第9話春の子

春というのはきっと、穏やかで、おとなしいものだったと、冬が来るたび思う

春というののほんとうがはしゃぐ子供のざわめきに近いことは、春になるまで忘れている


吹く風は柔らかく、くすぐったい

射す光は暖かく、眠くなる


柔らかい風は、気まぐれにまとめた髪を揺らし、視界を遮る

巻き上がる砂埃が世界を遠くにする

暖かな光を浴びると、目を閉じて休みたくもなる


春というものは、じっとしているものに触れたくて仕方ないのだろう


足を止めるだけで撫でるようだった風はもっと大胆に、髪を撫で、頭を撫で、体にまとわりつく

甘い香りを纏って遊んでくれとせがむのだ


春は甘い香りがする

春の短さは幼い記憶によく似ている

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