言ってその後を付いて行った。

 私は少しあっけに取られていたが、とりあえず寮長と副寮長に顔を見せられたからいいかと思いつつ、皆が騒いでいる方へと向かった。

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