第6話 初戦
魔族が言っていた通り、南へ向かうとアドリーヴェン大森林があるようだった。
最初にいた辺りが人間エリア。この山岳地帯が魔族エリア。そして、南へ行った大森林が中立エリア。
地図をじっくり観察してみたが、人間エリアやら魔族エリアやら分かるようにはなっていないようだ。
地図からは読み取れないのか……。
大森林が中立エリアってことは、その途中にある、この何も書いてない地域は中立じゃないってことだよな。
俺は山岳地帯と大森林の間の地域を、拡大して見てみた。
地図を見る限り、相当な面積になるはずだが、何の表記もされていない。単なる平原が広がっているだけだろうか。
少し範囲を広げて調べてみると、青い点は見当たらず、赤い点がまばらに広がっていた。
そういえば赤い点とはまだ遭遇していない。人間も魔族も青い点だったので、赤い点はモンスターってところだろう。
「大森林に行く途中で、一回ぐらい戦闘してみるか」
俺はそれだけ決めて、ひたすら南へ歩き続けた。
山岳地帯を抜けると、荒野が広がっていた。
草木はほとんどなく、夕日に照らされた荒れた大地が、見える限り続いている。
地平線って初めて見たな。
俺はこんな場所でも少し感動していた。
郊外の住宅街で育った俺には、異世界の雄大な自然は刺激的で、もっと色々な場所を見てみたいと思わせる。
元の世界に戻ったら、父さんと母さんに体験談を話してやろう。
どこまで信じてくれるか分からないけど。
少し暗くなってきたが、腹が減るわけでもなく、他にやることがあるわけでもないので、俺はもう少し歩くことにした。
山岳地帯と違い、動物たちの声や、草木の触れ合う音は聞こえず、自分の足音だけが辺りに響く。
体格からして、ゆうに二百キロを超える身体の足音は、子供のころに見た怪獣映画を思い出させた。
空を見上げると、満天の星空だった。
異世界と言っても閉ざされた世界ではなく、大宇宙に浮かぶ一つの惑星なのだろう。
時折、夜空を大きな鳥が横切るが、地図に映らないところをみると、あれも動物に分類されているようだ。
その夜、俺は大きな一本の木を見つけると、それに寄りかかり寝ることにした。
翌朝も俺は陽の光で目が覚めた。
どうやら日の出とともに起きたようだ。
喉が渇いたりはしないのだが、元の世界の習慣か、水を飲んだり顔を洗ったりしたくなった。
川とかあったかな。
俺は地図を開け、水が飲めるような場所がないか探してみた。
地図上で指をスワイプさせ、かなり広い範囲を確認してみたが、川のような場所は見当たらない。
ただ、近くに赤い点が一つあるのを見つけた。
おっと、なんかいるじゃん。
俺は赤い点があると思われる方向を見渡してみた。
すると、地図の示す通りの場所に、何かがいるのが見えた。
少し距離があり、どんな姿か判別はつかず、ステータスを見ることもできなかった。
ここは逃げられたりしないよう、静かに近づいてみよう。
俺は足音に驚かれないように、そっと歩き出した。
少し近づいてみると、それはスライムだとすぐに分かった。
緑色で半透明な全身。本格RPGというより、ライトなRPGに出てきそうで、弾力がありそうに跳ねて移動している。
さらに近づくと、ステータスが確認できた。
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名前 スライムA
レベル 5
種族 スライム
HP 15/15
MP 2/2
攻撃力 6
防御力 4
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うわぁ、完全にゲームスタート時にいる雑魚モンスターじゃん。
スライムは俺の声に気づいたのか、方向を変えて、こちらに向かって移動してきた。
そして1メートルほどの距離まで来ると、大きく飛び上がり俺の胸にぶつかった。
ん? なんだ? 抱きしめてほしいのか?
一瞬そう思ったが、視界の中に文字が見えることに気づいた。
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スライムAはあなたに攻撃をした。
あなたは0ダメージを受けた。
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ログ?
今のはスライムからの攻撃だったようだ。
なんだかちょっと可愛いなと思いながらスライムを見ると、俺から跳ね返ったスライムが再び俺に向かって飛び掛かってきた。
攻撃してきてるなら、俺もちょっと攻撃してみるか。
俺はカウンターを浴びせるように、飛んでくるスライムへ殴り掛かった。
すると突然、あたりがスローモーションのように流れ出した。
ゆっくりとスライムが飛んでくる。
不思議な現象に思いながらも、俺はそのままスライムに拳を当てた。
その瞬間、時間の流れが元に戻ると、猛烈な爆発音とともに、辺りが暗闇に包まれた。
なんだ?
俺は何が起きたか理解するのに時間が掛かった。
あのスライムは、攻撃をされると大爆発する体質だったのだろうか。
周りを見渡しても視界は奪われたままだったが、ログは普通に見えるようだ。
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あなたはスライムAに攻撃をした。
あなたはスライムAに99999ダメージを与えた。
あなたはスライムAを倒した。
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もしかして俺の攻撃でこうなったのか?
少し経ち暗さが薄れると、この暗闇は砂埃が原因であることに気づいた。
大量に舞い上がった砂埃が太陽の光を遮り、ここら辺一帯だけ闇夜を作り出している。
パラパラと小石や砂が降ってきて、俺の身体に積もっていた。
レベル510……、とんでもないかも……。
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