第61話 夏の夜

 一方私は、自室に戻り電気もつけずに月明かりがさす窓を見つめていた。


「はぁ~何か頭の中がぐちゃぐちゃな気分……何て言うか、急に現実を叩きつけられた感じ? はぁ~……」


 私はため息をつきながら、今まで考えていなかった事を急に押し付けられた気分になり、自分でもどうしていいか分からずにただぼーっとしていた。

 すると、見つめていた窓を小さく叩く音がしたので、近付くとそこには私の姿をしたマリアがいた。


「マリア?」

「今、お1人ですか?」

「え、あ、うん。多分皆は、玄関の方で騒いでると思うし」

「では、少しお話をしませんか?」

「……うん。私もマリアと少し話がしたいかも」


 そう言って、私は窓を開けそこから外に出て、宿泊施設の裏手へと移動し、下に座り宿泊施設の壁を背もたれにして月を見ながら、マリアと話始めた。

 話した内容はクラスメイトたちの事や出会った友人たちの事でであった。

 マリアが私と一緒に寮に住む人をもっと教えて欲しいと言い出したので、私はぽつぽつと話し始めたが、徐々に今までの事や騒いだ事を思い出して来て、段々と饒舌になっていた。

 私は自分でも知らない内に、思い出し笑いをするほど楽しく、その事をマリアに話していた。


「アリスお嬢様」

「何、マリア?」

「ご自分でも、ご気付きになってない様なのでお伝えしまうが、今のアリスお嬢様はとてもいい笑顔をしていますよ」

「え?」


 そこでやっと私は、先程まで重い雰囲気であったが今は全くその逆で、とても楽しくて笑いすらする状況になっていたと気付いた。


「アリスお嬢様は先程のお話で、色々と考える事ができてしまったのだと思います。まさしく、この先の事や、王国を襲う存在などですね」

「……うん。何だか、考えれば考えるだけ、わけが分からなくなって、答えが出ないの。考えない様にしても、頭のどこかではそれを考えてしまって、ぼーっとしてしまうのよ。だから、どうしていいか分からなくなっちゃって……」

「それは、アリスお嬢様に限った事ではありませんよ。ご友人も同じ様に悩み、考えているものなのです」

「そうかな? さっきの皆は、そんな感じじゃなかったけど……」


 私は騒ぐトウマたちを思い出していた。

 だが、マリアは軽く首を横に振った。

 突然現実味のある話をされ、動揺しない人などいないとマリアは言う。

 そこで、私の様に考え込んでしまう人もいれば、取りあえず前を向いて歩く人もいれば、誰かと気持ちを共有する人もいると口に出し、人それぞれで考え受けとめていると優しく教えてくれる。


「私は口下手で、アリスお嬢様にうまく伝えられないず申し訳ないです。何が言いたいかと言うと、結論を出す必要はないのですよ。まだ学生である皆様は、これを1つの経験として蓄え、成長していけばいいのです。誰も、大人になれなどと言っていません」

「いや、でも、いずれは考えるのなら、今から考えても……」

「そんな事、この先いくらでも考えられます。それよりも、アリスお嬢様が一緒に過ごして楽しいと思われるご友人たちと、今しか出来ない経験をする方が、絶対にいいです。その縁や経験が、よりアリスお嬢様を立派な一人前にしてくれるものだと、私は思っております」

「マリア……マリアはトウマと同じ様な事を言うのね」

「はい?」


 マリアからの聞き返しに、私は首を横に振って何でもないと言って、立ち上がる。

 私はマリアやトウマの言葉で、勝手に私が何かをしなきゃ、何かを今決めなければと心の底で思い込んでいたのではないかと、気付けた。

 そうだよ、今の私が何かをやる事も、決めることも、誰にも迫られていなんだ! 私は王都メルト魔法学院に通う学生で、月の魔女に憧れて勉学をし、仲間たちと楽しく学生生活を楽しんでいるんだ! 今は、ただそれだけでいいじゃないか。

 それが今の私だし、それ以上でも以下でもない。

 何かあれば、1人でもなく皆がいる。

 皆と一緒に考え乗り越え、時には競って成長していくことこそ、今私が一番考えることだ。


「あー何か、さっきまでの私が馬鹿らしくなって来た! マリアのおかげで、何か吹っ切れた! ありがとうマリア!」

「それはなによりです、アリスお嬢様」

「とりあえず、今から皆の所にちょっと行ってくる」


 そう言って私は、マリアの元を立ち去った。

 マリアは何も言わずに、私を見送ってくれた。


「アリスお嬢様のお力になれて良かった……でも、いいそびれちゃったな。あの狼を殲滅させた事。まぁ、いいか今アリスお嬢様に伝える事ではないし、胸にしまったおこう」


 そう呟き、マリアは自分の宿泊施設へと戻って行った。

 私は宿泊施設の玄関へと回ると、そこでは皆が何か棒や紐状の物を持ち、先端から火花が出ている物をで楽しそうに遊んでいた。


「何あれ?」

「何でお前は、そんな裏から出て来るんだ?」

「タ、タツミ先生」


 ウッドデッキの端で皆を見て休んでいたタツミ先生に、私が遭遇するがタツミ先生は、まあいいかと言って皆の方に視線を戻した。

 私は、タツミ先生にあれは何をしているのかを訊ねると、花火と言い返されたが何だか分からず首を傾げた。

 タツミ先生は花火を簡単に説明してくれ、先端に火薬が着いた棒などを手で持って、火をつけて綺麗な火を見たりして楽しむ娯楽道具と教えてくれた。

 すると遠くからトウマが私を見つけ、私にも参加したら面白ぞと声を掛けて来た。

 私はタツミ先生の方をチラッと見ると、タツミ先生はさっさと行けと言う様な仕草をしたので、私はトウマたちの方へと駆け寄って花火を教えてもらい、私は皆と一緒に花火を楽しんだ。


「学生ライフを満喫してるって感じだな~」

「あんたも、混じって来ればいいじゃねぇか」

「まだ動くなって言ったろ、ルーク」


 タツミ先生の真横に手当されたルークが宿泊施設から出て来て、声を掛け壁に背を付けた。


「動けるなら、お前こそ混じって来いよ」

「そう言うタイプじゃないのは、分かってるだろ。それより……」

「面倒臭い事は、大人に任せとけばいいんだよ。それ以上は答えん。分かったら、さっさと戻って休め」

「……」


 ルークはタツミ先生の返答に黙ったまま振り返り、宿泊施設の中へと戻って行った。

 それを横目で見たタツミ先生は、小さなため息をつき呟いた。


「変に、今回の事がこじれなければいいが……」


 その日の夜は、オービン寮の生徒たちは花火を持ち、様々な火花を散らし夏の夜を小さく彩った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 次の日私たちは、朝食後宿泊施設の外に集められていた。


「あれ? 今日はカリキュラムないんだよね?」

「そ、そのはずだけど……」


 私はトウマに小声で確認するが、トウマは自信なさげに答えた。

 すると先頭に立った教員が、一度咳払いすると今日の予定を話しだした。


「本日で合同合宿も最終日だ。今日まで色々あったが、よくぞ今日までやり抜いた。そこで、今日は1日自由時間とする!」

「……え」


 教員の言葉に私たちは、直ぐに理解出来ず聞き返していた。


「だから、自由時間だ。浜辺で過ごすもよし、ゆっくり体を休めるもよしだ。ただし、宿泊施設周辺か、近くの浜辺のみでだ」

「「やったーー!」」


 トウマを筆頭に、大きく喜びの声を上げ騒ぎ出す。

 教員はそれを沈め、簡単に注意事項を述べた後に解散となった。

 ちなみに、女子側も同じく自由時間らしく既に、浜辺で遊んでいると聞いたライラックとリーガは直ぐに自室に戻り水着に早着替えして、浜辺へと走って行った。

 その後は皆自由に動き、水着に着替えて浜辺へ行く奴や、木陰にあるハンモックで昼寝する奴、ウッドデッキで買い込んだ食い物を食べる奴と色々だった。

 私はウッドデッキにあるベンチで、ゆっくりとしてようかと思っているとトウマに声を掛けられた。


「おいクリス、まさかそんな場所で休んで、おしまいじゃないよな?」

「え?」

「おいおい、夏で海と言ったら水着だろ! 行くぞ海!」

「えー! いやいや、俺はいいって! その、水着持ってきてないし」

「何恥ずかしがってんだ! 水着は浜辺にある小屋で貸し出してくれてるらしいから、心配するなって! ほら、行くぞ!」

「ちょ、ちょっとトウマ」


 トウマは私の腕を掴み、引きずる様に浜辺へと連れていかれた。

 嘘でしょ! 私男物の水着なんて着れないよ! てか、この状況女ってバレるんじゃ!? 絶対に無理ーー!

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