第42話 合同合宿カリキュラム初日

「諸君、おはよう。既に話は聞いているかと思うが、ここで改めて簡単に今回の合同合宿の目的を伝えておく」


 そう言って私たちの前で、この島を管理している主任が話し始めた。

 王都メルト魔法学院とクレイス魔法学院で行う今回の合同合宿の目的は、互いに基礎能力及び、学力を高め合うためであった。

 合同合宿期間は10日間あり、全てのカリキュラムは男女別々ではあるが、学院混合チームとして取り組む事になった。

 また、基本的には男女別々で行うが、男女関係なく会話などを通じで、互いの仲は積極的に深めて欲しいと言われた。


 その後、ランダムで組み合わされたチームが発表された。

 ちなみにチームメンバー数は、どのチームも6名であった。

 私のチームメンバーは、シン・ガードル・ガイルとクレイス魔法学院の男子生徒2名であった。

 2人の名前は、ベンとマイクと言い、各自自己紹介を始めた。

 すると、ガイルが思い出したかの様に口を開いた。


「そう言えばクリスって、クレイス魔法学院からの転校生だったよな? その2人共知り合いなのか?」

「えっ」


 まさかガイルが、その質問をしてくるとは思っておらず、一番驚いてしまった。

 チームメンバー的に、その質問は出てこないだろうと思っていた所だったので、不意打ちをくらった感じであった。

 するとベントとマイクが、私の顔をじっと見て来た。


「そうなのか? それは、初知りだな。うちは男子生徒が少ないから、だいたいは知り合いみたいなんだが、見た事ないなあんたは」

「確かにそうだな。見た事なし、聞いた事ない名前だな」

「はぁ~ん、だってよクリス。まさかお前、嘘ついてたりするんじゃねぇよな」


 ガイルはそれを聞くと、グイグイと迫って来るように言い始めるが、それは事前に打ち合わせ済みの回答を返した。

 すると、ベンもマイクもあ~なるほど、と納得した表情をしていた。

 何故かその答えに、ガイルが舌打ちをして私から離れて行った。

 どうしてお前がそこで舌打ちするんだよ。

 意味が分からんぞ、ヴァンではないんだしさ……。

 私はそんな事を考えていると、ガードルが話し掛けて来た。


「あんまりあいつを嫌わないでくれ、クリス。あいつ人付き合いが下手でさ、変な態度とか悪態つく様な接し方しかできないんだよ」

「そうなんだ。でも、よくそれでナンパとかしてるよね」

「あ~よく言われるんだが、男子と女子とで態度が変わるんだよ、あいつ。まぁ、それも先輩の影響なんだけどさ……でも、悪い奴じゃないから。そこは、覚えといて欲しんだ」

「まぁ、俺もそんなにガイルと付き合いがあるわけじゃないが、ナンパばかりしたり教員に怒られたりと、悪目立ちするだろあいつ。いかにガードルが同室だからと言って、別にそこまであいつを庇う必要はないんじゃないか?」


 私はガードルにそう言った後、少し嫌な言い方をしたなと後悔した。

 だが、ガードルは初等部の頃からの付き合いらしく、友人だからと笑顔で答えた。


 ガードルは、クラスでは用意周到な男と言われている。

 その由縁はいつも持ち歩いている、斜めかけのバックであり、そこにはどんな時にも役立つ道具が入っていたり、予備としての道具を常に持ち歩いているためだ。

 魔力より、学力の方が成績はよくて、記憶力もいいと評判である生徒だ。

 また、彼は将来は医者を目指しているらしく、医学の知識が豊富であり医者の卵とも呼ばれている。


 私はガードルに直ぐに、少し言い方が良くなかったと謝罪をした。

 ガードルは全く気にはしておらず、そういう風に彼が見られているのは知ってるよと言いながら、苦笑いをした。

 それから数分後、暫くチーム内で話して少し打ち解けて来た所で、男女別々に違う場所に移動すると初日のカリキュラムが発表になった。


「それではこれより、初日のカリキュラムを発表する。男子の初日は、チーム探索だ」


 そう発表されると、各チームに地図が配られた。

 そこには、それぞれの場所に5つの宝石の様なマークが印されていた。

 混合男子チームは全5チームあり、それぞれのチームカラーが設定され、今回は同色の印がある場所に行き、指定の物を回収してくる内容であった。

 事前に教員によって対象物は配置されているが、簡単に見つからない様にされているので、協力していち早く持ち帰って来る様にと言い渡されれる。

 いち早く帰って来たチームには、ご褒美も用意してあると言われ、各チームが盛り上がる。


「それでは、これより初日のカリキュラムを開始する。スタート!」


 教員の合図と共に、各チームは四方に散らばって行った。

 私たちのチームカラーは赤であり、貰った地図に印された場所は、島の中心近くにある洞窟付近であった。

 貰った地図には、行き方などは載っていない為、ひとまず道なりで進み始めると、途中でガイルが立ち止まった。

 それに気付いたガードルが、声を掛けるも全く反応しなかったので、ガードルも足を止めもう一度呼びかけると返答が帰って来た。


「おいお前ら! どこまで行くんだ! 島の中心に行くなら、ここを突っ切って方が速い!」


 チーム全員がどういう事だ、と首を傾げているとガイルはうまく説明出来ないのか、髪をかきむしりいいから付いて来い! と大声を上げて道を外れて、森の方へと歩いて行ってしまう。

 勝手に行ってしまうガイルを見捨てておけず、止めることも出来なかったので、チーム全員でとりあえず追いかけた。

 そして何とか追いつき、ひとまず説明をして欲しいと、ガードルが肩を掴んで頼むと、ガイルは立ち止まった。


「ガイル、急に勝手な行動されると困るよ。今回は、他の学院の人もいるし、迷惑かけちゃだめだろ。とりあえず、説明してくれないか?」

「うぅっ……」


 ガイルの顔は、いかにも嫌そうな顔をしており、私はそれを横目にベンとマイクをチラッと見ると、明らかに不機嫌な顔をしていた。

 それはそうだよな、仲良くやろうとしているのに、相手は全く心を開かないし、勝手な行動すると来たらそうなるのは必然的だ。

 これ以上関係が悪くなるのは、この後の合同合宿にも支障がでると思い、私からもガードル同様に説明を求めた。

 するとガイルは、小さく分かったと呟いた。

 それを聞き、私とガードルは安堵の息をついた。


「それで、どうしてこんな行動を取ったんだ?」

「それはだな……その、事前に調べたんだよ、この島についてのあらゆることを。ここにある物から植物、食べ物、生物、地形まで全てな」

「えっ、マジ?」

「嘘じゃねぇぞ! 俺は本気で調べて、ここに叩き込んで来てるんだ! だから、何がどこにあって、どう行けば辿り着けるか知ってるんだよ」


 ガイルは、自分の頭に指を当てながら答えた。

 でも、どこでそんな知識をと言うより、どうしててそんな知識を叩き込んだのか不思議でしょうがなかったが、それはガードルも同じだったらしく、直ぐに質問するとガイルは、物凄く恥ずかしそうに答えた。


「な、ナンパの為だよ! 悪いか! 師匠には、どこか行く時には、その場所の事はありとあらゆる事を事前に調べ、完璧にして臨めって教えてもらってるんだよ! だから俺も、今回ここに行くって聞いてから、ありとあらゆる本を漁って覚えたんだ」

「ぷっ」


 すると、後ろの方でベンやマイクが小さく笑いを噴き出していた。


「それが本当なら凄いけど……もしかして、昨日の散策時に確認してたりした?」

「当たり前だろ! でなきゃ、こんな堂々と言えるか馬鹿!」

「ば、馬鹿とはなんだよ! 別にそこまで言う事ないだろ」

「うっさい! 俺を疑うお前が悪いんだよ、クリス!」


 私とガイルが口喧嘩を始めると、すかさずガードルが止めに入って来た。

 ひとまず喧嘩も治まり、ガードルがベンやマイクにも説明し納得してもらい、ガイルを先頭に再び歩き出した。

 それ以降はガイルは、男と話す事なんてないねと突っぱねた態度で、ほとんど話す事無く進んでいた。

 私もその態度にムカつき、謝らない限り口は聞いてやんないと言う態度で歩いていると、後ろで何故か俯いて歩くシンが目に入った。


 それが気になって声を掛けようとしたが、その後ろからベンとマイクから話し掛けられていたので、間に入ってシンが頷きしか出来ない事を伝えようとすると、何故か会話が成立している感じに見えたのでやめた。

 そう言えば以前ルークが、シンはクレイス魔法学院からの生徒交換で来ていることを思い出し、もしかしたら、その時に会っていた友人なのかもと勝手に思い込んで、先頭を向きガイルとガードルに付いて行った。

 それから山道を登ること30分、遂に目的の洞窟付近だとガイルが言ったので、全員で洞窟を探しているとガードルが見つけたのでそっちに集合した。


「ここが、洞窟か……かなり大きいし、奥は暗くて全く見えないな」

「とりあえず、この周辺に対象の物があると思うし、皆で手分けして探してみないか?」


 ガードルの提案に全員が賛同し、2人ずつに分かれて探索した。

 数十分後、再び洞窟前に集まって情報交換するも、誰もそれを見つけることが出来ずにいた。


「そもそも、指定の物ってなんだ?」

「確かに、正確にこれと言われなかったな。勝手に地図に書かれている、宝石が隠されていると思ってたけど」

「それは俺も思った。でも、魔力を使って探したり、魔法も使ったがこの辺りに全く反応はなかったな」


 ベンやマイクは、既に能力を使って探していたらしく、私たちはつまずいていた。

 するとガイルが、ここにないなら洞窟の中だろと言い出した。

 それは確かに私も一理あると思ったが、さすがに、こんな危険そうな洞窟中まで入って探させるかと、少し疑問に思っていた。

 だが、ベンやマイクはそうかもしれないなと、ガイルの意見に賛同していた。


 シンは難しい顔をしていたので、洞窟に入るのは反対そうに見えたが、ガードルは暫く考えた後、一応調べてみる価値はあると口にした。

 その時点で、洞窟調査に賛同者が半数を超えていたが、私はもう少しこの周囲を探索すべきだと発言した。

 洞窟の危険性やヒントを見逃している可能性を提示したが、ガイルは無視して洞窟へと入って行ってしまう。


「おい、ガイル! また勝手な行動をして。と、とりあえず俺はガイルを追うよ。他の皆はここで待ってて」


 そう言い残し、ガードルはガイルを追って、洞窟に入っていた。

 するとベンやマイクは、私たちの方を向いて、ここでチームがバラバラになるのは良くない気がすると、行くなら全員で同行すべきと提案して来た。

 私も確かにチームがバラバラになり、何か事故が起こると面倒だと考えた為、渋々その提案に乗った。

 シンも少し怯えるように頷いていた。


「それじゃ、急いで後を追いかけよう」

「あぁ、そうだな」


 ベンとマイクを先頭に私とシンは、走ってガイルとガードルの後を追って行った。

 この時私は、自分が周囲に注意して、何かあれば臨機応変に対応すれば大丈夫だろうと、軽く思っていた。

 だが、その判断が自分の命を脅かす事になるとは、この時は思いもしなかった。

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