04.強化チュートリアル(2)
「取り敢えず、居間にでも行きましょうか。廊下で話し込むのもアレだし」
「分かった」
緩く頷いた薄群青がその部屋へと足を向ける。
「何のチュートリアルかな?」
「ああ、強化メニューについて教えないといけないッスから。まさか、2話まで終わらせといて薄色シリーズが初めてだなんて思いもしませんでしたけど」
「それだと何か問題があるの?」
「俺等が強化のチュートリアル担当なんスよ。その方が、色々と勝手が良いんで」
――待ちに待った、強化メニュー解禁か!
その解禁条件が薄色シリーズの神使を所持、っていうのは少し厳しい気もするが。簡単に入手できるようになっているのだろうか? そのところが少々謎だ。薄群青の口振りから察するに、薄色系統は比較的、簡単にガチャで引き当てる事ができそうだけれど。
などと思考に耽りながら居間に到着する。が、そこには先客がいた。
「烏羽サン、アンタちょっとサボり過ぎじゃないッスか?」
――烏羽だ。
呑気に茶をしばいている。神使に飲食は不要ではなかったのか。それとも、今はそういう気分なのか。
そんな先住神使の様を見た薄群青は呆れ顔だ。なお、烏羽の方は顔を上げるなりニヤニヤといつもの意地が悪そうな笑みを浮かべる。
「おやおや、お久しぶりですねぇ、召喚士殿。ええ、すっかり私の事など忘れていらっしゃったようで」
「捜してたよ。見つからなかったけどね。まあ後、ログインもあんまりしてなかったけれど」
「受け答えが流暢なのも、言い訳っぽくて素敵ですよ。ええ」
シンプルに運営からの助言で会話に興じてみたが、思いの外イラッとする返答をされた。普通ならばあり得ない言葉に、掛けるべき言葉を脳内で探していると、うんざりした調子で薄群青が肩を竦める。
「何でも良いけど、強化のチュートリアルを始めるんスよ。妨害とか、嫌がらせとか止めて下さいよ。ホント」
「んっふっふっふ。心得ておりますとも」
「心得てはいるけど、やらないとも言ってないとかいうヤツッスね。それ」
「よく分かっているではありませんか。さぁ、召喚士殿! ええ、心行くまでちゅーとりあるとやらをどうぞ。強化……というか、まあ、能力の解禁については、私は役に立ちませんので!」
はあ、と盛大な溜息を吐いた薄群青が渋々と言った体で口を開く。
「そんじゃ、始めますか。主サン、まずは端末を開いてもらっていいッスか。端末の画面は、基本的に俺等から見えないようになってるんでちゃんと聞きながら進めて下さいよ」
「分かった」
強化メニューがいつの間にか解禁されている。タップして開いてみれば、それと同時に強化メニューらしい画面が起ち上がった。ついでに所持神使の一覧も出現したのだが、3話目にして2人という悲しすぎる人数に思わず笑ってしまう。ガチャ禁でもしているのか、自分は。
薄く笑っていると、薄群青がチュートリアルを再開する。
「それじゃ、解禁するのに――えーっと、主サンにも分かりやすく言うと『素材』ってヤツが必要になるッス」
「素材……? そんなのあったっけ?」
「そう言うと思ったので、俺が1個だけ用意しておきました」
――え? 何その、入手経路不明な素材は……。
というか、今まで戦闘を行ってきて物体ないしアイテムがドロップした事などただの一度もない。そういうゲームのシステムなのだと思っていたが、そうではなかったようだ。
というか根本的な問題として、ソーシャルゲームは買い切りのゲームとは異なる。月一くらいの頻度でイベントを行ったり、その他諸々ユーザーに色々とアイテムを配ったりしないといけないはず。ゲーム内アイテムが無いだなんて、この後の展開はどうすると言うのだ。
悶々と悩んでいると、薄群青から石ころのような物を渡される。勿論、これは没入型ソシャゲという新し過ぎるジャンルなので手渡しだ。
一見すると水晶だとかに似た透明な石。サイズは手で簡単に握り込める程度だ。光を受けて七色の光を反射しており、大変美しい。家の玄関に飾りたいくらいだ。
「これが例の素材?」
「はい。輪力の塊ッス。詳しい説明は難しいので省略しますけど、メチャクチャ簡単に説明すれば、輪力が圧縮されて可視化した物体ってとこッスかね」
「そうなんだ……。待って、入手経路は? まさか神使一人につき一つだけの消費で良い、なんて事はないでしょ?」
「ええ。まあ、それなりに沢山必要になると思いますよ。入手方法なんスけど、稀に社で輪力が結晶化して、回収出来る事があります」
「今までプレイしてきて、こんなの見た事ないけど……」
「低確率、ってヤツッス。そんで、もう一つが薄色シリーズの持つ『結晶作成』を強化で解放して、時間経過で生成されるのを待つ方法ッスね。まあ、後者が一般的なんじゃないスか?」
「なるほどね、だから薄色シリーズがいないと強化メニューが使えなかったんだ」
という事は実質、この薄群青が持ってきた結晶1個は彼自身に使わなければならないのだろう。ソシャゲの『稀に』という文言は本当に稀だからだ。
「そんじゃ、主サン。チュートリアル、続けて良いッスか」
「あ、お願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます