通路を駆け抜けろ! なんですが
外の光景をじっと見つめながら、警備の人たちに見つからない死角がないかを探す。
警備の人数は左に1人、奥から歩いてくるのが1人、奥の扉の前で立っているのが1人だ。
左手の奥にはもうひとつ扉があって、左手側、窓をはさんだ辺りに僕たち3人が隠れられるくらい大きな彫刻が立っている。
右手のほうは突き当りになっているので、警備の人たちを考える必要性はない。
左側も少し行き止まりになっているみたいなので、警備の人がくるとしても奥のほうからだろう。
――よし、今だ。
「ふたりとも、行くよ」
「えっ、いくらなんでも――」
急な事態にうろたえるふたりの手を引っ張って、扉を大きく開ける。
やっぱり扉は古くなっていたみたいで、ギィという大きな音を立てながらゆっくりと開いていった。
「ん? おい、そこの――」
警備がなにかを言おうとする前に、懐に入れてあったスライムボールを顔に投げつける。
「! モゴッ! ムゴゴゴッ!!」
突然顔にスライムを投げつけられた警備は、一体何が起こったのかもわからずにふらふらと辺りを歩いている。
彼の足にもうひとつスライムボールを投げつけたあと、僕たちは向こう側の彫刻を目標に思い切り走った。
「よし。これで第一関門突破だね」
「……おい、ショウ。さっきのはなんだ? 警備の奴が変なことになってたが……」
ジョシュアくんが、気持ち悪そうなものを見る目をしながらスライムボールまみれになった警備を指さす。
「あれはスライムボールって言ってね、家畜化したスライムを薄い魔力でできた膜に閉じ込めたものなんだ」
「知ってる、最近アルロス魔術研究所が開発してたやつだよね」
「そう。あれを相手に投げつけると、魔力の膜がなくなってスライムがへばりつくようになったるんだ。へばりついたのが手足なら拘束具代わりになるし、顔だったら視界封じと口封じを同時にできる優れものなんだ」
ちなみに息はできるようになっているらしいから、安心して。
そう付け加えたのだけどふたりにドン引きされた。解せぬ。
……まあ、それは置いておいて。
「ちょっと待っててね。あそこまで行ってくるから」
「ちょ、おい! 待てって――」
ジョシュアくんの静止を振り切って、彫刻の向かって右手側、扉のすぐ横にある窓を覗き込む。
身長が足りないというのと、堂々と見て警備の人がいると大変だという理由で、彫刻のふちに乗っかって斜めになりながら覗く格好だ。
――中は、たぶん寝室だ。
たぶんというのも、天蓋つきのダブルベッドが置いてあるのは間違いなく寝室なものの、ちょっと部屋にそぐわない物品が見えたからだ。
たとえば三角木馬であったり、吊るし台であったり。
一体なんでこんなものが――
「――あ」
気づいた。
気づいてしまった。
「……ショウくん?」
彫刻の裏側でミシェが心配そうにこちらを見ている。
そうだ。僕は彼らと一緒に脱出するつもりなのだ。
脱出しないといけない理由がひとつ増えた程度、どうってことないじゃないか。
「大丈夫。ただ、この部屋は役に立たなそうだね」
さて困った。
ここの部屋になにかあるんじゃないかと思ってこっちに来たわけだけど、何もないとなるとまたやり直しだ。
こうなると、どうにかして正面突破を狙うしか――
「……あ」
ふと、通路の行き止まりが見えた。
壁には窓ひとつない。見た目もなんてことない、白一色の殺風景な壁だ。
けど、その壁は、まるで塗りたてみたいな
まるで奥に部屋が隠されているみたいに。
「……見つけた」
次はあそこしかない。
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