第6話 好敵手降臨!

6-1 【才女】ソフィア・レオンハート

 楓花ふうかの知らない所で激戦を繰り広げたクロエ。

 栗栖との激戦から1週間が経つが、激戦の次の日からクロエが楓花の下校相手をしている。


「今日はねー、こんな事があってねー」


「ふーん。そうですの」


 自分の事自分の得になる事以外、あまり興味がないクロエの塩対応にもめげず、毎日楓花はその日あった出来事をクロエに楽しそうに話す。


「それでねー」


「ふーん」


 楓花は急に立ち止まる。

 あまりの興味のなさ眼中のなさから楓花が立ち止まった事にも気付かず、クロエは頭をポリポリと掻きながら楓花を置き去りにして歩みを進める。


「クロエちゃん!」


 楓花が立ち止まっていたことに、楓花の声でようやく気付いたクロエが楓花の方を振り返る。


 楓花はムスッと頬を膨らませつつも、すぐ優しい笑顔をクロエに向ける。


「久しぶりにクロエちゃんとゲームセンターに行き……」


「楓花様?」


 楓花がクロエをゲームセンターに誘おうとした瞬間、何者かが楓花に気付き話かけてくる。


 クロエは楓花のもとにすぐ近付き、楓花に話かけてきた人物を観察する。


 如何にもボンボン丸出しの楓花よりも年下のおぼっちゃんと、そのボンボンの護衛らしきクロエには胸元まで伸びた銀色の髪のセミロングヘアの女性。背丈もクロエと同じくらい高く、顔の作りもクロエの世界の者だ。そしてはたから見ればクロエと同じくらいの美少女だ。


 クロエとその女性はお互い目を丸くした状態で固まる。


「お久しぶりです。楓花様」


「あ、久しぶりー。蒼涼そうすけ君」


 ボンボンの護衛らしき女性をガン見したまま固まっているクロエに、楓花は一方的にその少年の紹介を始める。


「この男の子はね、藤原 蒼涼ふじわら そうすけ君。お父様のお仕事の関係で年に何度か会うんだよー。それで……ね。クロエちゃん?」


 クロエともう1人の女性は、息ピッタリにお互いを指差し大声を上げる。



「ソフィア!?」

「クロエ!?」



 そう、おぼっちゃんの横を歩いて護衛をしていたのは、クロエのいた世界の5人の将軍の1人、ソフィア・レオンハートだった(※第1-2話参照)。


「何故、ソフィアがここにいるのだ!?」


「それはこっちのセリフやわ! あんた急におらんなったから、死んだかと思っとたわ!」


「バカ者! 私は”ベアトリクス”の叙任じょにんの儀式で気付いたら、何故かこの世界にいたのだ! すべてはあのクソジジイムーン教皇の仕業ですわ!」

 

 クロエの言葉にソフィアは腕を組んで考え込む。

 そしてクロエの肩を掴みソフィアもクロエに負けじと大きな声を出す。


! クロエが急に消えたから次期”ベアトリクス”を決める会議が急遽、行われたんや! そんで私が”ベアトリクス”の称号をもらうことになってな、叙任じょにんの儀式で目を閉じてたら、知らん世界におったんや! そうやったんか! あのエロジジイムーン教皇の仕業かいな!」


「なに!? ソフィアが”ベアトリクス”だと?! ”ベアトリクス”は私のモノだ!!」


「まぁまぁ、落ち着き。もう私は”ベアトリクス”なんかどうでもええわ。クロエのもんでええで。クロエ、その代わりどうすんねん? この状況……」


 クロエもソフィアも同じように頭を抱え悩みだす。

 2人の様子を見ていた楓花が話かける。


「あ、あのー。クロエちゃんにソフィアさん、ここ歩道の真ん中で通行人の人の邪魔になるし、あそこのカフェで話したらどうかな? 蒼涼も一緒にね?」


「は、はい。楓花様がそう言われるのなら」


 4人でカフェの中に入る。


 頭を抱えたまま静かになった2人と、楓花に気を遣い緊張して声をあまり出せないでいる蒼涼。

 

 楓花が店員に4人分の注文をする。


「私はミルクティーで、蒼涼君は?」


「あ、僕も同じものでお願いします」


「あ、あのー。2人は?」


「「コーヒー。それとチーズケーキにロールケーキに……」」


 運ばれてきた商品を遠慮なくガツガツと食べだすクロエとソフィア。

 楓花はもう見慣れた光景だ。蒼涼もといった感じだ。


 糖分を摂取した事で、少し落ち着いた2人は話を再開させる。


「ま、まぁ、とりあえず、何故この世界に来たのかは置いておこう。この世界の方が便利で色々とできるからな。しても構わない」


「それはやな。めっちゃ楽やわ、この世界の方が。あんな世界、


 2人共、真の楽観主義者ポジティブ思考だ。楽ならば楽であるほど良い。

 元の世界自分の世界への未練など微塵もない。


「ところでソフィア、その子供はなんだ?」


「ああ、この子な。私のいまの主人金づるや」


「ほーう。私と守銭奴しゅせんどのソフィアが人に尽くすなんてな」


「せやで。世の中、や。私も気ついたら知らん場所におってな。そんで、ぶらぶらと当てもなく散歩しとった訳よ。そしたらな、街角でけったいな男達に絡まれとる子供がおってな。むしゃくしゃしとったから、その男達を勢いでしばいたった訳よ」


「……それで?」


「ほんでな、その助けたったこの子が私に懐いてもうてな。話聞くとこの子めっちゃ金持ちでな。私、その家の人にも気に入られてもうて、いまはこの子の専属護衛やってんねん。生活は豊かになるし、この世界の連中、弱い奴ばっかやろ? 適当に護衛して、絡んでくる連中おったらしばいたらいいだけやしな。めっちゃって感じなんやわ。はははっ」


 そう笑いながらソフィアは蒼涼の背中をバシバシと叩く。

 本当に懐いているのかと思わせる程、蒼涼の笑顔は引きつっている。

 最早、恐喝している輩はソフィアなのではないかとクロエも楓花も思う。


 蒼涼の背中をバシバシと叩きながら笑うソフィアの腰に差しているモノに目がいくクロエ。


 クロエは擬態化ミメティスム、周りの様子からソフィアも似たような技か呪文を使っているのだろうが、同じ世界の者の間では通じないようだ。


 ソフィアもクロエと同じような軽装の黄金のプレートアーマーを身に纏っている。


「おい、ソフィア。その腰に差している剣は?」


「ああ。これ? エクスカリバーやで?」


「くれ!!」


 机を叩き咄嗟に大声を出すクロエ。

 自分のエクスカリバーを隠されている為、クロエは本物の剣に対するが最近悪化している。


 口角を不気味に上げ、意外にもソフィアはクロエに自分のエクスカリバーをすんなりと渡した。


『エクスカリバー……。エクスカリバー……。はぁはぁ……。む?』


 エクスカリバーを持った瞬間、エクスカリバーから音声が流れる。


「”ユーザー認証……。使用ユーザーではありません。ロックします”」


 エクスカリバーから音声が流れ終えると、エクスカリバーはただのになった。


「な? ソフィアどういうことだ!?」


 枝木になったエクスカリバーをソフィアが持つ。


「”ユーザー認証……。ソフィア・レオンハート。使用ユーザーです”」


 エクスカリバーは枝木から剣の姿に戻る。


「ひゃははははっ! クロエ、騙されたなぁ! これはエクスカリバー.や!」


「なに!? ver.03だと!?」


「ユーザー認識機能を備えた最新型や! 戦闘能力は旧型とけどな! どうや? ええやろ?」


 ギリギリと音を立て歯ぎしりをしながら悔しがるクロエ。

 銀色の髪のセミロングヘアをセンターで分けたソフィア。

 アメジストのような綺麗な紫色の瞳で、クロエを見下しながら話を続ける。


 エクスカリバーを差していた腰とは反対側の腰から短剣を抜きクロエに見せびらかせる。


「このエクスカリバーならクロエにあげてもええで。これならクロエでも使えるやろ? ただし……」


 クロエには最早、”エクスカリバー”と名の付くものなら何でもよかった。


「ただし?」


 ソフィアは紫色の瞳でクロエを挑発しながら、言葉を発する。


「私に勝負で勝てたらあげるわ」


「その勝負、のったー!!」


 クロエはソフィアの提案に即答した。



 平和なカフェ内で呆気にとられている楓花と蒼涼を無視して、異世界の将軍クロエとソフィアの争いが始まった。







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