第11話 月の魔女への憧れ

 その日も、いつもの様に授業を受け終えると、トウマが教壇の前に立ち声を上げた。


「もうすぐ、女子生徒との交流授業だぞお前らー!!」

「うぅぉおー!」


 トウマの声に、クラスから野太い声が上がる。

 それを横目に、私の隣に座るルークは私の方に視線を向けていた。

 私は、それに気付きながらも無視をし、教材を片付けていた。

 だが、ずっと私に視線を向けて来ていたので、耐えられなくなり睨み返した。


「やっとこっち向いた。そんなに睨むなよ」


 そう言った最後に、口パクで女の子だろと言われた。


「お、お前な! 最近そんなんばっかしてきやがって、何のつもりだよ!」


 そうルークは、勝負以来何故か、私によくちょっかいを出してくるようになった。

 周囲の仲間たちも、その変化に少し驚いていたが、すぐに気にされなくなった。

 そんな中私はトウマに、ルークの鬱陶しさを相談すると、いい感じで相手をしてやってくれと言われた。

 私的には、少しルークの行動を制限して欲しかったが、それは期待出来ないと諦めた。


 するとトウマは、その時少し昔のルークに戻ったみたいで嬉しいとか言ってたけど、こんな面倒な奴を見て嬉しいとか、少し変な事を言うな奴だと私は思った。

 そんなこんなで、ルークの機嫌を損ねない様に相手を初めはしていたが、それも最近じゃ面倒で無視してたってわけ。

 ちなみに秘密の事は、誰にもバラしていない様で、そこは律儀に守ってくれていると関心していた。


「いいや別に、特に理由はないけど。何かお前を見てると面白くてな、女がこんな男の中に紛れて、男としてあいつ等と接してると思うと」

「おい、その言葉は口にだすんじゃねぇよ。後、いい加減ちょっかい出すの止めろよ、ウザったいぞ」

「はいはい、分かったよマリア」


 そう言うと、ルークは荷物を持って教室を出て行った。


「…はぁ~、全くあいつは何のつもり何だか、全く理解できない。弱みを握って楽しんでるのか? それより条件の事で面白がってるのか…」


 ちなみに、さっきルークが何故マリアと呼んだのかと言うと、ルークが私の本当の名前を追求して来た時に、マリアと適当に答えたからだ。

 別に本当の名前を教える義理もないし、変に探られたら面倒だったからだ。

 少し、マリアには申し訳ないと思ったけど、正体がバレないためだから許してくれるよね。


 後は、ルークの出した期末試験での勝負のことだ。

 この条件自体は、当初の目的を達成する上でこの上ない機会であるのは間違いない。

 間違いないのだけど、負けた時の代償が大きすぎる。

 何故、負けるごとにデートなんだ!?

 そして極めつけは、何故婚約!?

 本当に何にを考えているんだ、あの王子は…

 私はこの先の事を考えて、深いため息をつくとノルマが声を掛けて来た。


「どうしたのクリス? この騒がしさに疲れちゃった?」

「いいや。もう、そんな事でため息なんてつかないさ。ただ最近、ルークのちょっかいが面倒で」

「あ~そのことか。みんなも初めは驚いてたけど、ルークが初等部の頃に戻ったみたいで俺たちは嬉しいんだよ。君をこのクラスに入れた事を、トウマも正解だったって喜んでるしね」

「お前もそんな事いうのか…」

「? 何か言った?」

「いいや、別に何でもないよ。それより、あいつ等は何を馬鹿騒ぎしてるんだ?」


 私は話題を変える為に、教壇近くでトウマ中心に騒ぐ奴らを指さした。

 するとノルマが答えてくれた。


「あぁ、あれはもうすぐ交流授業だから、騒いでるんだよ」

「交流授業? そう言えばさっきトウマが、女子生徒とかなんとか言ってたな」

「うちの学院では、クラスが分けれている女子とも合同授業があるんだよ。だけど、俺たちはそれを交流授業って呼んでるだ」

「何で交流授業って呼んでるんだ?」

「それはね、授業でも女子と話せたり出来る、数少ない機会だからさぁ」


 そう言いながらどこからともなく、少し自慢気にシンリが現れた。


「おっ、シンリ! それで、どうだったんだ? うちはどこのクラスと交流授業が出来るんだ?」


 遠くからトウマがシンリを見つけ、大声で問いかけた。


「仕入れた情報によると、Kクラスらしいよ」

「マジか!! マジでKクラスかよ」

「最高じゃねぇか!」

「まさか、今年のKクラスと交流授業が出来るとは、嬉しすぎて涙が出るぜ」


 何やらシンリの言葉で、より仲間たちが歓喜に満ちていた。

 その理由が全く私には分からず、一人置いてけぼりな感じがしていた。


「そう言えば、クリスは交流授業始めてだよね? 交流授業の内容は、魔力授業なんだよ。クリスは技量が高いし対抗戦の事もあるから、今年は注目筆頭だね」

「魔力授業か…確か、男子と女子では魔力の分類も異なるよな。何で、魔力授業で交流なんてするんだ? まさか、本当にただの交流目的だけ?」

「いいや、それは違うぞ」


 そこに割って入って来たのは、思いもしないガウェンだった。


「お前の言う通り、男女で魔力の分類は異なる。だが、互いに全くその分類が流れていない訳ではない。この学院では有名だが、月の魔女は全ての分類を使いこなしたと言われている」

「珍しいね、ガウェンが話に入って来るなんて」

「魔力の事だったしな。それに、俺も交流授業は楽しみにしている。女子生徒の魔力を間近で見れ、感じられ、学ぶことが出来る有効的な授業だからな」


 どことなく、話す声から楽しみにしている感じが、私には伝わって来ていた。

 それにしても、ガウェンがここまで前のめりに話すのを見るのは、何故か慣れない。

 それよりもさっきガウェンの口から、月の魔女って言葉が出なかったか?

 私の気のせいかな?


「確か女子の3つの魔力分類は…何だっけ?」

「治療・創造・制御の3つだ。俺たち男子の力・技量・質量とは全く異なる分類だ」


 ノルマの発言を補足するように、ガウェンが答えた。

 ガウェンの言う通り、女子の魔力は男子と異なる3つの分類がされている。


 治療は魔力を使った傷の手当てや、物の修復に長けている力。

 創造は少量の物質から創り出したり、物質の模写に長けている力。

 制御は魔力の制御に長けている力で、男子の技量に少し似ている力と思われるが、主に既に流れている魔力などの制御に長けている力だ。


 そして、私が憧れている月の魔女は、力・技量・質量・治療・創造・制御の6つの魔力分類を全て同時に使えたり、最大出力で使えたと言われる天才なのだ。

 私も、今や一通り使える様にはしているが、月の魔女には全く及ばない実力だ。


「男女の交流授業は、他の学院ではほとんど行われないが、この学院では月の魔女がいたこともあって、率先的に実施している。各自に分類されているものだけでなく、知識や関心を持たせ、生徒の視野を広げさせる為と言う、全うな目的があるんだよ交流授業ってのは」


 ガウェンの言葉に、ノルマとシンリは手を叩いていた。

 そして私は、ガウェンの口から完璧に月の魔女という言葉を聞いて、少し興奮していた。

 ガウェンは少し話過ぎたと思ったのか、小さく咳ばらいをしてその場から立ち去ろうとする。

 そんなガウェンに私は、月の魔女について問いかけた。


「なぁ、月の魔女ってのはこの学院じゃ、有名なのか?」

「外では童話にされたりと、子供の夢物語だが、ここじゃ憧れる奴が多い。というか、月の魔女に憧れてこの学院に入った奴が多い方だ」

「そう…なんだ」


 そのままガウェンは、教室から出て行った。

 私は今まで月の魔女に憧れている事を、口に出さずにいたが、ここでは私と同じ人が多くいると知って、胸が高鳴った。

 私だけじゃないんだ、この学院に居る人もあの月の魔女に憧れているんだ。

 ここじゃ、私の夢も馬鹿にされたりはしないんだ。

 色々とやる事や、大変な事はあるけど、改めてこの学院に来て本当に良かったと実感した。


「何々、もしかしてクリスも月の魔女に憧れている感じ?」

「えっ…あっ、そ、そうなんだよね。男なのに、変だよな…」

「別に変じゃないよ。誰しも、一度は憧れるもんでしょ。今や二代目月の魔女って呼ばれる人もいるほどだし、もう憧れじゃなくてなれるもんだしね」

「…え? ちょっと待って、今二代目月の魔女とか言った?」


 私はシンリが言った言葉に、耳を疑った。

 今までそんな言葉を聞いたことも、噂も聞いた事がなかったからだ。


「うん、言ったけど。もしかして、クリス知らなったの? うちの学院の同じ学年の女子生徒に二代目月の魔女って呼ばれる子がいること」

「知らないぞ! 誰? ってか、二代目? 月の魔女になった!? はぁ!?」

「ちょ、ちょっと、クリス言ってる事がなんか変だよ?」


 ノルマが取り乱す私に困惑していると、シンリが私を落ち着かせた。

 その後、シンリから二代目月の魔女の事や、女子生徒側の状態や事情など、知る限りの事を教えてもらった。

 そして私は、月の魔女に関する書籍などが大図書館にあると初めて聞き、上機嫌で向かい関連書籍を読み漁った。

 それから2日後、交流授業の日がやって来た。

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