第31話 第一期期末試験⑤~ニックの実力~
リーグ1の第1戦目は、開始数秒で決着がついた。
私が放った円錐が、ガウェンのゴーレムの核を貫いたことで、ゴーレムは消滅し周囲が驚く中、私の勝利となり終了した。
その後数分は、ゴーレムと石の塊の補充時間があり、次の対戦までは時間がある流れになっていた。
私はドームを出る前に、反対側から来たガウェンに引き留められた。
「まさか、魔力の同時使用だけでなく、あんな技を出して来るとは、恐れ入ったよ」
「あれは知られていなかったから、出来た技さ。もし次に君と対戦したら、負けるのは俺さ。君に勝つにはこれしかないからね」
「なるほどな。だが、勝負は勝負、お前の戦略勝ちと言った所か」
その後、ガウェンと互いを称えあう握手をして、ドーム外へと出た。
外にはルークとニック以外に、数名の生徒が集まっていた。
たぶんこれは、私の魔力の同時使用を見た奴から聞きつけ、集まって来ているんじゃないかと思っていた。
案の定、ざわつく会話で同時使用と言う言葉が、聞こえていた。
するとニックが話し掛けて来た。
「お前、魔力の同時使用は元から出来たのか? それとも、出来るようになったのか?」
「えっ…そうだな、出来るようになったが正しいかな」
「そうか」
それだけ聞くと、ニックはドームの中へと入って行った。
そしてルークはと言うと、私に何も話し掛けずにニックの後に続いて、ドームへと入って行った。
だが、その時のルークの顔を見て私は少し怖いと思ってしまった。
その時のルーク表情は、笑いがこらえきれない様な表情で、不敵な顔をしていたのだ。
想像では、突っかかって来ると思っていたが、そんな事もされないので私は、イラついているのかと勝手に思い込んだ。
そして試験準備が完了すると、直ぐに第2戦目のルークとニックの勝負が始まった。
この勝負も、始まった数秒で決着がついたのだ。
勝者はルークであり、ルークは魔法のバーストを最大威力で相手に食らわせ、ニックのゴーレムを全損させたのだ。
傍から見れば、圧勝の様に見えたが私はニックは、この勝負自体を初めから捨てているような雰囲気を感じていた。
その後私は、ルークと入れ替わる様にドームへと入った。
その時ルークとすれ違ったが、何も話し掛けられることがなく、いつもなら一言くらい何か言うのにと、いつもと違うルークに少し違和感を覚えつつも、ニックとの対戦に意識を切り替えた。
所定の場所についたが、まだ試合準備中であったので、改めてニックの対策を振り返った。
ニックの実力は、普段の授業からは全く分からない。
何故なら、いつもやる気がなさそうに授業を受けつつ、平均的な力でこなすからである。
なので私は、大図書館にて過去の資料を漁り、一度ニックの実力について調べた事がある。
大図書館には、過去の試験結果などが簡易的だが保存されており、閲覧する事が出来るのだ。
そこで得られた情報としては、彼の魔力分類で長けているのは、私と同じく魔力技量であると判明した。
だが、それ以外に詳しい情報を得る事は出来ず、あくまで可能性として考えられる情報しか得られなかった。
現時点である情報から推察し、私と彼は似たタイプであると仮定するならば、勝てる確率は高い。
魔力技量同士の戦いであるならば、どれだけゴーレムを強化させ、相手より一手でも多く攻撃を出来るかで決まる。
なのでニックとの対戦は、技量の速さと、どれだけ魔力を貯められゴーレムを動かせるかにかかってる。
戦略を確認している内に、試合準備が整い、教員から開始前の確認が入った。
私もニックも頷き了承すると、3分間の試合準備時間が言い渡された。
上空の残り時間が減り始めたのと同時に、私はガウェンの時と同じ様に、ゴーレムへの魔力貯めと石の塊からの武装を創り始めた。
一方ニックは、ゴーレムへの魔力貯めに集中していた。
それから2分が経過すると、私はゴーレムの武装も完了したが、ニックの方も同時に武装が完了していた。
私のゴーレムには、戦闘中も技量で変化させやすい、スタンダードに剣と盾を装備させ、核周辺の防具を厚くした。
ニックの方は、両手にガントレットの様な装備をさせ、何故か背中に、石の塊を削り長方形にしたものを装備させていた。
謎の装備に一瞬戸惑ったが、開始時間が迫っていたので、深くは考えなかった。
そして、3分間の試合準備時間が終了し、開始の鐘の合図が鳴る。
合図と同時に、ニックのゴーレムが拳を構えて突っ込んで来る。
私も遅れて盾を前に構えて突っ込ませた。
ぶつかり合うとニック拳を、私は盾で防いで剣で頭部目掛けて切り抜くが、姿勢を低くしてかわされる。
そこから胴部目掛けて拳が叩き込まれるが、予め胴部には防具を装備させていたので、大きな損害はなかった。
私は、魔法の『メタル』を使用して剣と盾をの強度を高め、剣で降りかかるが、ニックも瞬時にガントレットの強度を高めると剣を殴り、破壊した。
咄嗟に破壊された剣を盾に創り直しつつ、一旦後退させるが、ニックは逃さず追撃に来た。
間に合わない!
そう直感した私は、一時的に魔力技量を中止し、魔力創造に切り替え地面から垂直に壁を創りだし、ニックの追撃を防いだ。
その間に剣から盾に創り直しが完了したが、ニックは直ぐに壁を破壊して殴り掛かって来た。
そこからは、攻防戦となったが、徐々に私はとある違和感を感じ始めた。
それは、ニックのゴーレムの動きが全く衰えないことだ。
事前の3分間の魔力貯めを見た限り、ニックは私以下の魔力量しか貯めていないはずなのだが、一向にゴーレムが衰えていないどころか、動きが良くなりつつある。
今までの戦い方を考えれば、私より魔力消費は多いはずなのに、私の方が既に衰え始めているのは普通におかしいのだ。
何が起こっているのか、一瞬ニックの方を見た時に、何かを唱え続けているのが分かり、カラクリが解けた。
「っ! まさか、あれは詠唱魔法か……ニックの奴、そんな高等魔法が使えたのか」
詠唱魔法とは、普通の魔法とは違い、決まった呪文を唱える事で力を発動できる魔法だ。
しかし、詠唱魔法を使えるのは限られた一族であったり、使える者からの継承以外に使える者はいない、高等魔法に分類されるものだ。
まさかそれをニックが使えるとは、想定外過ぎ対処方法など考えられなかった。
あまり詠唱魔法の事は分からないが、たぶんニックが使っているのは『持続的魔力提供』だろう。
自身の内部で創りだされる魔力を、対象に与え続けるという魔法だ。
それならば、今の現状に納得がいくが、この状況からの勝利は厳しすぎる。
すると突然ニックは、詠唱魔法を中断して、ゴーレムを後退させた。
それを見て私は、チャンスはここしかないと思い、ガウェン戦で行った音速で核までをも貫く攻撃準備に入る。
ニックはゴーレムを後退させると同時に、魔法を唱えた。
「エレメント」
「っ!?」
その唱えた魔法に、私は再び驚いた。
唱えられた『エレメント』と言う魔法も、高等魔法に分類されるものだったからだ。
ニックが唱え終えると、ゴーレムの背後に火・地・風・水の魔力の塊が小さな球となり出現する。
そのまま4つの球は、ニックのゴーレムの背中に装備していた石の塊を削った長方形に、はめ込まれる様に入った。
直後、ニックのゴーレムは両腕を突き出すと、4つの魔力が私目掛けて一気に放たれた。
私のゴーレムは、放たれた魔力に一瞬で飲み込まれ、消失していまい、敗北が決まってしまう。
まさに一瞬の出来事で、直ぐに私は理解出来ずにいたが、教員から決着を言い渡されると、負けたのだと理解した。
私とニックは、次試合のルークとガウェンと入れ替わり、芝生の上に座りニックに話し掛けた。
「おいニック。お前、詠唱魔法の他にエレメントまで使えるなんて、どういう事だよ?」
「どうもこうもない。習得したから使える、それだけだ」
「じゃ、何で初戦でそれを使わないんだ」
「お前は、負けると分かっている相手に全力を出すのか? 俺は出さない。それも試験で、その後も誰かと戦うと考えた時、勝てる奴に必ず勝てる力を残すのを選択する。そういう訳だ」
少し納得がいかなかったが、ニックは挑戦するよりも、確実さを取って試験に臨んでいるのだと思った。
そこでやっと、ニックがルークに次ぐ実力者と言う意味を、身をもって理解した。
その後、私は最終戦まで戦略を考え直し、ルークに勝つ戦略を練り続けると、あっという間に第5戦目まで終了していた。
そして遂に、最終戦である私とルークとの直接対決の時がやって来た。
リーグ1の第5戦目終了時の順位
1位 ルーク 2勝0敗
2位 ニック 2勝1敗
3位 クリス 1勝1敗
4位 ガウェン 0勝3敗
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます