第12話 前期総合テスト
月日は流れて今は7月。季節としては夏に差し掛かったところなのでそれなりに暑い。教室や体育館にはクーラーが効いていて涼しいが外での訓練はぶっちゃけ地獄だ。いくら休憩中に魔術で水分補給が出来て身体が冷やせるとはいえ、訓練中は死ぬほど暑い。
「・・・・・・相真君、聞いてますか?」
「え、あ、はい聞いてますよー」
「だったら私はさっき何の話をしてめしたか?」
ずっと窓の外を見ていた俺に北条先生はニコニコとしながら聞いてくる。笑顔ではあるのだが目が笑っていない殺気すらを感じる。因みに先生の話は全くと言っていいほど聞いていなかった。
「えーと、インダス文明がどうとかって話でしたっけ」
「前期テストの話ですよ!何ですかインダス文明って!そもそもこの学校で歴史の授業はしませんし!」
案の定俺の回答は的外れだった様で先生は不満そうな顔で物申す。
「前期テストっすか?」
「そうですよ。ちゃんと聞いてて下さい!」
前期総合テスト。生徒ランクを決めるテストであり、筆記テストが2つ、実技テストが2つ、実戦形式のテストが1つあり2日間かけて行うらしい。
(筆記とか出来る気がしないんだけど。まぁいいや、他でどうにか取り返そう)
『勉強するっていう選択肢は無いんですね』
『だって訓練のせいで勉強する時間無いし、勉強面倒だし』
『絶対後者が理由ですよね』
翌日ーー
(ああ、全然分からん)
1時限目と2時限目は筆記テストをするようだ。最初の筆記テストは英語と外国語(選択)、科学の分野という普通科の内容(問題の内容は普通じゃない)となっている。
外国語は選択制でイギリス英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、中国語の中から選ぶことになっている。因みに俺は英語と大して変わらないので楽だと言われているイギリス英語を選択したのだが、そもそも英語が全然出来ないのであまり楽てばないという。
『ルナぁ。何とかしてくれ〜』
『私も英語や科学は分からないので無理です。自力で頑張って下さい』
という感じで1時限目のテストはぼろぼろだった。しょうがないな、うん次から頑張るとしよう。
『切り替えだけは早いですね』
『だって普通教科の筆記なんて最初から捨ててるからな。俺の戦いはここからだ』
『そんな打ち切り漫画みたいな
ルナと念話で談笑していると2時限目のテストが配られる。
2時限目の筆記テストは軍事知識、魔力学、武装知識についてだ。軍事知識と武装知識は得意だし俺がさっぱりの魔力学はルナが念話で教えてくれるからこれなら何とかなりそうだ。
『自分で考えて下さいよ。私がいなくなったらどうするんですか?』
『縁起でもない事言うなよ。本当にいなくならないだろうな?』
『当たり前じゃないですか。そんなに心配しなくても私はずっと君の元にいますよ』
そう言ってニコッと微笑むルナ。
『よし!とっとと終わらすか!』
そう意気込んだ俺はシャーペンを走らせる。
「では実技テストを始めますよ。実技テストでやる事を教えてます」
北条先生が拡声器を使って俺達に実技の内容を伝える。実技テストの内容は2つ。格闘術のテストと魔術もしくは武。武装を使ったテスト(武装か魔術かは選択制)の2つだ。因みに俺は当然武装の方のテストを選択している。
「格闘術のテストは我々教師との一対一で戦うというシンプルなものです。もし我々に勝てればズルしない限り問答無用で100点となりますので頑張って下さいね。何か質問はありますか?」
「はい。1ついいっすか?」
「どうぞ相真君」
「能力って使用可能ですか?」
誰も手を挙げなかったのでしょうがなく俺が質問する。
「能力も魔術も使用しても問題ありません。でも相手に与える攻撃は格闘術のみに限定されます」
「えっいいんですか?俺が言うのもなんですが能力使っちゃってら公平じゃなくなりません?」
「能力に限らず才能もその人の力ですので。例えば魔力の高い人は魔術のテストで有利ですし、集中力の高い人や銃のセンスがある人は武器のテストで有利です。才能は誰しも平等では無い、能力も例外ではありません」
「なるほど・・・・・・」
まぁ確かに戦場に出れば公平も不公平もあったもんじゃないしな。
テストが始まってから約30分が経ち漸く俺の番になった。俺は相手となる教師の前に歩いて向かう。
教師は身長180センチ位で筋肉質な体つきだが決して他の教師よりガタイが良い訳ではない。ゴリマッチョって感じの教師もいるしむしろ男性教師の中では小さい方だろうか。
「えっと、よろしくお願いします。能力使わせてもらっていいんですよね?」
「勿論だ。本気を出してもらわないとテストにならんからな」
そう言って先生は半身の構えをとる。それを見て俺も同じように半身で構える。
「テスト開始!」
『《
スピーカーから聞こえてきた瞬間俺と先生同時に駆け出す。一瞬で離れていた距離はゼロになり互いに多様な格闘術による攻撃を放っていく。
左から迫る拳撃を半身を翻して躱し、カウンターのボディーブローをお見舞いする。しかし腹部を狙ったその拳は先生に右手だけで掴まれ、そのまま無造作にぶん投げられる。俺は数メートル転がるが受け身は取れているのでダメージは対して無い。
能力によって近接戦闘では確実に俺にアドバンテージがあるのに簡単に攻撃が防がれる。魔力の身体強化も格闘技術を格上という事だろう。
「・・・・・・ッ!」
立ち上がろうとする俺に先生は即効で接近し膝蹴りを放ってくる。俺は手をクロスしてガードするが防ぎきれず、数メートル吹っ飛ぶ。
(ああ、腕痛え。油断したな・・・・・・)
ガードした腕は軽く痙攣しており、ジンジンと痛みが走る。俺は再度気合を入れ痛みを頭の中から取っ払い、地面を蹴り低い姿勢から先生に接近する。
さっきと同じようにボディーブローをを放つと見せかけて、直前で拳撃の軌道を変えアッパーを放つ。見せ札によるブラフ、
しかしアッパーは当たるギリギリのところで首の筋肉で頭を後方に逸らして回避される。
「クッソ!!・・・・・・カハッ!」
大技を外した代償は大きく先生の右脚の蹴りが俺の脇腹を捉える。先生が回避でバランスが崩れていたとはいえ、かなりの距離吹っ飛ばされる。
流石は軍校教師だな、俺の攻撃が全くと言っていい程通用しない。フェイントさえ当たらないとなると、どうしようない気がしてくる。
(戦闘中は弱気になってちゃダメだな!勝つ気がなかったら勝てるもんも勝てないだろうしな)
ふぅ、と大きく息を吐きもう1度半身の構えをとる。
そして再度打撃の応酬が始まり、何十という打撃がぶつかり合う。一見は状況は拮抗しているように見えるが実際はかなりの劣勢。こちらの攻撃は1発も当たらないが先生の攻撃は躱しきれず既に何発か食らってしまっている。
「くぅ・・・・・・」
時間が流れるにつれ食らう攻撃も増えていき、当然俺の身体にはダメージが溜まっていく。
攻撃に耐えきれず腕をクロスしてガードしながら後ろに下がろうとするが、攻めの姿勢を崩した瞬間に生まれた隙に腹部にを掌打を打ち込まれる。どうにか掌打を逸らして脇腹で受けることが出来たがダメージはかなり大きい。
猛攻にどうにか耐えバックステップで後ろに下がる俺に追撃せんと先生は姿勢を低くしながら接近してくる。
(・・・・・・ここだっ!)
先生が距離を詰めてくるタイミングを狙っての真下からの蹴り上げ、爪先で顎を捉えるべく放たれる。しかし先生はそれを読んでいたかのように一瞬身体を逸らして俺の渾身の蹴りを躱して返しの掌打を俺の腹部に叩き込むその瞬間ーー
「・・・・・・ック!」
ーーかかと落とし。
垂直に上げられた脚を重力に従って最速で姿勢を低くした先生の背中に叩き落とす。俺のかかと落としと先生の掌打が互いの身体に当たったのはほぼ同時、そして次の瞬間には互いに倒れる。
一矢報いることは出来たが、先生は俺のかかと落としの勢いに負けただけで別に気絶はしてないだろう。
そこまで考えて俺の意識はぷっつりと途切れる。
「・・・・・・うーん、あぁ」
「お目覚めですか、相真君?」
「北条先生、どういう状況っすか?」
「テストで気絶しり怪我した生徒はここで治癒魔術での治療を受けるんですよ」
目が覚めると医務室のベッドで寝ており、隣には北条先生が座っていた。
身体を起こして周りを見渡すと俺と同じように寝ている生徒が何人かいる。
「気絶した生徒って結構少ないんですね」
俺がテストを受けた時点でもう半分ほどの人がテストを受けていたが、ここには10人ちょっとしかいない。それだけの人が教師を相手にして気絶しなかった、もしくは俺がかなり長い時間気絶していたかだな。
「ほとんどの生徒は寸止めや固め技での気絶でテストが終わるので気絶する人は少ないんですよ。逆に気絶させられた生徒は相手の教師に気絶を選択させるほどに善戦したって事です」
「なるほど。じゃあ成績は期待していい感じですかね?」
「相真君は一撃与えましたからね。いいと思いますよ」
(良かった。これで筆記の点数の低さをカバー出来そうだな)
俺は心の中で安堵しながら立ち上がる。時計を見たがもうそろそろ武装のテストが始まる時間に差し掛かろうとしていたからだ。
「もうすぐ武装のテストですよね。そろそろ移動した方がいいですかね?」
「相真君は気絶させられので呼ばれる順番は最後の方でしょうからまだ休んでても大丈夫だと思いますよ」
「なるほど。ならもう少し休みたいっすね」
約1時間ほど休んで次の武装のテストがある第1体育館の2階まで移動してきた。
武装のテストは銃火器を用いた射撃技術のテストとブレードやサバイバルナイフを使う白兵戦のテストのどちらかを選べるのだが、俺は射撃技術の方を選択した。
能力を使えるので白兵戦のテストのが点数は取れるだろうが、武装を使った白兵戦の実戦訓練は兵科訓練で毎日やっているので、射撃技術のテストで自分の実力を試す方がいいと北条先生に言われたからだ。
射撃技術のテストでは最初に動かないごく普通の的を狙い、次に動く的を狙う。銃は得意な物を選んでいいのだが、銃の性能によって的の距離が変わってくる。そして1度発泡したら連続で撃ち続けないといけない。俺はハンドガンを選んだので的との距離は1番近い。
「ふぅ・・・・・・」
1度大きく息を吐き魔力で集中力を強化する。右手で握るグロック17を的に向けて構える。
的の中心部を外したのは1発だけ。能力を使わずにこれだけ当てられれば上々だが、もしここが戦場ならその1発が命取りになる。
(戦場で死なないようにもっと訓練しないとな)
次のテストは魔術で動かしてる的を狙うというもので、外でテストが実施される。詳細としては時速30キロほどで空中を飛んでいる魔弾を撃ち抜くというものになっている。魔弾が飛ぶ高度も方向もバラバラとなっている、炎天下の中全て先生達が人力でやっていると考えると教師も大変だな。
「テストを開始します」
《
スピーカーから流れる北条先生の声が聞こえる。その瞬間俺は本日2度目の能力を発動する。そして空中を飛来し地上を滑るように飛ぶ魔弾を全て撃ち抜く。
確実にさっきより難しいテストだが今度は全て撃ち抜き満点となった。
能力によって俺の脳の処理能力、集中力はかなり上昇しているのであの程度なら余裕で撃ち抜ける。
「ふぅ、これでテストは全部終わりだな」
「お疲れ様です。今日は兵科訓練は休みにするので自分の部屋でしっかり休息をとって下さいね」
「分かりました。もう帰っていいんですか?」
「はい、生徒はテストが終わり次第下校となっています。もうほとんどの生徒は帰ってますよ」
俺がグロック17のマガジンを外してリロードをしていると、北条先生が向かって来て俺にそう告げた。
白兵戦のテスト以外に大した事はしていないが、能力を2回発動して、魔力操作を3度もしたので精神的疲労はかなり大きい。
(精神的疲労だけじゃなくて、何かが身体から抜け出たような変な喪失感もある気がする)
『それは魔力が減っているからですね。元々魔力が多いわけではない相真君が3度も魔力操作をした上に、魔力操作も不完全なもので無駄な魔力が漏れていましたしね』
いつもの様に俺の心を読んでルナが念話を送ってくる。
『でも前ショッピングモールで戦った時はかなり長い時間魔力操作としてたぞ。恐らく今日魔力操作した合計時間よりも長い。それなのにあの時は戦闘中にこんな風にはならなかったのはなんでだ?』
『魔力の身体強化は起動するのに魔力を沢山使うんです。持続させるだけなら大した量消費しません。その為でしょう』
『なるほどなぁ』
その後ルナと念話しながら俺はマンションへと帰っていった。
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