第29話 第一期期末試験③~釘をさされる~

 大食堂にて学科試験の結果を見た後、私は大図書館に寄って行くと言ってトウマたちと別れた。

 私は大図書館にて、同時魔力発動に関する書籍を集め読んでいると、そこにモランが現れた。


「クリス君。見たよ、学科試験の順位。凄いね、あのルーク王子を抜いて1位なんて」

「ありがとう、モラン。でも、まだあいつに勝ったわけじゃない。あいつも順位的には2位で、点数も離れているわけじゃないからね」

「そっか、クリス君はルーク王子に勝つつもりなんだね?」

「そうだ。あいつに勝って、自分がいつでも高みにいられる訳じゃないって、分からせてやるんだ」

「凄いなクリス君は」


 そう言って、何故かモランは私の隣に座った。

 私はどうして前の席や他の席も開いているのに、私の隣に座ったのか分からずにいると、モランがぐっと顔を近付けて来た。


「その、いきなりなんだけど…その…」

「?」


 突然の事に驚いていたが、何故かモランは少しもじもじして、言葉を詰まらせていた。

 そのまま私はモランが何を言うのか待っていると、モランが小さく深呼吸した。


「もし、私が今回の期末試験でクラス上位5番目に入ったら、買い物とか付き合ってくれないかな?」


 モランの上目使いの可愛いお願いに、私は胸を打たれてしまう。

 私は冷静を装って、いいよと返事をすると、モランがとても嬉しそうな顔で、小さくやったと言っていた。

 その姿も見て、私はなんて可愛い子なんだろうと思っていた。


 するとモランは立ち上がり、魔力訓練場で実力試験に向けて練習してくると、張り切って私に言ってその場から去って行った。

 そんな張り切る姿を見て、私も頑張ろっと意識を改めて本を読んでいると、次にジュリルが現れた。


「おや、ここで会うのは珍しいわね、クリス」

「ん? おぉ、ジュリル。確かに、こんな所で会うのは珍しいね」


 私とジュリルの会話に何故か不満そうな顔をした子と、それを優しく見守る人がジュリルの後ろにいた。

 見るからに、ジュリルの友人なのかと思われる2人組みだった。

 すると、私の方を不満そうに見つめていた、橙色でショートカットヘアーが特徴の女子がジュリルに問いかけた。


「ねぇ、ジュリル。親しそうに話すその男子は、誰?」

「ごめんなさい。ウィル、マートル、紹介するわ。こちらは、ルーク様と同じ寮で同学年の、クリス・フォークロスよ。最近とある出来事で、仲良くしているの」


 ジュリルの紹介に、私は席を立って改めて自己紹介をした。

 すると橙色でショートカットヘアーのウィルは、ちょっとそっけなさそうによろしくと言い、紅色のポニーテールヘアーのマートルは礼儀正しく挨拶してくれた。

 ジュリルが簡単に2人との関係を、教えてくれた。


 ウィルは、第1学年の時に同じクラスで、最終期末試験でジュリルに次いで2位という成績で、今のクラスはソーダライトであった。

 そして、マートルも第1学年の時に同じクラスで、最終期末試験では3位という成績で、今のクラスはジェムシリカだそうだ。

 2人もとジュリルとは、授業を通し互いに切磋琢磨し合ってきたので、今でも仲が良く一緒に居る事が多いんだと。


「クリス君と言ったね。どこかで見た事がある名前だと思ったけど、ルーク王子と同じ寮と聞いてピンと来たよ。今年の学科試験でルーク王子に、勝っている男子だね」

「なっ! ルーク王子に勝っているだと!? 本当なの、マートル?」

「全くウィルは、さっきジュリルと一緒に学科試験の結果見たろ」

「見たけど、別に男子側に興味ないし、私はジュリルに勝ってるか見ただけだし。まぁ、負けてたんだけど…」

「こらこら、2人共ここであまり言い争いはしないように。他の方もいるのですから」


 ジュリルに注意され、2人はすぐに謝っていた。

 私は今日はどうして大図書館に来たのか、ジュリルに聞くと、2人と学科試験の復習でもしようかと話になっていたらしく、訪れていたのだと教えてくれた。

 これはあまり私で時間を取らせるのも、申し訳ないと思って、よく大図書館に来ている私はおすすめの場所を教えた。


 ジュリルは素直に、その場所へ行ってみますと言って挨拶をして、その場から去って行った。

 マートルも軽く会釈をしてジュリルの後を付いてくが、何故かウィルは私の方を睨んでいた。

 そして軽く顔を近付けて来て、小声で話し掛けて来た。


「お前がどんな男で、どんな汚い手段でジュリルと仲良くなったかは知らんが、あんまりジュリルに近寄んなよ。もし、手でも出そうもんなら、分かっているよな…」

「……別に、そんなやましい事なんか考えてねぇよ」

「ふん、どうだか。一応、忠告したからな」


 そう言ってウィルは、小走りでジュリルとマートルを追いかけて行った。

 私はその場で小さなため息をつきながら、席に座った。

 まさか、そんな勘違いをされるとは、困ったもんだ……私は女性だぞ、彼女に手を出すわけないだろ。

 まぁ、今はクリスとしているから、そう見えるんだろうけど…そんなに分からないもんなの? いや、バレていないのは、いいことなんだけど。

 ここまで来ると、本当に自分が女性なのか不安になるよ。


 私は別の悩みの種が増えてしまい、もう一度ため息をついてしまう。

 その後、気持ちを入れ替えて本を読み終えて寮へと戻った。

 寮に戻り、夕食を食べた後、自室に戻る前に寮内にある魔力訓練場へ行こうとすると、廊下でルークと出くわした。

 私は学科試験結果が出て以来、初めて出会うので少し悔しがっている顔が拝めるのではないかと思い、少し期待したが、ルークは私の期待を簡単に裏切って来た。


「よぉ、クリス。学科試験1位おめでとう。まさか、本当に俺を抜くとはね、恐れいったよ」

「んっ、何その余裕な表情は。現に勝ってるのは俺なんだけど? まさか、負け惜しみとかかな~」


 俺はいつもルークにされているような、相手を少し小馬鹿にした感じの言い方で返してやった。

 するとルークは、軽く笑いながら私の言葉をスルーした。


「いやいや、普通に関心してるし褒めてるんだよ。まさか、俺を抜く点数を取ってくれる奴がいて、嬉しいんだ」

「まさかお前、手を抜いたってわけじゃないだろうな。もしそうなら、今までの言葉は嫌味ったらしいぞ」


 私は少し怒った口調でルークに言うと、ルークは私から目を逸らして、そんなわけないだろと呆れた感じに言い返して来た。


「まぁ、何にしろ今勝ってるのはお前だよ、クリス。だけど、明日の実力試験の結果次第じゃ、覚えてるか約束のこと?」

「……忘れる訳ないだろ…だけど、その約束は果たせないね。何せ、勝つのはこの俺だ」


 そう強気に私はルークに宣言して、訓練場へと向かった。

 ルークは私の後ろ姿を見ながら、小さく笑う。


「俺は明日が楽しみでしょうがないよ、クリス。お前は前回よりどれだけ、俺に近付いたんだ? 早く俺のとこまで来い。そうすれば、俺は兄貴を越える力を、手にすることが出来るはずなんだ」


 ルークは不敵に笑いその場を去って行った。

 そして次の日、第一期期末試験最終日の3日目、私たちは学院の校庭に集められていた。

 そこには、オービン寮を含め、男子の全寮生が集まっていた。

 すると教員たちが校庭に現れ、最終日の実力試験の内容が発表された。

 その試験内容は、リーグ戦方式のゴーレム勝負であった。

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