No.01:Boy Meets Girl


「あっぢぃ……」


 高校2年の夏休み最終日。


 俺、大山浩介おおやまこうすけは照り返しの強いアスファルトの上を一人歩いていた。

 自宅から電車に乗ること30分。

 この街一番の繁華街で、一番大きな本屋を目指して歩いている。


 今日は久々の外出だ。

 気分転換に、俺は前髪をきっちり上げてワックスでセットしている。


 学校にいる時は、前髪を垂らして目に半分かかるぐらい。

 そう、いわゆる「ネクラ・オタク」系のルックスだ。

 まあ別に他人にどう思われようが構わない。


 夏休みに入って最初の三日間で、学校の課題は全て終えた。

 それから少しの時間を勉強にあて、残りの時間の大半をパソコンの前で過ごした。

 どうせ一人の腐れ縁を除いて、友達も彼女もいないしな。

 趣味と実益を兼ねた作業に、俺は没頭していた。


 さて、今日はどんな本を物色しようか……。

 駅前大通りを歩きながら、いろいろと考えていた。


 しばらくすると、控えめで、それでいて甲高い声が耳に入った。


「はなして下さい!」


 声の発生源に目を向けると、大通りから一本入った路地裏。

 女1人 + 男3人 = 合計4人組。

 もちろん仲睦まじく楽しそう……というわけではなさそうだ。


 それにしても、こんな場所でナンパとは呆れる……俺は嘆息する。


 まずその男三人組。

 金髪ロン毛、ブラウンのツーブロック、ピンクメッシュ。

 高校生、いや大学生ぐらいか?

 格好からして、いかにもチャラそうだ。


「まーそういわずにさー、ごはんでもいこうよ。奢るから」


「それともカラオケとかどう? カラオケいっちゃう?」


 金髪ロン毛が女の子の肩に手を回し、ピンクメッシュが囃し立てる。

 その女の子の表情を見て、俺は一瞬目を奪われる。


 セミロングのふわりとした黒髪に、透き通るような白い肌。

 ぱっちりとした大きい二重瞼に鳶色の瞳。

 すっとした鼻筋にきりっとした口元。

 水色のノースリーブワンピースに包まれた細いウエスト。

 無駄な脂肪がついていない形の良い足……。


 とにかく現実世界で俺は今まで見たことのないような、控えめに言ってとんでもなくかわいい美少女だ。

 アイドルグループのセンターから突然空間移動してきた、と言われても信じられるレベル。


 そんな美少女が眉根を寄せ、本当に困っている様子。

 よく見ると、その足元は細かく震えている。


 俺はその路地裏の前を一旦通り過ぎる。


「さて、どうする……」


 俺は頭の中で、条件と選択肢の整理をする。


 まずこの位置、この場所。

 彼女の服装。

 引き締まった足元。

 ヒールの低い水色のサンダル。

 俺の体力……。


 思考時間はここまで合計約3秒。

 総合的観点から、解決策が見つかる。

 それもかなり高い成功率で。


 解決策が見つからなければ、そのまま通り過ぎようと思った。

 でも見つかってしまった。


「まったく……しょうがねーな……」


 今日一番の大きなため息をついたあと、俺は踵を返して路地裏へ向かう。

 角を曲がり、やつらと対峙する。

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