第236話 白い花 ❀
稲を刈ったばかりの田んぼから、なんとも馨しい匂いが漂っている田園地帯に1枚だけある蕎麦畑、その端のほうに刈り忘れられた花がぽつんぽつんと残っています。
畦道に咲いていた
「ねえ、あなた、お気の毒に。どうして刈ってもらえなかったの?」
「おじさんの話ではね、畑の隅まで機械が届かないいんですって」
「へえ、そうなんだ~。ねえ、白い花同士、仲よくしましょうよ」
「こちらこそ……ごめんなさいね、白状するわ。あたしね、蕎麦の群れの一員だったときはあなたに気づかなったの。こんなに近くに白い花のお仲間がいたなんて……」
びっしりと米粒を盛り上げたような蕎麦の花と、春先の早いうちからずっとこの畑の畔で咲いて来た姫女苑はすっかり仲よくなって、互いの来し方を語り合いました。
*
でも、ある朝――。
鎌を手にやって来たおじさんに、蕎麦は呆気なく刈り取られてしまいました。
「姫女苑さん、さようなら。あたしの次の世代をよろしくね」
「蕎麦の花さん、ごきげんよう。次世代をお待ちしているわ」
ふたつの花の別れを、赤と白のテレビ塔が、空の高いところから見ています。
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