第10話 防衛システムに挑戦
「一つ提案があるんだが……」私は発言した。「まず一つずつ問題を解決すれば戦争は回避できるんじゃないか? 例えばユグドラシルの防衛システムの突破とか」
「まあ、それも一つの解決策だが……」テオは渋い顔をした。「お前の武器じゃないとドラゴンには歯が立たないぞ。例え俺たちが戦闘に参加しても足手まといになるだけだ。それにお前はまだ病み上がりだ。良い提案とは思えない」
「三週間程度で鈍る体じゃないぞ、私は」
そう反論するとテオは顔をしかめた。絶対に無理だと思っている色だ。それでも私は私の意見を押し通そうとする。
「今からでも行ってくる。馬を借りるぞ」
「待って」そこで横槍が入った。「あたしも着いて行くわ」
ジェスだった。私は首を横に振る。
「ダメだ。危険過ぎる」
「あたしはあなたの相棒なのよ? 回復くらいなら……」
「アーク、二人一組だぞ」
テオがジェスの肩を持った。何でこういう危険な場所に行く時によってテオはそう言うのか理解できなかった。ドラゴンは一体ではなく集団で襲いかかってくるのに、ジェスを守りながら戦うのは自信がない。ただ、それを口にすることができなかった。自分自身で体が鈍っていることがわかっていたからだ。
「わかった、わかった。ジェスも連れて行くが余計な真似はするなよ」
「それは承知の上よ」
本当か? と、私は疑問に思ったが、どうしてもというなら仕方がない。ユグドラシルの防衛システムが稼働する直前の場所で待機させておこう。
「じゃあ、行ってくる」
二人で二頭の馬に跨って街から出て行く私とジェス。ユグドラシルまで馬を使っても二日はかかるので今夜は野宿だなと呑気に考えていた。
出発して三時間後。だいぶ日が暮れてきたので丁度いい場所を見つけて休むことにした。私は樹木に寄りかかり、ジェスは平べったい岩に腰を落ち着ける。中央にはかき集めた枝で焚き火をして、私とジェスの顔が焚き火の光で浮かび上がる。沈黙が続き、私も何を喋ろうかずっと悩んでいた。
そんな時、ジェスが口を開いた。
「ドラゴンって何体も出てくるの?」
沈黙を打開してもらって私は少し胸を撫で下ろした。
「ああ、何十体もで出てくるぞ。今回のミッションとしては五体をやれるかどうかだ」
「みんなでやれば普通に勝てるんじゃないの?」
「いや、無理だ。私の希少なオリハルコンという鉱物を使ったダガーではないとドラゴンの鱗に太刀打ちできない。オリハルコンは私がたまたま見つけただけで、それ以来、オリハルコンは採掘されていない。だから私が竜狩りをしなければいけないんだ」
「だから、それで戦争になったのね」
「そういうことだ」
会話が途切れた。何を話せばいいかわからなくなったからだ。しかもジェスと二人きり。私はこの空気に耐えきれなくなり、持って来ていたライ麦パンを半分にしてジェスに手渡しする。彼女は「ありがとう」と言ってパンを頬張り始めた。私もライ麦パンを口に含む。そして、食べ終わったところで睡魔が襲ってきていつの間にか寝てしまっていた。
翌日。焚き火は終わっているはずなのに何だか左肩が暖かい。寝ぼけ眼で隣を見るとジェスが私に寄りかかって寝息を立てながら眠っていることに気づいた。私はジェスの肩を揺らして起こそうとする。
「おい、朝だぞ」
「んー……」
寝ぼけた様子で私の顔を見た。多少ドキッとしたが、すぐに体を離す。
「あ、ごめんなさい。つい温もりがほしくなっちゃって……」
不意をつかれた私は何故か心臓の音が聞こえるくらいジェスを意識してしまっていた。これまで女性に興味を持ったことすらなかったのに、どうしてしまったのだ、私は。
「ほら、いいから馬に乗れ。出発するぞ」
「うん」
今日は一日中馬を走らせてようやくのことでユグドラシルの防衛システムが稼働する手前に到着した。
聖樹ユグドラシルは確実に老化していて、それを目の当たりにした私は身震いした。一○キロ先にある巨木の葉は茶色がかってきていて、周囲に広がった表面上に出ている巨大な根はヒビが所々入っている。真っ直ぐ伸びた一○キロの橋は手入れ出来ていない。それは何故かというと、ユグドラシルは老いてくると防衛システムが激しくなる傾向にあるため、修繕工事が出来なくなるのだ。だから私はこのボロボロの橋の上で五体のドラゴンを討伐しなければならない。
「お前はここで待ってろ。いいな? 絶対にここから先へは足を踏み入れるな。入った場合、防衛システムの標的になってしまう」
「わかったわ」
彼女は頷き、私は馬から降りて一気に橋の上を駆け出した。腰の後ろから垂らしていた鞘から二本のダガーを抜刀して。
私が一歩踏み込んだ瞬間、遠くからドラゴンの群勢がロケットのようにユグドラシルから放たれた。私は走り続け、一体目のドラゴンと戦闘を開始する。
火を吹く寸前でドラゴンの間合いに入って後ろに滑り込み、まずは長くて邪魔をする尻尾を切り落とした。叫び声を上げたドラゴンは振り向き噛みつこうとしてきたが、それを避けて両目にダガーを突き刺してやった。それから視界を奪われたドラゴンは転げ回り、私はドラゴンがひっくり返った時を見計らって心臓にダガーを思いきり押し込んだ。すると、ドラゴンはビクンと体が跳ね、そのまま絶命した。
その時点でもう私は息が上がっていた。こうなることはわかっていた。でもあと四体のドラゴンを討伐しなければ面目丸潰れだ、頑張るんだ、私よ。
その後も同じ手法でドラゴンを殺し、なんとか五体目のドラゴンを倒した頃には過呼吸になりかけていた。それでもユグドラシルからは大量のドラゴンが私を狙っている。早く退散せねばと私はジェスの元へと走り出した。
なんとかそこまで辿り着くと、ドラゴンたちはまたユグドラシルの巣へ撤退していったのが見えた。命からがらだったので、なんとか振り切れたことに安堵するも噛みつかれた腕と胸部の傷は未だに出血し続け疼いている。
「今、治してあげるから」
そうだった。ジェスは優秀なヒーラーだったことを忘れていた。魔法陣が私の腕と胸に展開され、どんどんと治癒していく。凄まじい速さだ。
そうしてあっという間に完治した傷を見て「ありがとう」と感謝した。
「どういたしまして。さあ、帰りましょ。今のあなたは五体が限界って報告しないとね」
「お前から言うなよ。私の口から言うからな」
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