第6話
Cap005
辿り着いた古ぼけた小屋は、時代をひと跨ぎして、令和から平成、昭和と遡った佇まいである。外壁は、バロック。いや、バラック造りで所々、腐っている。大きさは、見た目30坪程度の敷地に平家造りで、昭和の中期の低所得者層の家。まさに、それである。
そして、その小屋の正面には、その建物に相応しいドアと、必要最小限の機能を備えた呼鈴が付いている。
“ブーッ”
返事はない。
“ブッ、ブーッ”
何度か呼鈴のボタンを押したが、誰もドアから出て来る気配はない。
中に人が居るのは確かなのに、誰かがドアに近づく足音も、ノブを触る気配も感じられない。
完全、居留守を決め込んでる。
僕は、数分ドアの前で立ちんぼしていたが、流石に耐えかねてゆっくりとドアを開けることにした。
「あの〜、ごめんください」
ドアを数センチ開け、その隙間から小屋の中へ自分の存在を知らせてみる。
『不法侵入者を探知。不法侵入者を探知。自爆モード発動します。全エリアを爆破します。爆破まで、5・4・3・2…』
けたたましいサイレント同時に、よく分からないが、確実にエマージェンスな放送が小屋中に響き渡った。
「えっ、えっ!?」
『2・1…』
「危な〜い!」
僕が、その放送に泡を食っている間に、先程、僕を放って走り去った老人が、白衣姿で小屋の何処かからか爆走してくる。そして、小屋の壁に設置されたレバーに飛び付く様子がドアの隙間から垣間見れた。
『自爆モードは解除されました』
「勝手に入るな!研究室が吹っ飛ぶところじゃないか!」
レバーにダイビングした老人。この際、老人は止めよう。
もう、誰しもが察しが付いているはずのお茶ノ水博士は、倒れ込んだまま、僕に、そう叫ぶと壁にもたれ掛かりながらフラフラと立ち上がろうとしている。
「いや、あの。すいません。ベルは鳴らしたんですが、誰も出なくて…」
「誰も出んかったら部屋に入っていいなら、この世は、泥棒だらけじゃわい…あいたたた」
「すいません。大丈夫ですか?」
「大丈夫?ここが吹っ飛ぶよりは、なんぼかマシじゃろうが、数十年ぶりにダイビングアタックするには歳を取り過ぎとるわい」
「吹っ飛ばすって言っても、あの放送は、何かの脅しなんじゃないんですか?」
部屋を不法に侵入されるのを防ぐのに、その部屋ごと吹っ飛ばす馬鹿いない。そんな事をすれば、守るべきものも道連れになり、本末転倒なお話である。だから、先程の放送はブラフ。または、デフォルメされた演出で精々、警備会社に通報する程度の物だと思うのは、至極、当たり前で、通常な感覚である。
「脅しで、こんな必死に飛び込むと思うか?よっこいしょ!」
そう言うと、教授はもたれていたいた壁に手をついて立ち上がった。
“ポチッ”
「…あっ」
「ん?」
『学長室を爆破します。3・2・1・0』
放送の直後、急いでドアを閉める教授の背後から、遥か遠くで、キノコ雲が打ち上がっているのが見えた。起動の停止手順を追いかけるよりも、ドアを閉める事を優先したのは、教授が、その後、その爆破の衝撃波が、この小屋に襲い掛かるのを知っていたからに他ならない。
「…やってもうたのう」
そして、当然、その言葉からは、然程、やってもうた感は伝わらないのである。
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