『Sphere』- WONK

 エクスペリメンタル・ソウル・バンド。

 という触れ込みは一見すると捉えどころがないようですが、要するにエクスペリメンタルなアプローチをするネオ・ソウルだと考えれば実態が見えてくると思います。ジャパニーズ・ネオ・ソウルの頂点とも言うべきバンド・WONKの1stアルバム『Sphere』の紹介です。


 いやー。脱臭というか、いい意味で日本人離れした音楽センスは本当に圧巻です。またエクスペリメンタルという名の通り、楽曲によってはLAのヒップホップレーベル・Brainfeederからリリースされる楽曲群のような攻撃的でエグみのある電子音を鳴らす物もあり、単なるグッドミュージックの枠には収まりきらないその音楽性は非常に好感が持てます。

 ネオ・ソウルというジャンルを後追いではなくリアルタイムでリンクしながら展開していく感度の高さは流石というほかありません。


 それにしても、ネオ・ソウルの旗手と呼ぶべきアメリカのR&Bミュージシャン・D'Angelo。彼の音楽が登場したことにより、ここ数年は次世代R&Bとも呼ぶべき様々なミュージシャンが登場しシーンを賑わせましたね。日本ではネオ・シティポップという潮流のなかでその一部が存在しているという感じですが、海外に目を向けるとサウスロンドン系のインディーR&Bなんかがありますね。


 インディーR&Bのフィーリングに共通しているのは「ヒップホップを経由したベースライン」ですがここがめちゃくちゃ重要なポイントで、この方向性を、つまりソウル/R&Bにヒップホップを持ち込んだ初期の作品としてマイルストーンとされているのがD'Angeloのアルバム『Voodoo』なのです。

 同アルバムは90年代のヒップホップシーンで活躍した所謂生音ヒップホップバンド・The Rootsの名ドラマー・Questloveが率いる音楽集団・Soulquariansが手掛けており、アンダーグラウンド・ヒップホップの伝説となったトラックメイカー・J DIllaも参加しています。

 こうした00年代のネオ・ソウルやアンダーグラウンド・ヒップホップは現在のインディーR&Bシーンやジャズシーンに大きな影響を与えています。ジャズシーンではRobert GlasperやTerrace Martinの例が顕著ですね。

 日本でのサウスロンドン系のインディーR&Bの認知度をグッとあげた存在といえばこれは言わずもがなTom Micshですが、かく言うTom Micshもヒップホップに影響を受けたミュージシャンの一人です。いずれ彼のアルバムも取り上げたいと思うので多くは語りませんが、現代のブラックミュージックを理解する上でD'Angeloの『Voodoo』は絶対に外せない作品といえるでしょう。


 さてさて、WONK界隈というか、このネオ・シティポップ的なシーンにいる人たちは横の繋がりが多様でこちらも非常に面白いポイントの一つです。例えばキーボードを担当する江﨑文武さんはKing Gnuや同バンドの司令塔である常田大樹さんが手掛けるプロジェクト・millennium paradeなどでも活躍していますし、バンド単位でも後々紹介するiri氏のアルバムにて楽曲の共同制作をしていたりします。

 一つのミュージシャンから様々なところに掘っていけるこのネオ・シティポップというムーブメント。やはりなかなか侮れません。


 * * *


 そう言えばWONKってバンド名は、ジャズ・ピアニストのThelonious Monkから来てるんですかね。MonkのMをひっくり返してWonkだったらめっちゃオシャレだなと思ったんですがどうなんでしょう。


■一曲選ぶならコレ 【Real Love(feat. JUA & Shun Ishiwaka】



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