第16話 メルトボーイ・クイーンコンテスト前哨戦②

 すると突然アルジュが立ち上がった。


「おいシンリ!! 何故、その写真がまだ残ってるんだ! 僕は去年全て焼却処分したはずだぞ!」

「まぁまぁ、資料とか何にしても必要でしょ」

「へぇ~アルジュ、意外と女装似合ってるじゃん」

「あーー! やめろ! やめてくれ! あれは僕の中では、完全に黒歴史なんだよ!」


 アルジュは頭を抱えながら、悶絶していた。

 去年の前哨戦で、運悪くランダムで選ばれてしまい、されるがままにされたら、以外に似合ってしまい審査員の得点も高くなり出場が決まったらしい。

 その時の会場も、意外と盛り上がり女子受けが中々良く、終わってから写真が出回ったらしい。


 アルジュとしては、その時の事が完全に悪夢となっており思い出すだけで、目の前の様な悶絶状態になるとシンリが教えてくれた。

 それと同時に、スネーク寮で見たことない人が、トウマたちと言い合いしていたので聞いた所、彼がスネーク寮の次期寮長候補だと知る。

 名前は、ロムロスと言い、前回の魔力腕試しは欠席していたらしく、雰囲気は落ち着いた感じらしく、何よりも寮の事を考えている人らしい。


「ん、ってことは、あそこで言い合ってるのは次期寮長候補ってことは、トウマもそうなの?」


 ふと次期寮長候補たちの中で、同じように言い合いをしているトウマを見て、シンリに問いかけた。


「雰囲気的だったり、仕切ってたりするからそんな感じはするけど、別に寮長候補でもないよ。てか、うちだけ次期寮長候補はいないんだよ、色々あってさぁ」


 シンリは少しため息交じり答えた。

 それを見て、そうなんだと思いそれ以上詮索するのは野暮だと感じ、問いかけはしなかった。


「なるほど、貴方はそれ以上聞くのをためらっているのですね…そんな魔力が私には見えます」

「っ! ビックリした!」


 突然背後から声を掛けられて私は、少し飛び上がった。

 そこにいたのは、モーガンであった。


「モーガン珍しいね、こんな人が多い時に来るなんて」

「何か面白いものが見れるという、魔力の導きがあったので」


 私を挟んでシンリが会話をしていると、モーガンは右手の人差し指と親指で作った輪っかを右目から外した。

 モーガンは、うちのクラスでも特が付くほどの変わり者だ。

 私も今までに出会った事がない感じの人物だ。


 なんでも他人の魔力を見て占ったり、その人物の事を言い当てたりする占い師的な存在で、魔力占い師と呼ばれている。

 しかも、ほとんど外した事がないと言われている凄腕らしい。

 だが、魔力が見える人など一握りの存在の人しか出来る事ではないので、皆はただ本当に占いや人を見る目が凄すぎる人物だと言っている。

 噂ではモーガンの屋敷という、占いをやってひと儲けしているとか、ないとか言われている。


「対面では初めてですね。初めまして、モーガンと言います。その人の魔力を見たりしています」

「あっ、初めまして。俺はクリス、これからもよろしく」


 私とモーガンは軽くお辞儀をして挨拶し終えると、アルジュが正気を取り戻す。


「あれ? モーガン、珍しいな」

「はい、お久しぶりですねアルジュ。よければ久しぶりに貴方の魔力でも、見てあげましょうか」


 するとモーガンは、右手で先程作っていた輪っかを作ると、右目に当てた。

 そのままアルジュを数秒見ると、口を開いた。


「何やら、薄ピンクの魔力が見えますね。これは、何か最近色恋的な事がありましたか、アルジュ」


 その言葉に、一気に顔が赤くなるアルジュ。

 それを見たシンリが、最近の交流授業で出会った女子のことかと、かまをかけると一気に動揺したので、図星だと分かった。


「はは~ん。意外とアルジュも隅に置けないな~」

「なぁ~、クラスでは真面目ぶってるのに、意外と手は早いんだな」


 私とシンリがニヤニヤしながら、アルジュを責めると咳払いして、自分以外を見ろとモーガンに言って話題を逸らした。

 するとモーガンが、そのまま私の方を向いた。

 私はどんな事を言われるのか少し気になり、黙って見ているとモーガンが口を開いた。


「これは、何と言えばいいんでしょうか。青の中に女性的な色が、隠れてると言えばいいのですかね。何とも見たこともない感じですね」


 ん? 何かこの感じ、少し雲行きが怪しいな。

 気のせいかな? 気のせいだよな。


「そうですね、クリスさんを言葉で表すと、女性が男装している感じですかね」

「っ!?」


 その言葉に、その場にいたクリスとアルジュが耳を疑い、私は血の気が引いた。

 なっ、なっ、何言ってくれてんだモーガン! っと私は、すぐさま口を塞ぎに飛び掛かりたい気持ちを抑えつつ、他の2人の反応を待った。

 すると先に反応したのは、アルジュだった。


「おいおい、モーガン。冗談でもそう言ってやるな…そう言うのは、意外と心に来るもんなんだよ…経験した身としたらな…」

「経験者は、あぁ言ってるが、言われてどうだシンリ。やっぱり、身の毛がよだつのか?」


 続けて、シンリも真に受けていない発言に、私は胸のつかえが下りた。

 すぐに私は、同意する言葉を言ってモーガンの方を見ると、既に右手の輪っかを止めていた。

 そして、直ぐに頭を下げていた。


「すいませんでした。嫌な気持ちにさせたかった訳ではありませんが、そうさせてしまったのは、私の責任です。謝罪致します。」


 私は直ぐに頭を上げるように伝える。

 そして、また勝手に見られて変な噂が立つのは面倒だと思ったので、モーガンに私を見る時や見るように言われた時は、一言欲しいと伝えた。


 モーガンもそれに承諾してくれたので、一安心した。

 まさか、いきなり正体を見破って来るとは思ってもいなかったので、ビックリして何もできずに焦った。

 少し、モーガンには注意をしておこうと、改めて認識を変えた。

 するとトウマの大声が、聞こえて来た。


「あーもう! いつまでも、言い合いばかりじゃ何も決まらん! おい、ランダム選択機器を出せ」


 トウマの声にライラック・リーガ・シンが、大きな円盤を縦て正面を向いた状態の1つの大きな機器を持ってきた。

 するとトウマを含む次期寮長候補生たちが、その円盤に魔力を流すと4つに分割された。

 そして、そこに同じ機器がもう一台持ってこられ、そちらには一本の矢印が付いており、そこに5から30の数字が5置きに既に振られていた。


「よし、それじゃまずは差し出すポイント決めからだ。準備はいいな?」


 トウマ以外の次期寮長候補が頷くと、トウマが機器についたボタンをゆっくり押し込むと、円盤が回り出した。

 それを見つめて、各寮が独特の感じで祈るポーズをしていた。


 私が、アルジュに何をしているか聞くと、地獄イベントを担当する寮へのポイント差出分を決めているのだと言われた。

 コンテスト自体には、もちろん1位には特別ポイントがでるが、地獄イベントでは特にポイントなど出ないので、寮内で出場寮にポイントを出す様になったらしい。

 そして、円盤が矢印に止まった場所は5の数字が書かれた場所であった。

 その結果に、各寮ともまぁまぁな反応をしていた。


 そのままトウマが本命の円盤の前に立ち、震えつつもボタンを押して、運命の円盤が周り始めた。

 再び各寮、独特なポーズで祈るポーズをしているのを横目に、私がアルジュを見ると、声を掛けずとも説明してくれた。

 今回っている円盤では、この前哨戦の登場順を決めてるらしく、ほぼ順番で決まると言われているらしく、4番目を引かない様に祈っているらしい。

 ちなみに、どこに何番目かは分からない様に、各代表者が魔力を通したのと同時に色と番号が振られているのでて、見えなくなっているらしい。

 何故回しているのかと言うと、雰囲気を出すためらしい。


 そして、その円盤が止まり全ての色が消えて、数字が露わになる。

 同時に各寮から歓声と悲鳴の声が響き渡った。

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