猫神は婚約破棄された悪役令嬢を溺愛する

克全

第1話:虐め

「まあ、なんででしょうこの臭いは、とても臭いですわ。

 とても王侯貴族が集まる学園とは思えない臭さですわ。

 いったい何処のケダモノが学園に紛れ込んだのでしょう」


 ブラウン男爵家の令嬢ニーナがこれ見よがしに鼻をつまみながら悪し様に言う。

 悪口を言われて小さくなっているのはテルソン辺境伯家の令嬢ラーラだ。

 本来ならブラウン男爵家の令嬢ごときが、遥かに上位である辺境伯家令嬢を虐めるる事など不可能なのだが、後ろ盾や黒幕がいれば別だった。

 ラーラを虐めさせているのはガーバー公爵家の令嬢ナーシスだった。


 ナーシスは生まれ持っての性悪だった。

 生れてからこれまで、ずっと抵抗できない者を虐め続けていた。

 弱い者を直接傷つける事が好きだった。

 それ以上に間接的に虐めて自殺に追い込むことがもっと大好きだった。

 だから手先になる取り巻きの令嬢を使って虐めさせるのだ。

 しかも下位貴族の令嬢に上位貴族の令嬢を虐めさせるのが大好きだった。


 ただ今回は楽しみの為だけに虐めているわけではなかった。

 恨みと憎しみが加わっていた。

 ラーラは王太子の婚約者に選ばれていた。

 辺境伯家令嬢ごときが公爵家令嬢のナーシスを押しのけての婚約だった。

 ナーシスは下位貴族に王太子婚約者の座を奪われた事が許せなかった。


 だからラーラを追い詰めて婚約者の座を奪う心算だった。

 何時ものように虐め抜いて乱心させるか自殺させる。

 過去何人もの貴族令嬢を虐め殺しているナーシスだった。

 楽しみのためだで平気で人を虐め殺せるナーシスが、王太子妃、将来の王妃の地位を狙った欲得尽くで虐めるのだ。

 その残虐非道さは筆舌に尽くせない酷いモノだった。


 学園の教師達はナーシス虐めを見て見ぬふりしていた。

 ガーバー公爵家の力を恐れた面もある。

 毎月届けられる口止め料に眼が眩んだ面もある。

 下位貴族や平民出身の貴族が公爵家に逆らえない気持ちは分からない訳ではない。

 だが実際に自殺している令嬢や乱心する令嬢までいるのに、王家に訴え出ないのはあまりにも教師としての矜持がないと言えた。


 ラーラはとても大人しい令嬢だった。

 虐められている事を家族に言えないほど大人しく優しかった。

 家族に心配をかけてはいけないと思うほど優しい令嬢だった。

 その優しさは人間だけに向けられていなかった。

 捨て犬や捨て猫、傷ついて飛べなくなった鳥にも向けられていた。

 

 ラーラは王立令嬢学園の寮に住んでいた。

 貴族令嬢にも自立心を養わせるために全寮制だった。

 だがそれが虐めの温床にもなっていた。

 本来なら二人部屋のラーラの部屋なのだが、とばっちりを恐れた相部屋の令嬢は病気療養を理由に休学していた。

 だからラーラはその部屋で密かに捨て猫や捨て犬を育てていた。

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