第54話 珈琲シュガーの恋 💙




 その娘さんに惹かれたのは、自分と同じ色のタータンチェックの、少しミニ丈のフレアスカートを穿いていたからかどうかわかりませんが、ミルク色の肌をした娘さんが店に入って来た瞬間から、瓶の中の珈琲シュガーはときめきを感じました。

 

 ――ぼくの席に来てくれないかな~。

 

 ひそかに願っていましたが駄目で、そのつぎもまた駄目で。いつもひとりで静かに文庫本を読んでいる娘さんは、奥まった窓際の席がお気に入りみたいなのです。


 一度、お店が満席に近かったとき、やっとシュガーの席に来てくれたのですが、ブラックが好みらしい娘さんは、ミルクもシュガーもつかわないので……残念。

 


                  ☕



 そして、つぎに来たとき、珍しく娘さんは一見イケメン風の青年と一緒でした。


 ふたりでシュガーの席に着いてくれたのはいいのですが、青年は賽の目の珈琲シュガーをいくつもブレンドに放りこみ、娘さんはいつものとおりブラックで。


 清楚な娘さんと、どこか崩れた感じのする青年は不似合いなカップルでしたが、しがない珈琲シュガーの身には、なるべく溶けないようギリギリまで踏ん張って、短気らしい青年のこめかみをピクピクさせることぐらいしかできません。(^_^;)

 

 

                👦👧

 

 

 でも、その甲斐あってか、不釣り合いなデートは数回で終わったようです。

 娘さんはまた奥まった窓際の席で、ひとりで静かに文庫本を読んでいます。

 珈琲シュガーは、そんな娘さんを見ているだけで、十分にうれしいのです。


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