ss 月に行ってみよう①
結人と咲夜の結婚から数日経ったある日、いつも通りの藁科家の縁側で夜空眺めていた茜は、ふとこんな事を思った。
「あれ〜?私まだ月に行った事無くない?」
「どうしたの?お姉ちゃん急に。」
キーボードの入力をしながら、美月は顔を上げる。嫌な予感がしたからだ。
「最近さ〜なんか暇じゃん〜?だからさ〜みんなで月に旅行に行こうよ〜」
「暇なのは茜お姉ちゃんだけだと思うけど・・・・・・」
寝っ転がって夜空を眺める茜の隣で、美月は自分のノートPCで『ツクヨミ社』の仕事をしていた。
茜によって、無駄に急拡大した『ツクヨミ社』は現在、大量の仕事を抱えており、みんな大忙しであった。
一方で、全ての仕事を他の人に押し付け、1人のうのうとした日々を過ごしていた茜は、暇であったのだ。
「ん〜どうやったら結君も一緒に行ってくれるかな〜」
「今お兄ちゃん達は新婚で、楽しく暮らしているから余計な邪魔は入らない方がいいんじゃないの?」
「新婚か〜新婚〜新婚〜、う〜ん、そうだ〜!新婚旅行に誘えばいいんだ〜」
ゴロゴロと転がりながら思考する茜は、ある名案(本人の中では)を思いついた。
安定の茜ワールドを展開して、自分優先という考えのもと、計画が出来上がっていく。
「姉同伴で新婚旅行とか聞いた事ないよ!」
「いいの、いいの〜私と結君は運命の赤い糸で結ばれているから結君も喜んで賛成してくれるよ〜」
「百歩譲って月旅行に行くのはいいとしても、どうやっていくの?『ツクヨミ』はジルトレアに取られちゃったし、船が無いよ?」
終戦後、第四新型空中戦闘艦ーツクヨミ他、様々な武器や弾薬はジルトレアが回収した。
もちろん買取量はもらったが、今の2人には船が無い。
自力でも行けなくはないが、月へ旅行に行くならやっぱり宇宙船が必要だ。
「そういう所はまっかせなさ〜い、あてがあるよ〜」
「はぁ・・・・・・」
美月は、今後訪れるであろう厄災にため息をしながら、少しばかり楽しみだなと思い、自然と口元が綻んだ。
✳︎
「何これ・・・・・・」
「何でしょうか・・・・・・」
数日後、まだ寒い日々が続くというのに朝早くから伊豆半島にある茜の別荘に呼び出された。自宅から魔法で移動する。
そして到着すると、海の上に一隻の深緑色に紫色のラインが入った船が浮かんでいた。
以前まで乗っていた『ツクヨミ』の色違いのような船で、エンジンやシステムなどは以前よりレベルアップされている。
呆気を取られて眺めているのと、向こうから見知った顔の仲良し姉妹がやって来た。
「お〜い、結君〜咲夜ちゃ〜ん〜」
「お兄ちゃ〜ん、お姉ちや〜ん!」
「姉さん、今日は新婚旅行の話じゃなかったの?」
と、言いながら美月の方に顔を向け、目線で説明を求めた。美月は首を横に振って、どうしようもないという威を示した。
いつもの暴走らしい。
「見てみて〜新しい船作ったんだ〜名前は『クシナダ』〜!武器とかはあんまり積んでいないけど、移動用としては使えるよ〜」
茜は、結人のつっこみを無視して新しく作った宇宙船の解説を始めた。ツクヨミの最大の特徴であった『ワープ機能』も搭載されており、火力面では劣るものの機動性や航続可能距離などは上昇しているらしい。
また、主砲や爆装などを取っ払っているのでその分スピードが速い。
ってそんな船の性能は、戦争が終わった今関係ない。問題は、誰がどうやってこの船を作ったかの話だ。
終戦と同時に、『ツクヨミ』をジルトレアに寄贈したので船はもう無いはずだ。
「お姉様、この船、どうやって用意したのですか?」
「ふっふっふ〜よくぞ聞いてくれました〜何と〜例のあの人がワープシステムを提供する代わりに、最新の技術を使って作ってくれました〜」
茜は、どこからか取り出したクラッカーをパンっと鳴らす。何かとクラッカーをよく使う人だ。
「あの人が?!よく作ってくれたね。」
【『あの人』が誰なのかは、続編をお楽しみに!】
「私も驚きです、よく予算が降りましたね。」
「まぁ向こうさんもワープシステムは是非とも欲しかったんだろ〜ね〜。いい買い物をしたよ〜」
たしかに、ワープシステムという技術と宇宙船とを交換してくれるのは妥当なところだろう。
結人が構築したワープシステムは、燃費こそあまり良くないが、普通の船を使うよりもずっとコストや時間がかからない。また、難易度もそれほど高くなく、結人レベルの魔力操作技術を持つ人がいなくても腕の魔法師が10人いればおそらくワープシステムを使う事はできるだろう。
「あ、肝心なところを聞いていなかった。これを使ってどこにいくの?」
「今日は久しぶりに元『夜明けの光』のみんなで集まって月に行きま〜す!」
「「はい?」」
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