第56話 軌跡の輪 🚲
冬のあいだは迫っていた東西の山並みが、いつの間にか霞んで遠のいています。
跳ねるように流れる小川の畔には、ナズナ、ヒメオドリコソウ、イヌノフグリ、タンポポが、白、薄紅、水色、黄色など思い思いの初々しい花を咲かせています。
🌷
東と西から歩いて来た初老の女性ふたりは、胸の前で小さく手を振り合います。
「元気にしてた~?」
「ええ、あなたも?」
ふたりの会話はそれだけですが、交わされるまなざしは労わりに満ちています。
いろいろあった半生には、互いの軌跡の輪が重なり合ったり、大きく外れたり、ときには端だけ繋がったりしましたが、いまとなってはすべてを受容できます。
――人生、なにが起こっても不思議はないものね~。
歳を重ねるのも、案外わるくないもんだよね~。
手を振り合って分かれ行くふたりの穏やかな足取りを、太陽が見守っています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます