第213話 またはちろう 🍃



 里芋の葉は大きくて、少し吹いてやると派手に裏返るので、すごく面白いのです。

 少し前までは玉蜀黍とうもろこし畑を吹いていた風の又八郎は、夢中で吹きまわっています。


 人間社会の俳句という文芸には季語の掟があって、「黍嵐きびあらし」とか「芋嵐いもあらし」と呼ぶようですが、風の坊やの又八郎には、そんなこと知ったこっちゃありません(笑)。

 

      *

 

 むかし、陸奥みちのく地方に住んでいた宮沢賢治という詩人が、創作童話の主人公に「風の又三郎」という名をつけたそうで、太平洋をぐっと南下した東海地方を吹く又八郎の名前もそれに因んでいるのですが、そんなことも知ったこっちゃなく……。(笑)

 

 ――青いくるみも吹きとばせ

    すっぱいかりんも吹きとばせ

 

 又三郎先輩はマントを翻してそう唄ったそうです。


 季語のうえでも二百十日に当たる今日、又八郎もまた一陣の風として、内陸部から海岸まで格好よく吹き抜けて、風の精の実力を見せてやりたいと張りきっています。

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