役立たず勇者だからとパーティーを追放された俺は、唯一味方してくれた聖女を救うため、何度も時間を巻きもどる
めぐめぐ
第1話 追放
「……ると、アルト! 聞いてんのか⁉」
少し苛立ったような男の声に、ぼんやりとしていた俺の視線が定まった。
目の前の椅子には、足を組む30代ほどの男――冒険者パーティー《エスペランサ》のリーダーであるニスタが、そして俺の周りを少し距離を取って囲んでいる10人ほどの仲間たちがいる。
手にぬるっとした液体を感じた。
ついさっきまで戦っていたモンスターの血だ。手だけでなく、顔や服にも飛び散っていて気持ち悪いが、ここにいる皆が血まみれのままなので、喉元まで出かかった文句を飲み込んだ。
しかし、
「せめて、水浴びをして着替えるくらいの時間は欲しかったんだけど!」
俺のように、不満を心に留めておけなかった女性の声が響き渡った。
神聖魔法の使い手ラノだ。
教会に所属しており、世界に3人しかいない《神の声を聴く聖女》である。
歳は俺と同じ20歳だが、整った容貌にはまだ少女の愛らしさを残っている。
そして……俺の密かな想い人でもある。
ラノが詠唱を始めると、俺を含めた皆の体が輝いた。みるみるうちに体が清められ、戦いによって負傷した怪我や破損した装備や服が元に戻っていく。
神聖魔法だけが使える浄化と修復の魔法。使うにはかなりの魔力がいる。
服も装備も、同じ物であれば国がタダで支給してくれるので、この場にいる仲間たち皆が、制服のように同じ服装をしている。
ラノも、部屋に戻ればまったく同じ服があるのでわざわざ魔法を使う必要などないのだが、多少力を使っても、この血まみれ状態を何とかしたかったんだろう。
その辺が女性らしい。
モンスター討伐後、ニスタが突然、緊急会議を開いた。
内容はまだ聞いていないが、きっと緊急事態なのだろう。
そう思うと体が緊張するのに、仲間たちの表情は余裕そのものだ。
それどころか、俺を馬鹿にするようなニヤケ顔を向けてくるから、正直居心地が悪い。
俺、何かヤバいことしたかな?
ニスタが両手を打って皆の注目を集めると、周囲と同じような視線を俺に向けた。
「アルト、お前さ。何でこのパーティーに参加しているか、理由分かってる?」
「俺が勇者……だからですよね」
「そうそう。でもさ、《聖剣》を持たないお前って、普通の人間と変わんねえから正直お荷物なんだわ」
お荷物、という言葉に後頭部を殴られたような衝撃が走る。
そんな俺にニスタは容赦なく言い放った。
「ってことでアルト。お前、勇者のくせに役に立たねえから、今日限りでこのパーティークビな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます