第18話 職務体験
目が覚めてから1週間が経ち、漸く1日中ベッドの上という生活が終わった。
今日は久々に医務室から出て授業に参加してきた。クラスメイト達からは学校に来なかった理由を聞かれた時は訓練中の事故で怪我をした、誤魔化した。
俺が寝ている3日間とベッドの上だった1週間は授業を受けられなかったが、兵科訓練で俺のみを担当している為午後は仕事が無い北条先生が、医務室まで来て授業してくれたので授業に置いていかれる事はなかった。
ただ身体は動かせなかったので、戦闘に関してはかなり鈍っているだろう。
(早く遅れを取り戻さないとな)
そう考えはいるが、今向かっているのは体育館でもグラウンドでもなく教室だ。食堂で昼食を食べている最中に北条先生に「昼食を終えたら教室に来て下さい」と放送で呼び出されたからだ。
「別に指導されるような事した覚えはないんだけどな」
「授業中に寝過ぎてるからじゃない?」
「授業中寝てるのは今更だろ?」
俺の隣を歩く沙月が茶化してくる。しかし実際に授業の半分くらいはは寝ているので否定出来る要素がない。
沙月も普段なら魔術の訓練が行う体育館に向かう筈だが、オドと魂が安定していない可能性を考慮して訓練は休むらしく、帰る支度をする為に俺と共に教室に向かっている。
「やあ、相真君。久しぶりだね」
「おお!光瑠か」
沙月と談笑しながら教室に向かっていると、体育祭で知り合った美少年、白夜光瑠と出会した。
「休んでいたみたいだけど、どうかしたのかい?」
「ちょっと訓練中の事故でな」
「なるほど。それは大変だったね」
「別に大した事じゃねぇよ」
互いに笑いながら話をする。そんなイケメンスマイルを向けられたら世の中の女性はイチコロだろう。
「そっちの女の子は相真の彼女かい?」
「ふぇっ!?」
「そんなんじゃねぇよ。ダチだよダチ」
隣で素っ頓狂な声を上げる沙月。ただの冗談だろうし、そこまで驚かなくてもいいだろうに、そう思いながら俺は光瑠の質問に首を横に振る。
「知ってるかもだけど、こいつは白夜 光瑠。内の学年最強の主席様だ」
「そんなに煽てないでくれよ。光瑠だ、宜しくね」
「私は雪宮 沙月。こちらこそ宜しく」
光瑠と沙月は共に何とも眩しい笑顔を浮かべながら握手を交わす。
美少年と美少女が笑い合っていると絵になるな。
(というか何で俺の周りには顔面偏差値が高い奴が多いんだよ)
「それじゃあ僕はこの辺で失礼するよ」
「おう。また今度な」
「じゃあね、光瑠君」
光瑠が片目を瞑りこの場を後にする。
リアルでこんな自然にウィンクなんて出来るのはイケメン故だろうな。
「カッコいい人だったね」
「何だ、惚れたのか?」
「そんなんじゃないよ。ただイケメンな人っているんだなぁ、って思って」
「まぁ確かにな。でも沙月みたいな美少女も普通はそうそういないけどな」
「えっ・・・・・・あ、ありがとう・・・・・・」
驚きの表情を浮かべる沙月は、頬を染めて小声でそう言う。
普通なら女の子に面と向かって可愛いとか美少女とか言うのは小っ恥ずかしいが、沙月の場合そういう次元じゃない。高級料理を食べて旨いと言うのと同じで、当然の評価であり、自然にそういう言葉が口から出てくる。そのレベルの美少女だ。
教室に入ると北条先生が黒板の前に立っていた。俺は先生に近づいて行き、教卓を挟んで先生の前に立つ。
「やっと来ましたか。身体の方はどうですか?痛みとかありませんか?」
「大丈夫っすよ。痛みもありませんし。俺の体調の確認の為に呼び出したんですか?」
「いえ、違いますよ、これは呼び出したついでに聞いたぢけです。では本題に入りましょうか。君はこの学校の職務体験について知っていますか?」
「職務体験?普通の職務体験なら中学の時にしてますけど」
職務体験と言うと中学校や高校の本物の職場で仕事を見学、体験出来るっていう行事だ。
しかし軍校が普通の職場に行かせるとは思えないし、恐らく体育祭同様に名前だけは普通の学校っぽい行事なのだろう。
「察してるかもしれませんが軍校の職務体験は普通の学校のそれとは違います。体験に行く先は特殊部隊などの卒業後の配属先の組織だけです。具体的には公安ゼロ、特戦群、レンジャー部隊、SAT、SIT、SBU、SST、BDDTS、水陸機動団の9の組織が体験先です」
SITは正式名称が特殊事件捜査係という警視庁の刑事課の特殊部隊。SBUは特別警備隊という海上自衛隊の特殊部隊、水陸機動団も同じく海上自衛隊の特殊部隊だ。SSTは特殊警備隊という自衛隊でも警察でもなく海上保安庁の特殊部隊だ。BDDTSは正式には特殊部隊ではなく基地警備教導隊という航空自衛隊の教育部隊。
「へぇ。それがどうかしたんですか?」
「君には1年生の代表として体験に行ってもらいたいんです」
「えっ、なんで俺なんですか?」
代表にするならもっと他に適任がいるだろうに。俺より成績が良い主席様とか。
「最初は1組の白夜君に行ってもらおうとしたんですが、彼は辞退しまして。それで次席である君にと」
「なるほど・・・・・・」
(辞退なんてするなよ光瑠!)
顔には出さないが心の中で光瑠への愚痴を零す。
「別に行ってもいいですけど、流石にその9組織全部に行く訳ではないですよね?」
「流石に体験先はどれか1つですよ。軍校が国内に3つあるってのは知ってますよね?」
「知ってますけど、それがどうしたんですか?」
軍事教育高等学校は日本国内には俺達が通っている東京校の他に大阪と名古屋に設置されている。
「各学校の各学年から1人ずつ、合計9名が各組織に割り振られて体験をするんです。因みに体験先は毎年変わります」
「なるほど。それで俺はどの組織に行けばいいんですか?」
「今年の
「マジっすか。てか俺、昨日までベッド生活してたんですけど大丈夫なんですか?」
「職務体験は1ヶ月後なので大丈夫でしょう。ただ今のままダメですよ」
「分かってますよ。もっと訓練して強くならないとって事ですよね」
俺が北条先生の瞳を真っ直ぐ見ながらそう言うと、先生は満足そうに表情で頷いた。
それから2週間が経過した。
「相馬君、準備はいいですか?」
「いつでも大丈夫ですよー」
現在の時刻は午後の3時、グラウンドでの兵科訓練中である。
10メートルくらい離れた所から北条先生が話しかけてくる。そしてーー
「いきますよ〜!《
北条先生の目の前に現れた魔法陣から放たれる青い魔弾が俺に目掛けて飛来する。
俺は先生から借りた本物の軍用ブレードを右手で握り、半身で構える。そして魔弾がブレードの間合いに入った瞬間にブレードを右斜め下に向けて振り下ろす。
普通なら魔弾がブレードに当たった瞬間に魔弾が爆発して、その衝撃波で吹き飛ばされる。
しかし魔弾は爆発する事はなく、俺の振るった斬撃によって一刀両断され、粒子となって消滅する。
「"術式破壊"良い感じですね」
「魔弾くらいしか斬れませんけどね」
術式破壊とは魔術の核となっている術式を破壊する事で魔術を無効化する技術だ。言うは易し、術式は個体ではなく液体や気体に近いものであり、それをブレードで捉えて、尚且つ一瞬で破壊しないといけないのはかなり難しい。
1ヶ月以上訓練して、漸く初級レベル魔術である魔弾の術式破壊が出来るようになった。
「次、的作って下さい」
「10メートルくらいでいいですね?」
10メートル程離れた場所に青色の魔法陣が出現する。その直後、魔法陣から高さ2メートルくらいの人型をした水の塊が現れる。これは訓練の時に的を作るのに使っている魔術だ。
「ふぅ・・・・・・」
目を閉じて深く息を吐き、集中する。
横一閃。中段で構えていたブレードを水平に振るい、何も無い空気中に斬撃を放つ。
斬撃は空気を斬り裂く風の刃となり、不可視の斬撃は的へ目掛けて一直線に飛んでいき、水の的を真っ二つにする。水の塊は斬られた瞬間に形を崩して普通の水となる。
(よしよし、こっちも悪くないな)
斬撃を飛ばすには刃に魔力を纏わせて、斬撃を放つと同時に、斬撃を振るった方向と寸分違わずに魔力を刀身から空気中に流し、その魔力を斬撃によって生じた空気の振動に乗せる事が必要だ。
魔術を無効化する術式破壊と間合いの外の物を斬る飛ぶ斬撃、この2つの技術がある事が魔術師が跋扈する現代で剣士が存在し続ける理由の1つだ。
「・・・・・・ッ!」
背後から向けられる鋭い殺気。俺は条件反射で右腕を後ろに回して、後頭部を目掛けた攻撃をブレードの刀身でガードする。
「ふむ、氣も読めるようになったのだな」
「あれだけ殺気を出してくれるなら、ですけどね」
後ろを振り向くと両手に木刀を持った仁也さんが立っていた。仁也さんは時々さっきの様にして抜き打ちで俺が氣を読めているかを試してくる。
五感のいくつかを封印する事で他の五感を鍛える事で、ある程度なら氣を読めるようになった。とは言っても暗殺者などの相手をするにはまだまだだが。
「今日は久々に実戦形式にしようか」
「了解です。全力でいきますよ!」
仁也さんから木刀を1本受け取り、その木刀を片手で持ち半身で構える。
そして木刀での剣戟が始まる。
(2週間後には職務体験がある。実戦らしいからな、もっと精進しないとな)
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