第36話 決戦の日

 そして、ルークと約束してから3日後の当日になった。

 私にとっては決戦の日だ。

 事前に購入した服は、街内で預屋を見つけたので、そこに預けているので持っていく物はない。

 とりあえず私服に着替えて、その預屋へと向かう為、自室を出て寮の入口を目指し歩いていると、朝食帰りのトウマと出くわした。


「クリス。珍しいな私服なんて。どっか出かけるのか?」

「あ、あぁ。ちょっとな。じゃ、俺急ぐから」


 そう言って、トウマに変に感づかれない様に急ぎ足でその場を離れて、寮の入口へと向かった。

 トウマは、私の後ろ姿を見て、朝から何を焦ってどこに行くのか一瞬気になったが、そのまま自室へと帰った。

 自室に戻ると、ベッドに座り今日は何をするかとぼーっと考えていると、ふと私の机が目に入った。

 トウマは、周囲に誰もいない事を確認し、念のため廊下にも誰もいない事を確認した後、私の机に近付いてまじまじと見ていた。


「はっ! 俺は今何をしていたんだ!」


 突然トウマは、机から離れて自身にビンタをして、冷静さを取り戻していた。


「まさか無意識にクリスの机を見てしまうとは……ん?」


 その時、私の机の上にあった暦が書かれた紙に、今日に丸がついているのを見つけてしまう。

 何だと思い、もう一度近付いてみると、そこにはルークと小さく書かれているのを見つけ、目の色が変わった。

 惨劇の打ち上げ時に、言っていた事を思い出し、今日焦って出て行ったクリスとも結びついてしまう。


「ま、まさか! 今日が、前に言ってた賭け事で負けて、ルークの用事に付き合う日なのか!? という事は、クリスの奴はルークと2人きりで会うのか!」


 衝撃的な事実を知ったトウマは、自分のベッドへと倒れる。

 だが、直ぐに起き上がった。


「こうしちゃいられない! ルークの奴は、昔から悪戯となると度が過ぎる事があるんだ! 下手したら、クリスが嫌な目に遭うかもしれない。そうならない様に俺が監視して、変な事をしないかルークを見なければ! ルークをだ! 決して、クリスを尾行して、何してるか気にしてるわけじゃない。そう、これはルームメイトとしての気遣いでもあり、親友が道を外さない様に見守るだけだ」


 なぜかトウマは、誰にも聞かれていないのに、言い訳の様な言葉を並べ終えると、すぐさま私服に着替えてクリスの後を追いかけた。

 そして寮の入口から外に出たところで、誰かとぶつかってしまう。

 トウマは走って飛び出していたので、自分に非があると分かっていたので、直ぐに頭を下げると相手が聞いたことのある声だったので、顔を上げた。

 そこにいたのは、何故かレオンであった。


「お前は確か、ライオン寮の……レオンだったか? 何でうちの寮の前にいるんだ?」

「名前を覚えてもらえていて嬉しいよ、トウマ。今日は、クリスに会いに来たんだよ。この前バッタリ校内で会った時、魔力に関していくつか聞かれたから、今日はその話の続きをしようとおもってね」


 ふーんと答えるとトウマは、クリスがいない事をレオンに伝えると、そうか残念と言って帰ろうと振り返る。

 そこで、トウマはレオンも連れて行ったら尾行とかで役に立つかもと思い、レオンに声を掛けた。


「なぁ、お前今日暇か? 暇なら少し俺に付き合ってくれよ」

「特にやる事はないから、全然いいけど、何かするのか?」

「えーっとな……そのルークって奴がいるんだけど、そいつが最近付き合いが悪いから、何してるか尾行しようと思ってて、良かったらどうかな~って」


 トウマはクリスがいる事を伏せて、あえてルークを尾行すると言ってレオンを誘う。

 尾行と堂々と言ってしまったので、さすがにレオンも乗ってこないだろうと思いつつ、ダメもとで声を掛けていた。


「尾行って言うのは、聞き逃せないんだけど。その前に、1つ聞きたいんだけど、ルークって言うのは、この国の第二王子の事だったりする?」

「えっ、そうだけど。レオンはルークと会ったことないんだっけ?」

「あぁ、名前は知ってるんだけど、まだはっきりと顔を見たことなくてね。もしかしたら、合ってるのかもしれないけど、僕顔と名前がまだ一致してない人もいるからさ」

「そうなのか。じゃ、俺について来れば、ルークが誰だか分かるな」

「はぁー、確かにそういう事になるね。分かったよ。でも、相手にもプライベートってのはあるから、本当に遠くから見るだけだからな。僕は、君が変な事をしない様に見張る為にも付いて行くことだけは、忘れないでね」

「オッケー、オッケー。よし、これで頼もしい仲間が増えたぞ!」


 トウマが張り切って声を出していると、レオンが仲間ではないよと優しく突っ込んでいた。

 そのまま2人は、トウマを先頭に街へと繰り出した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 時刻は正午近く、場所は王都メルト魔法学院がある街こと、王都ジェルバンス。

 ジェルバンス内でも、よく人と待ち合わせをする場所として有名な、噴水の時計台の前に私服のルークが本を読みながら腰掛けに寄りかかり、クリスの到着を待っていた。


 そんなルークの姿を、近くの喫茶店で飲み物を飲みながらトウマとレオンが、サングラスで顔を隠して見つめていた。

 ちなみに、ずっと見ているのはトウマだけで、レオンはメニューから美味しそうな茶菓子を頼み、それを食べながらちらちらと見ていた。


「トウマさ、そんなにずっと見てたら、気付かれるでしょ。少しは、普通の客らしく振舞ったら?」

「大丈夫だよ。他からどう見られても、あいつにバレなけばいいんだ」

「君は良くても、僕が他の人からの視線に耐えられないんだけど」


 そう言ってレオンが、背中に突き刺さる様な視線をトウマに訴えるも、空返事で返されて終わる。

 レオンがため息をついて、茶菓子を食べていると、ルークに変化があったらしくトウマが声を上げた。

 何事かとレオンも見ると、ルークの近くに見知らぬ美少女が近寄り、何やら楽しげに話している所であった。


「あいつ、いつの間にあんな可愛い子とお知り合いになってやがったんだ! 俺は聞いてないぞ!」

「それこそ、プライベートでしょ。と言うか、この国の第二王子になれば、普通なんじゃないの?」


 レオンが視線を戻し、茶菓子に手を付けて食べようとした時、後ろから声を掛けられる。


「何やら、変な2人組みがいると聞いて見に来たら、貴方でしたのレオン。それに……誰かしら」


 聞き覚えのある声に、レオンがゆっくりと振り返ると、そこにいたのはジュリルであった。


「ジュ、ジュリル様? 何故、こんな所に?」

「何故って、ここは私の行きつけの店ですから。訪れるのは普通の事ではないかしら」


 動揺した態度でレオンが尋ねると、あっさり答えられ、焦るレオン。

 レオンにとってジュリルは、雇い主の様な関係の為、何か失態などするとジュリルにも話が伝わり、怒られるためレオンはジュリルを恐れているのだ。

 一方、トウマもジュリルの存在に気付き驚いた。


 ジュリルがトウマの事を聞き、そこでルークと同じ寮の人だと初めて認識していた。

 そして、何をしているのか問われ、言葉に詰まるレオンに代わり、トウマがルークの尾行と答えた直後、先程見た女性と一緒に居たことを伝えると、ジュリルの表情が変わる。

 すると、トウマが持っていた望遠鏡を奪い取り、ルークがいる場所を見て愕然とする。


「う、う、嘘ですわ。そんな、ルーク様に女性がいたなんて、聞いていませんわ! ちょっと、そこの自称親友! どいう事ですの!」

「いや、俺だって初めて知ったわ! というか、そもそも彼女かもまだ分からねえから」

「そ、そうですの? あの女狐が、ルーク様のお相手ではないのですね!」


 物凄い前のめりにトウマに近付き、確認をすると勢いに負けトウマもたぶんなと答える。

 するとレオンが何か思いついたのか、ジュリルに提案した。


「ジュリル様、もしよければ僕たちとルークを尾行しませんか? ジュリル様も彼の事が気になるのでしたら、あの女性が誰か知る事も出来るかもしれませんよ?」

「なるほど、一理ありますわね。いいでしょう、ルーク様に付きまとうあの女狐の事を知る為に、私も加わってあげましょう。ですがレオン、後で何故こんな事をしていたのか、詳しく教えてもらいますからね」

「えっ……あ、はい……」


 と言う突然の展開で、ジュリルが加わり3人でルークを尾行する事になるのだった。

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