第9話 休日

仁也さんに剣術の指導を受け始めてから1ヶ月以上がの月日が流れ、今は6月の中旬で絶賛梅雨の真っ最中で今日も雨がしんしんと降っている。


「ねぇ相真君も明日は休みだよね」

「そりゃあ明日は日曜日だしな当然休みだよ」


今日は土曜日なので授業無しで兵科訓練しかしない。それで今は訓練が終わったので沙月と雨の中一緒に寮基マンションまで帰っているところだ。


「ならさ明日一緒に買い物でも行かない?最近は訓練も落ち着いたてきたし、デパートがあるって聞いたんだけど行ってみない?」

「最近は筋肉痛にもならなくなったし別にいいぞ。・・・・・・でもこういうのって女同士で行くもんじゃないのか?」


訓練が始まって2ヶ月くらいは日曜日は筋肉痛で動けなくなっており部屋に篭るしかなかったが、最近は身体が出来てきたのか筋肉痛にもあまりならなくなってきた。


「いやぁ、それが私どうやって友達作ればいいのか分からなくて、だからあんまり友達いないというか・・・・・・」

「ああなるほど、まぁ俺も友達は多いタイプじゃないしなぁ。なぁ明日遊びに行くなら圭一も誘っていいか?」

「うん、いいよ。人数は多い方がいいし」


そう言って微笑む沙月。2人だけというのも嬉しい提案なのだが、女の子と1対1というのはコミュ力の低い俺には難易度が高すぎる。


「じゃあまた明日ね」

「おうまたな」


エレベーター内で沙月と分かれて自分の部屋に向かう。




部屋に入るとリビングで横になりながらテレビを見ている圭一に早速さっきのことを話した。


「へぇ沙月ちゃんとか。面白そうだし俺もいくわ」

「明日の朝らしい。寝坊するなよ。俺は起きれないと思うから寝坊してたらお越してくれ!」

「いやお前もちゃんと起きろよ」


圭一が笑いながらツッコミを入れてくる。まぁ実際はルナが念話で起こしてくれるから問題ないんだけどね。


『自力で起きるって選択肢は無いんですね』

『明日は日曜日だぞ。俺が早起きできるわけないだろ』


俺はルナと念話をしながらバッグに入っている1丁のハンドガンと1本のサバイバルナイフを取り出す。


「おっ!お前も武器貰ったのか」

「まぁな。"お前も"ってことはそっちも?」

「ああ貰ったよ。まぁ俺はサバイバルナイフだけだけどな」

この武器はついさっき北条先生から貰ったものだ。




***


「ふぅ・・・・・・訓練終わり!疲れたぁ」

「ふふ、お疲れ様です。はい体力回復の魔術ですよ」

「ありがとうございます。あぁ生き返る」


兵科訓練を全て終えて体育館の床に座り込んでいる俺はに北条先生が治癒魔術を掛けてくれる。


「相真君頼んでた物がやっと届きましたよ」

「おお!マジですか!?」

「ええ、はいどうぞ」


そう言って先生に渡されたのはグロック17と黒い刃のサバイバルナイフ。軍校の生徒は魔術師以外は基本武器を携帯する。護身用の為や自分で武器の手入れを出来るようにする為など色々理由があり軍校から無料で支給される。


「おー!なんか凄え!」


語彙力が欠如した感想しか出ないがかなり嬉しい。初めての自分の武器ってのがなんか感動する。


「サバイバルナイフはそこそこの性能の物を買いましたよ。市販のサバイバルナイフとは耐久性も切れ味も全然違いますよ。色は黒で良かったんですよね?」

「ええ、大丈夫です」


色を黒にした理由は単純に黒の方がカッコ良かったからという訳ではなく、黒だと夜や暗い所で相手から見づらいからって理由だ。「どこで戦うことになるか分からないしなら黒のが良いかと」思ったらからだ。


「これは君の物です。しっかり自分の部屋でも手入れをして下さいね」


***


翌日ーー

「楽しみだね〜。私今まではデパートなんて行ったことなかったからさぁ」

「えっ、沙月ってデパート行ったことないのか?」

「私の家貧乏だったからお出かけとかほとんどしたことないんだよねぇ」

「なるほどな」


ちょくちょく見せる沙月の変わった過去はなんなのだろうか?まぁ過去が普通じゃないってなら俺も同じなんだが。


「山の外にはこのバス使うんだな。初めて知った」

「俺も。軍校に入ってから出掛けたことなんてなかったし」


俺達が山を降りるのに使っているのは軍校専用のバスだ。イメージとしては大きい遊園地やホテルとかに置かれているバスみたいな感じだ。




バスで山を降りてから徒歩で約30分程で目的のデパートに着いた。大きさはかなりのもので数ヶ月前まで住んでいた家の近くにあったデパートよりも大きい。


「おお!凄い広い!」


デパートの中に入ると沙月が目を輝かせながら周りを見回している。


「沙月は何か欲しい物でもあるのか?」

「やっぱり洋服とかかなぁ。相真君と圭一君はなんかあるの?」

「俺は特には無いかな。強いて言うならパソコンくらいかな」

「俺も別に無いな。少年ジャ○プくらいかなぁ」

「お前な、ジャ○プくらい学校の売店で買えるだろ」


そんな風に談笑しながら俺達は買い物を満喫した。




「ああ、食った食った」

「やっぱマッ○は最高だな」


服やらなんやらの買い物をしていたら12時を回っていたので昼食をフードコートで済ました俺達3人は取り敢えず1度1回に降りた。


「これからどうする?どこか行きたい所とかないのか?」

「私はもう十分満足してから2人が行きたい所でいいよ」

「俺は別に行きたい所とかは無いな。相真に任せるよ」

「ならゲーセンでも行くか?」

「おっ!良いじゃねぇか。ゲーセン行こうー」


ーーパァン

俺の話に同意しようとした圭一の声を遮ったのは、それなりに聞き馴染みのあるがこの状況では聞こえる筈のない音。


「動くなよ客ども!今からこのデパートは俺達がジャックした!」


乾いた銃声と共に大声を上げて武装した男達がデパートに入って来た。




テロリストたちがデパートを占拠してから約30分がたった。1階にいた客達は全員1カ所に集まられて座らせられており、最初は銃声を状況を飲み込めず騒がしかった他の客も今はかなり静かになった。とはいえ周りを見回すとほとんどの客達が不安や恐怖の表情を浮かべている。


『やばい事になったなぁ。なぁルナどうすりゃいい?』

『戦うことも出来なくは無いと思いますよ。周りの部下達はこちら側の人間ではなさそうですし、今の相真君なら全員相手するのも余裕かと』

『じゃああの軽装の強そうな2人はどうだ?』

『あの2人と戦うのはきつそうですね。恐らくこちら側の人間だと思われます』

『マジかよ。それはしんどいな』


こちら側の人間が相手となると魔力による身体強化が可能だろう。そうなると《魔王継承ファントムフォース》で上昇した身体能力で強引に倒しきるとかは難しいだろう。さてどうするか。


「やっぱりSATとかの特殊部隊の到着を待つべきか?」

「俺としては俺達でなんとかしたほうがいいと思うけどな」

「その心は?」


俺が隣に座っている圭一に小声で相談すると予想外のコメントが返ってきた。


「こういう場合SATは人質が殺されるのを恐れて強行手段には出てこない。これ俺の経験則な」

「なるほどねぇ」


"経験則"というのが何を意味するかは分からないが今はそんなこと気にしている暇は無い。


「じゃあ俺らでなんとかするか。沙月は?」

「私も勿論協力するよ。2人ほど強くはないけど魔術でサポートくらいは出来るよ」

「分かった。俺はスモークグレ持ってるからタイミング合わせて周りの部下達から先に倒すぞ。その後俺はあの強そうな2人の相手をする。2人は上の階の奴らを倒してくれ」

「おいおい1人で大丈夫なのか?上の階は俺が1人でやる方がいいんじゃないか?」

「いや、上の階に怪我人がいるかもしれないから沙月がいた方がいい。それに何も俺はあの2人を倒す必要はない。お前らが上の階を制圧して戻ってくるまで時間稼ぎすればいいんだからな」

「分かった。出来るだけ早く終わらせてくる」

「スモークグレネード使うなら視力支援の魔術掛かるね」

「それならスモークグレ投げた直後で頼む。奴らのボスらしき2人はこちら側っぽいからな。3カウントで行くぞ」

「おう!」

「3、2、1、ゴー」


そう言い放つと共に発煙手榴弾(軍校支給品)を投げる。次の瞬間モクモクと広がる白い煙に辺り1面包まれる。


『《魔王継承ファントムフォース》』

「《魔力支援マナサポート・視力》頑張ってね相真君、圭一君」

「な、なにがっ!?・・・・・・グハッ」

「お、おい・・・・・・カハッ!」


視力の支援魔術を貰った俺達は発煙手榴弾の煙に慌てている部下達を次々に倒していく。いくら相手が大人で武装しているとはいえ、奇襲で能力と魔力で身体強化をした俺なら余裕で撃破できる。

煙が収まった頃には周りにいた10人ほどの部下は全員気絶している。


「皆さん!早く逃げて下さい!」


沙月が大声で他の客達に逃げるように指示をする。

その言葉に全員がドアの方に走っていく。


「沙月!圭一!上の階は頼んだー」

「おお!中々やるな」

「クッ!」


俺が2人に向かって叫んだ瞬間2人組の内の1人が距離を一瞬で詰めて斬撃を放ってくる。俺は携帯しているサバイバルナイフでそれを間一髪のところで防ぎ、バックステップで一気に後方へ下がる。


「《魔力強化マナブースト・脚力》気を付けてね相真君」

「サンキューな沙月!」

「死ぬなよ相真!」

「おう、そっちもな!」


俺はデパートの吹き抜けからジャンプで2階に上がる圭一と階段を走って登る沙月を横目に、サバイバルナイフとグロック17を構えて2人と対峙する。

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