第一章 脅迫状 6
芸能界などにはとんと縁の無い二人の刑事は、少し場違いな空気に息苦しさを感じながらも並んで座って待っていた。元平は既にスタッフジャンパーを着た状態でとても刑事には見えない。普段は刑事に見えないというこの職業にあまり好まれない見た目だが、こういった場面では役に立つ。
水尾はパイプ椅子に深く腰をかけて足を組んだ状態で、鏡の前に座ってメイクをしている女の姿を、いつもの鋭い視線で見つめた。
水尾はしばらく黙っていたが、周りに聞こえない小声で元平にだけ聞こえるように呟いた。
「アレが主役か?確かにべっぴんさんやけど、まるでお人形さんやな。やっぱり俺はあのマネージャーのねえちゃんの方がええけどな」
「水尾さん、聞こえますよ……」
「お似合いですね、元平さん」
元平が言い終わるのとほぼ同時に倉ノ下櫻子が話し出した。
元平は突然自分の名前を呼ばれて何が起こったか理解出来ない表情で鏡に映っている櫻子に視線を向けていた。
「水尾さんだとちょっと怖い感じですものね。水尾さんに睨まれたらファンの皆もビックリしちゃうでしょうし。元平さんは優しい感じなんでうちのスタッフに欲しいくらいですよ」
水尾は鏡越しにこちらを見ながら話す櫻子を驚きの表情で見つめた。
「あの、倉ノ下さんは、何故、私達の名前をご存じで?」
「私、一度お会いした人は忘れませんの」上品な口調で話しながら、水尾を見つめニコリと微笑んだ。
「いや、私達があなたとお会いするのは初めてだと思いますが?」
記憶を頭の中で探すように、こめかみを人差し指で押さえる仕草をした。
「あら?もしかしてお気付きになられていないのですか?」と言いながら、櫻子は鏡の前に置かれていた眼鏡を掛けて振り向き、今までで一番の笑顔で二人の刑事を見つめた。
振り向いたその姿を見て、水尾の記憶の回路がようやく正解を導き出した。
「家出少女……」水尾は絶句した。
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