第36話 屋根の上の白鳥 🏠





 3月下旬のある朝。

 川沿いの平屋の屋根に、1羽の白鳥が止まっています。


 

 ――コー、コー、コー、コー。(;O;)


 

 掠れ声をふりしぼり、懸命に羽ばたこうとしています。

 でも、よく見ると、片側の羽が傷ついているみたいで。

 

 

                🌅

 

 

 その上空を、夜明けから何十度となく旋回して別れを惜しんでいた十数羽の白鳥たちが、思いを吹っきるようにして1列になると、一路、北の空へ向かいました。


 ピカピカ光り輝く太陽パネルのかたわらに立った白鳥は、


 

 ――コー、コー、コー、コー。(ノД`)・゜・。



 去って行く仲間を追い、ひときわ甲高い声できました。


 遠ざかる群れからも「コー、コー、コー」と聞こえていた返事が少しずつ小さくなり、1点の白い塊とともに、雲ひとつない、真っ青な北の空に消えてゆきます。

 

 

                 🍃

 

 

 いまさらではありますが、渡り鳥には、大昔から定められたおきてがあります。

 本格的な春がやって来る前に、なんとしてもシベリアへ帰らねばなりません。


 けれど、吹雪の日に電線に引っかかって怪我を負った白鳥には、縦横無尽に風が吹く海峡や、気の遠くなるほど広大な大陸を超えて4,000キロの長旅はとうてい無理なので、愛する家族と別れ、ただ1羽、この地に留まらなければならないのです。

 

 

               (´;ω;`)ウゥゥ

 

 

 ほんの少しでも、父さん母さん兄弟姉妹や友だちに近づきたくて、精いっぱいの飛翔でなんとか屋根に上った白鳥は、ちょうど少年から大人に変わる時期なので、そよ風になびく頭の柔毛にこげには、まだいくらか幼鳥の証しの灰色が混じっています。

 その下の、漆黒の丸いふたつの眸から、おびただしいしずくがこぼれ出て……。



                 ☀



 でも、大丈夫、なにも心配はいりませんよ。


 置いてけぼりの白鳥に、太陽はあたたかな光をたっぷり注いでくれていますし、川面や岸の石の上から様子を見守っていた鴨やカイツブリ、バンなどの留鳥りゅうちょうたちが、「さあ、こっちへいらっしゃい。一緒にあそぼうよ」と誘ってくれています。


 それに、川沿いの国道に「野生動物クリニック」の看板を掲げる獣医師さんは、お昼休みに様子を見にやって来て、熱心にリハビリを指導してくださるでしょう。


 ですから、この秋には家族や仲間との再会がきっと果たされますとも。(*´▽`*)

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