第56話 軌跡の輪 🚲





 冬のあいだは迫っていた東西の山並みが、いつの間にか霞んで遠のいています。


 跳ねるように流れる小川の畔には、ナズナ、ヒメオドリコソウ、イヌノフグリ、タンポポが、白、薄紅、水色、黄色など思い思いの初々しい花を咲かせています。

 

 

                 🌷

 

 

 東と西から歩いて来た初老の女性ふたりは、胸の前で小さく手を振り合います。


「元気にしてた~?」

「ええ、あなたも?」


 ふたりの会話はそれだけですが、交わされるまなざしは労わりに満ちています。


 いろいろあった半生には、互いの軌跡の輪が重なり合ったり、大きく外れたり、ときには端だけ繋がったりしましたが、いまとなってはすべてを受容できます。


 

 ――人生、なにが起こっても不思議はないものね~。

   歳を重ねるのも、案外わるくないもんだよね~。

   

 

 手を振り合って分かれ行くふたりの穏やかな足取りを、太陽が見守っています。

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