第一話 11
「なんで俺がこんな目に合うんだ。
俺が何をしたっていうんだ。」
男の子は、それだけを言うと静かになった。
椿は少し考えた後に、男の子の体を抱きしめる。
大介は少し迷ったが椿が抱きしめやすいように子供の拘束を解いて少し離れた。
「大丈夫、なんとかなるよ。
私も手を貸すから。」
「そんな簡単にいかないよ…。」
椿はまるで赤ん坊をあやすように子供の頭を撫でながら優しい声色でそう言った。
子供は抵抗することも抱き返す事もなく手を力なくブラリと下げ、そっけなくそう答える。
そんなやりとりをしていると、蓮はポリポリと頭を描いて側まで歩いてきた。
土草を払い自分の事を押し飛ばした事に何か言いたそうな表情だったが…息を大きく吐き出しただけてその事には触れなかった。
「簡単にはいかぬが…無理ではない。
戦の時、ワシらは全員を皆殺しにしているわけではない。
捕縛した人間に素性や襲ってきた理由を聞いて…それから処遇を決めておる。
無理やりやらされているのなら、帰るべき場所に帰す。
勿論、ある程度の能力があることが前提じゃが…本人の意思次第ではこちら側の兵士になってもらったりする。
殺される時は殺されるが、負けたら全てが終わりとは限らぬ。
確約できる話はワシの口からいえないが…どうせ死ぬなら後でもかまわんじゃろう。
今まで、苦労してきたからこそ争ってみろ。
ワシも全力を尽くそう。」
そういった蓮は、子供の頭を優しく撫でる。
その後は子供も特に言い返すこともなく静かになった。
大介が村人に現状を伝えたあとに砦に向かって歩き始める。
先頭には大介と蓮。
後ろには椿と剛。
間に捕虜と村人。
捕虜の中には子供は、金髪の男の子しかいないようで椿は彼の手を引いて歩いている。
子供の方は表情がなく下を向いているが、子供の好きな椿は不謹慎かもしれないが少し嬉しそうな表情をしていた。
「まったく緊急時なのにあの娘ときたら…。」
「まぁまぁ、蓮殿。
気の張りすぎも戦では禁物ですから。」
椿の様子に呆れる蓮を大介が宥める。
蓮の心配を他所に城まではあっさりとたどり着けた。
砦から出た姿を見なかった門番の2人は目を見開いて蓮の姿を見たが大介は簡単に経緯を話して砦の中に戻る。
東も護の所も無事鎮圧したようで、客室の入り口前で合流した。
「若、ご無事でなりより!」
「つもる話は後だ。
客席にひとまず民を避難させよ。
そして、拘束した賊達はひとまず民が不安にならぬように地下の牢に集めてそこで話を聞くとしよう。」
先ずは先に民を…そんな事を呟きながら、客室の扉を開くと蓮が隠し通路で撃退した賊達を客席の隅に拘束してのんびりと座ってる優の姿があった。
手には小さな本が握られており、客室に入る皆の姿を確認するとゆっくりと本を閉じて懐にしまい皆がある方へ歩いていく。
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