第14話 体育祭

体育祭当日。軍校周辺の山の麓に1年生150人全員が集まっており、クラスごとに30人ずつで固まって集合している。

周りを見渡すと三分の二くらいの人数が銃器やブレードといった武器を携えていて、残りの人間は手ぶらだ。手ぶらの人はほとんど魔術師だろうな。

そんな風に考えていると風間校長がマイクを持って前に出てくる。


「1年生の皆さん、おはようございます。今日は皆さんにとって初めての体育祭です。私からルールの説明をさせてもらいますね。ルールは2つ。1つ目は相手の殺害の禁止。皆さんに支給されている武器は殺傷能力を限りなく落とした物ですし、魔術科の生徒には魔術の威力を軽減する魔術を掛けてあります。心置きなく戦って下さいね。2つ目のルールはこの体育祭の勝敗について。体育祭は特点制でより多くの特点を取ったクラスの勝ちです。特点を取る方法は他のクラスの生徒を気絶、戦闘不能にすると2ポイント。逆に気絶もしくは戦闘不能にされた生徒の所属するクラスは-1ポイント。タイムアップまで生き残れば1ポイントです。制限時間は4時間。今から1時間後の9時にそれぞれのクラスのスタート位置から開始なのでそれまでクラスで各々作戦会議などをどうぞ」


風間校長の話が終わるとそれぞれのクラスが自らのスタート位置に向かっていった。




俺達は風間校長に言われた通りに3組のスタート位置での作戦会議をしている。


「戦法とかどうする?」

「攻めた方がよくね?」

「でも負けたら点数減るぞ」


クラスの中でも発言力が高い生徒が中心に各々の意見を出し合っている。

1人倒せば2ポイントだが負けたら-1ポイントか。戦いに行くべきか、それとも確実に生存ポイントを取りにいくか。


「攻めるべきだろ!全員が1回ずつ戦ったら仮に勝率が5割だとすれば減点を含めても15ポイントは入る。4時間も全員生き残るのは難しいだろうし、敵を減らせばその分他クラスの生存ポイントも下がるしな。でも後半は強い生徒が生き残るだろうから何人かの点取屋以外は生き残るの中心に切り替える」

「おお!」

「なるほどなぁ」


意見がバラバラだったクラスの皆んなが圭一の案に同意する。確かに合理的な意見だ。タイムアップまでどれだけ生き残れるか分からない以上、戦闘して出来るだけポイントを稼ぐべきか。圭一は案外頭がキレる、指揮官なども出来るだろうと北条先生に言われていた。


「俺とお前で出来るだけ点取るぞ!」

「了解だよ司令官さん」

「茶化すなよ」


圭一が俺の肩に手を乗せて話掛けてくる。分かってはいたが、やはり点取屋の中には俺も入っているらしい。信頼されているからにはそれに応えられるようにしないとな。




「皆さん準備はいいですね?ではゲームスタート!」


スピーカーから聞こえる風間校長の声を合図に全員が一斉に走り出す。

勿論俺も全速力で走っている。山の中は走り慣れているのでクラスの先頭集団の1人として走行中だ。

当然だが全員で一緒に行動するわけではないので各々色々な方向に向かって行き、数分走っているとで1人となっていた。


『相真君、右側に2人います』

『分かった』


ルナからの念話に俺は短く返事をして木の後ろに隠れる。

木陰から2人の動きを伺っていると、アサルトライフルを構えた男子生徒2人が立ち止まる。


(バレてるか・・・・・・)


さっきチラッと見たがあの2人の持っていた銃はAKー47とM16自動小銃だ。共に世界各国の軍隊で使用されているメジャーなアサルトライフルだな。

ドッと地面を蹴り俺は一気に駆け出す。勿論真正面から距離を詰めるような事はしない。そんな事すれば一瞬目で蜂の巣だからな。なので俺は大きく左側を回わるように走る。

俺が走りだすと同時に銃声と共に何十という銃弾が放たれる。銃は本物だが弾丸は偽物で当たっても「滅茶苦茶痛い」で済むので迷いや恐怖は無い。とはいえ当たれば痛がっているところをそのまま袋叩きにされかねないので当たるわけにはいかないので、小まめに木の後ろに隠れている。


(ただこれも悪手だな。俺が隠れている時間はあの2人からすれば絶好のリロードタイミングだろうからな。隠れるふりをしてリロードしたところを狙うか?いやーー)


俺は再度左回りに走り出す。リロードを済ました2人の男子生徒も共に射撃を開始する。俺はさっきよりも長い距離を走っていく。


(このままリロードまで走り続ける、と思わせてーー)


左回りで走っている中で思いっきり木を蹴って反動を使って強引に方向転換、反作用を利用して右方向に大きく跳ぶ。


「なッ!?」


急に方向転換した俺に再度照準を合わせようとするがもう遅い。

2人の方に直角に曲がり一瞬で距離を詰めて1人目の腹部に斬撃を叩き込む。いくらレプリカのブレードとはいえ魔力操作で身体強化した斬撃を受ければ意識は簡単に闇に落ちる。


「まだだ!!」


気合の篭った声と共に残ったもう1人がAKー47を構えて発砲する。銃弾を避けるのは今の俺にとっては不可能な芸当である。なのでーー


「ほいっ」

「なんだとッ!?」


俺はブレードを手放してさっき気絶させた男子生徒を掴み、盾にする事で銃弾を防ぐ。なんとも残酷な事をしている気がするが訓練だし許してくれ。

さらに俺はグロック17を抜き、間髪入れずに発砲。驚愕している男の構えているAKー47を弾き飛ばす。

手ぶらになった男子生徒にとどめを刺すべく地面を蹴り距離を詰める。


「チッ!」


男子生徒は地面に落ちているAKー47を拾うではなく、近接戦闘に対応すべく拳を握り半身で構える。

俺はブレードを持っていないし、AKー47を拾うより俺が距離を詰める方が早いので良い判断だ。だがーー


(近距離じゃ俺に分がある)


男子生徒が接近する俺に放つ拳を掌で弾くようにしていなして、頭部をグロック17の銃身で殴る。男子生徒はその場で倒れ込む。恐らく脳震盪だろう。


(これで4ポイント。この調子でキルムーブといきたいが)


流石に4時間も魔力操作での身体強化を続ければ魔力が尽きる。かといって何度も魔力操作のオンオフを切り替える事も出来ない。それならーー


(おっ案外出来るもんだな)


魔力操作で体内を巡る魔力の量を減らした。身体能力は通常時と変わらないくらいになるが、魔力の消費は抑えられる。


『へぇ、案外器用ですね』

『この方法間違ってるか?』

『いえ正確ですよ。ただ私が教える前に出来たので感心しました』

『出力を上げられるなら出力を下げる事も出来るかと思ってさ。さぁ次行くぞ』




甲高い金属音が鳴り響きレプリカのブレードとサバイバルナイフがぶつかり合う。

体育祭が開始してから3時間強が経過して今は白兵科と思われるサバイバルナイフを両手に持った男子生徒との戦闘中だ。


「うぐッ!」


俺はブレードでの横一閃で斬撃を弾いて隙を作り、相手の胸筋に熊手掌打を放つ。

男子生徒はその威力に数メートル吹っ飛ぶ。


『後ろから来てますよ』


ルナが高速念話を用いて冷静な声音でそう伝えてくる。次の瞬間俺の首目掛けて振るわれるサバイバルナイフが首に当たるーー直前で止まる。

ルナからの念話を受けた俺が横一閃を振るったブレードを逆刃持ちに切り替えて、そのまま後ろから奇襲してくる相手の鳩尾に突き刺したためだ。


「悪いな。あんた達がタッグ組んでるように俺にも頼れる相棒がいるんだよ」


白眼を向いて倒れる生徒に俺はそう告げる。

そしてさっきのサバイバルナイフ両手持ちの生徒を仕留めようとした正面を向き直るとーー


「悪いわね相真。このポイントは私が貰ったわよ」

「おいおい結梨ちゃん漁夫の利かよ」


地面に横たわるさっきまで戦っていた男と、夜空のように美しい黒髪の幼馴染の姿がそこにあった。


魔王継承ファントムフォース


ここまで温存しておいた能力を発動して半身で構える。もう体育祭も終盤というのもあるが、目の前に佇む結梨は前期テストで魔術の実技テストで2位、学年序列4位で生徒ランクはA。ナメプなんてしてたら即効でやらてしまうだろう。


「《星天魔弾スターバレット》」


結梨が手を前に突き出すと金色の魔法陣が現れる。その魔法陣から星の様に輝く"魔弾"が放出される。

俺はその魔弾を右横に跳んでどうにか躱す。しかし魔弾が1発で終わるわけもなく連続で放ってくるので、結梨に背を向けてダッシュで逃げる。


「いきなりだな、おい!」


魔弾とは属性魔術の基礎の攻撃魔術で威力は当たれば数メートル吹っ飛ぶ程度だ。

生茂る木々で身を隠しながら全速力で走る。魔弾からここが山の中だという事を活かしてなんとか回避する。


(ああ、クソ!これだから魔術は嫌いなんだよ)


弾速も弾数を圧倒的にアサルトライフルに劣るのにも拘らず、能力を発動している俺の身体を掠めてくる。

銃器と違って魔術には自動照準オートエイムに近い機能があるので命中率は圧倒的だ。

真っ直ぐ走り続けるわけにもいかないので小まめにカーブしながら進行方向を変えて走る。


(鬱陶しいなッ!?)


当たりそうな魔弾があり、回避のために曲がっても俺の背中目掛けて魔弾が飛来してくる。


「今度は追尾機能ホーミングかよ!」


追尾きてくるのを確認した瞬間に俺は身体を捻り後ろを向く。弾速は結構速いよで回避は不可能、ブレードなどて魔術の術式を破壊すれば魔術は無効化出来るらしいが逆刃刀じゃ無理だ。

なので俺は腰のベルトのケースからサバイバルナイフ(レプリカ)を抜いてそのまま投擲する。ナイフ投げは回転させて敵に当たるらしいが俺にはそんな技術無いので、力任せに真っ直ぐ投げる。

能力で身体能力が強化された事もありどうにか空中で魔弾を迎撃出来た。


「あら相真油断しすぎじゃない?《流星落撃メテオドロップ》」


その声が聞こえた瞬間に空に星色の魔法陣が浮かんでいる事に気づく。しかし気づいた頃にはもう魔術の行使は始まっておりーー


「ッ!?」


空から落ちてくる流れ星のように輝く巨大な光の弾丸。コントロール重視から攻撃範囲でのゴリ押しに切り替えた様だ。

横に大きく跳び魔術の直撃を回避するが余波の衝撃で吹っ飛ばされる。普通なら数メートル吹っ飛んで周りの木に背中を打ち付ける可能性があったが、両足を強引にブレーキにしてどうにか体幹で踏み止まる。


(そろそろこっちも反撃といくかね)


流石にあのデカブツを降らせたならクールタイムがある筈なのでその隙に距離を詰める。結梨との距離は約20メートル、能力と魔力操作で強化された今なら2秒と掛からない。

ブレードの届く間合いまで一気に詰めてガラ空きの腹部に斬撃を放つ。


「チッ!」


カキン、と甲高い音と共に俺のブレードは半透明な"障壁魔術"に防がれる。

障壁魔術とは魔術で生成されるの盾の様なものだ。属性の無い魔術で、魔力のエネルギーをそのまま物理的障壁に変化させる科学魔術の一種だ。まぁ簡単に言うと魔力で出来た物理的な壁だ。

ただあの流星の様な魔術のクールタイムが無いわけではないだろうし、恐らく俺が攻撃する前から術式は完成しており、攻撃を仕掛けたタイミングであの障壁を展開したのだろう。


「《突流星メテオストライク》!」


障壁魔術に斬撃が拒まれた俺に容赦なく打ち込まれる光線レーザーの様な魔術。攻撃範囲はさっきの魔弾と同程度に見えるが速度は桁違いに速い、身体を逸らしてギリギリ直撃は避けられた。さっきの魔術が掠めた頬は鮮血で濡れている。


「今のをよく避けたわね。でもまだよ《星天散魔弾スターショット》」


空中に散る無数の魔弾。弾速は普通の魔弾より遅いがいかんせん量が多い。

脚力を活かして1度大きく後ろに跳び、バク転しながら後退する事で体勢を整えながら魔弾を回避する。


(ふぅ、やっぱり魔術師の相手はキツいな。結梨に勝つにはあの障壁を何とかしなきゃだな。壊すか背後に周るか)


今の装備ではあの障壁を破壊するのは難しい、なので障壁の無い背後から攻撃するのが定石セオリーだろう。しかしそれは結梨も分かっている筈だ。


「だったら逆張りするしかないだろ!」


ホルスターからグロック17を抜き4発発砲。当然実弾でもない銃弾など障壁には効かず弾かれる。勿論この程度で壊せるとは思っていない。

俺は背後の木を思いっきり蹴りその勢いで障壁にブレードで刺突を放つ。レプリカブレードの突きの威力では多少勢いをつけただけでは壊さない。

しかしーー


「なっ!?」


障壁とブレードがぶつかり合い、一瞬だけ拮抗するが俺の刺突が障壁を貫通する。ブレードに貫かれた箇所からヒビが入り直ぐに障壁全体に広がっていく。

そしてパリン、とガラスが割れるような音を上げて割れて粉々になり崩れ落ちる。


(案外何とかなるもんだな)


あよ障壁を壊すのに別に大して難しい事はしていない。最初の銃弾を4発全て寸分違わず障壁の同じ位置に命中させ、銃弾を当てた場所に刺突を打ち込んだまでだ。


「嘘でしょッ!!」


障壁を壊された事に驚愕している結梨は接近した俺から距離を取ろうとバックステップで後ろに跳ぶが、障壁が割れた時点でこの勝負は決している。

逃げる結梨の腹部に横一閃を叩き込み気絶させる。


「ふぅ。結構しんどかったな」


倒れている結梨を横目に俺はその場を後にする。




ここは第二職員室。普段は会議などに使われる場所だが今日に限っては違う。壁に貼られた沢山のモニターには体育祭の状況が映し出されており、不正が無いかの監視や気絶した生徒を医務室まで運ぶ教師のサポートなどをしている。

勿論自分のクラスを応援している担任の教師なども多くいる。私、北条聡美もその1人だ。


「なるほど、あれがSランクの黒木相真か。いい動きだな。北条先生の教育の賜物か?」

「いえ、あれは相真君の努力と才能の力ですよ。私の教育など微々たるものです」


私と共に体育祭の模様を観戦している柳原先生が話しかけてくる。

柳原響也やなぎはらきょうや、クラスの担任はしていないが色々なクラスの格闘術の授業に出たりしている。去年兵科訓練では白兵科を担当していた。現在はマンツーマンでの指導をしている。


「柳原先生の教え子も凄いじゃないですか。彼は相真君より強いと思いますよ」

「どうだろうな」


(さぁ、君の力を見せて下さい。相真君)




(さてそろそろ終わりか。戦えてもあと1人くらいか?)


そんな風に考えながら山の中を移動いていたその時ーー


「うおっ!?」


10メートル先くらいから1人の男子生徒が吹っ飛んでくる。直撃しかけたがギリギリで回避して、倒れている生徒の元まで行き顔を確認する。


「圭一!お前どうしたんだ?」

「悪いな相真。負けちまった・・・・・・後は頼んだ」


圭一は生徒ランクAで学年序列は俺に次ぐ3位。そんな圭一が負けるような相手なんてこの学年にそういない。


「流石に強いね。これが学年の3席か」

「なるほど。あんたか」


圭一が飛んできた方向から歩いてくる1人の人影。

考えてみれば圭一を倒せるのは目の前の彼くらいか。


「生徒ランクSの学年序列1位。第1学年主席白夜びゃくや 光瑠ひかる

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