第8話 第二回円卓会議
第二回円卓会議では誰一人として遅刻することなく、指定された時間にそれぞれ着席していた。今回は取りまとめ役のテオは黙り、燃え残っていたユグドラシルに関する資料を翻訳してきたというレンドゥーリのダスティが口を開いた。
「これが翻訳してきた資料だ。まずは見てほしい」
ダスティが立ち上がって一人ひとりに資料の束を配った。本人自らとは珍しい。嘘が記されていないといいのだが……。
「まあ、とりあえず目を通して見てくれ。話はそれからだ」
テオが手に取った資料を横目で盗み見する私。確かに聖樹ユグドラシルがどう誕生したか、何故神的存在となっていったのかなど、そういった内容しか書かれていない。嘘を平気でつくレンドゥーリの資料は本当なのか? 表に出さないだけで、きっと全員から疑いの目で見られているはずだ。戦闘民族で嘘つきで有名なレンドゥーリは信用ならない。だから、この資料も偽りである可能が大きい。
「ネエ、これって本物だよネ?」
ジャッカリーが議論の先陣を切った。
「もちろん」ダスティが肯定する。「僕を嘘つきって言いたいのかい?」
「そうじゃないケド……アンタたちって嘘多いじゃん? 疑って当然じゃん?」
「まあ、そう思われても仕方がない歴史を我々が持っているからな。しかし、今は嘘をつくものはほとんどいない。それだけは信じてくれ」
「ウーン……」
考え込むジャッカリー。信頼すべきか、頭から湯気が出る勢いで思考している。あんな見た目でもジャッカリーは円卓会議の代表者。彼女が出す答えを侮ってはいけない。
「うん、わかった。アタシ、信用しちゃうことにするネ。もし裏切ったら……」
「わかっているさ」自信ありげに頷くダスティ。「他の四人はどうかね?」
「異議なし」と、ゼグル。
「オラも異議はない」ドワーフのガンチも同意した。
残るは人間側のサイレンスとテオだけだった。即答しないあたり、かなり慎重に答えを出そうとしているのがわかる。それもそうだ。嘘つきで有名なレンドゥーリを信用するか否か今ここで決断しなければならないのだから。
「まあ、いいだろう」
ためらっていたサイレンスがようやく口を開けた。
「一週間もかけて翻訳してもらった恩もあるしな。俺はこれを信用しよう」
残るはテオだけになった。口をつぐみ、唸っては溜め息をついている。私もテオと同じく両腕を組んで信用すべきか悩んでいた。大炎上の中残っていたこの書物はかなり分厚い。その中で聖樹ユグドラシルの誕生と神的存在になったという内容だけではないはずなのだ。もっと他に何か書いていただろうに、レンドゥーリはそれだけだと主張する。いかにも怪しい。
私が思考を巡らせていた時、ようやくテオは口を開いた。
「俺には信用できない。書物は返してもらう」
周囲がざわついた。私は当然の回答であると思っていた。
「やはりそうきたか」ダスティはお見通しだったかのように発言した。「お望みならばこれを返そう」
ダスティは目の前に置いてあった書物をスッと前に出したので、「取ってこい」とテオに命令された私はダスティの元へ行き、書物を抱えてテオの側に戻る。
「何故、そこまでして疑う?」
エルフの長ゼグルが口を挟む。
「貴様ら人間はいつも問題をややこしくするな。第一次大戦の時も貴様らが原因だ」
「その言い方はナイっしょ」ジャッカリーが反論する。「アンタらもユグドラシルの防衛システムを怖がってたせいで戦争になったじゃん? 誰が行くのかって。他人のこと言えねーくせに」
「あぁ? このアバズレ女が何言ってやがる!」ドワーフの長ガンチが怒りのあまり顔を真っ赤にして言い返す。「竜狩りのアークとやらが行きゃ、こんなにうちの仲間たちが死ぬこたぁなかったんだよ!」
一瞬、バクン! っと心臓が鳴った。私の素性は知られていないので全員の視線が私に向くことはなかったが、一度、レストを連れて自分の実力を測るために聖樹ユグドラシルの防衛システムに挑んだことがあった。防衛システムで出てくるのはゴブリンなどのモンスターではなく、大量のドラゴンだ。なんとか一体だけ倒して帰還したが、そのことが街中に伝わり、尾鰭をつけてエルフやドワーフ、レンドゥーリに勘違いさせてしまったのだ。それ以来、竜狩りのアークという存在が出来上がり、私がユグドラシルの防衛システムを鎮圧させなかったせいで老いたユグドラシルに近付けなかったという理由となり、第一次大戦が開戦されたということになっている。私はただのアサシンなのにいい迷惑だ。
「とにかく、俺たちでなんとか全て解読してみせる」テオは断言した。
「いいや、まず先に竜狩りのアークを出せ。確か貴様のとこに所属しているんだろう? そいつに痛い目を見せてやらなければ気が済まん」
ゼグルが喧嘩腰にふっかけてきた。貴様のところとはテオが統括する我々『獅子の爪』のことだ。もうそこまで割れているのかと思うと私はいつ竜狩りのアークだと知られるのも時間の問題だ。
「そんなやつはいない」テオは言い切った。「サイレンスの『焔の団』か、ジャッカリーの『氷雪会』か、自分たちで見つけ出すことだな」
「戦争ならいつでも受けて立つぞ、テオよ」
ゼグルが宣戦布告して二度目の円卓会議は終了した。
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