第2話 乙女ゲーム部にようこそ!②

「えっとつまり、俺がゲームに出演すればいいってこと?」


「う〜んちょっと違うかな。北王子君には、乙女ゲームに出てくるイケメン達のモデルになって欲しいの」


「なるほど、分からん」


さっきからこの女神灰花が何を言っているのかさっぱり分からないんだが。まず、俺は乙女ゲームというものの構造を知らない。多数のイケメンの中から一人選んでそいつを攻略するってのはなんとなく分かる。ギャルゲーの反対だろう。でも、モデルって何?


「あのさ、モデルって何するの?」


「それは、あの。私達が指示したかっこいいポーズなんかを取ってもらってですね?インスピレーションの源になっていただくといいますか、そのぉ」


(いきなり説明が雑!)


「でも俺、そんなん出来るほどイケメンじゃないし」


「えぇ、そんなことないよ!北王子君かっこいいじゃん!」


「ど、ども……」


うう、そういうこと言われると男は弱いんですよ。特に貴方みたいな可愛い女の子に言われた日にはもう……って俺キモすぎか。


「最近、皆のモチベーションが下がっちゃっててね。夏コミまでにゲームを完成させなきゃいけないんだけど、全く手を付けてない状態なの」


「は、はあ……」


「そこで!具体的なイメージがあれば、皆のモチベーションも上がるんじゃないかと、私は思ったのです!」


「おん……」


「だからお願い!ここはひとつ、ね?」


どうしよう、正直とても面倒なことになった。俺はてっきり、機材を運ぶの手伝って欲しいとかそういう力仕事を任されるものだと思っていた。ゲーム制作となると、パソコンとか重要そうだし。なのでこの要求は予想外すぎて、上手く対応できない。


「北王子君、部活には所属してる?」


「いや、特には。一応バイトならしてる」


「そのバイトって、結構忙しい?」


「そこまでかなぁ。本屋なんだけど、週に二回程度だし」


「……ベストだわ」


やばい、灰花さんが目を爛々と光らせてこちらを見つめている!俺完全にマークされてんじゃん。獲物を捕らえようとする目じゃん!


「ダメ、かな?」


「いや、その。やっぱり本屋のバイト忙しいカモナーなんて……あー、ごめん。ちょっと俺には難しい案件かも。ほんと申し訳ないけど、他を当たってくれるかな?ほら、灰花さん男子にも人気だし、きっとすぐ見つかるよ」


「……」


やばい、さすがに出しゃばりすぎたか?今の発言はよくなかったかもしれない。


「……実はもう、声掛けたんだ」


「え……何人くらい?」


「二クラス分の男子」


「嘘ォ?!」


「ほんと、嘘じゃんって思うよね。私も思ってた。さすがに一人くらい見つかるって。でも、ダメだった。部活入ってる人がほとんどで、皆面倒くさそうって思ったのかな。即答されちゃったよ。あはは……」


そこまでして、部員のモチベーションを上げたいのか。俺には全く理解できない感情だ。……でも、灰花さんの努力は本物だと思う。きっとこの人は、誰よりも部員のことを大事に思ってる。二クラス分の男子なんて言ったら、ざっと30人以上はいるはず。そう簡単に出来ることじゃない。


(ここで断ったら、灰花さんはまた……)


「ごめんね、いきなりこんな事。いい加減諦めろって話だよね。やっぱり別の方法で」


「一週間」


「……え?」


「一週間、お試しでやってみる。ちょっと自分に合わないなって思ったらやめるけど……それでもいいなら」


ここで俺が断ったら、灰花さんの努力が、全て水の泡になる気がして。言わずにはいられなかった。


「……ほんとに?」


「ほんと」


「マジ?」


「マジ」


「Really?」


「りっ、リアリー……」


灰花さんの表情に、再び元気が蘇る。


「や、やぁっっっっったーーー!えっと、どうしよう。まず入部届け貰ってこなきゃ。あー、でも。ひとまず仮入部、だよね?その場合入部届けって出すのかな……今すぐ先生に聞いてこなきゃっ」


「落ち着いて灰花さん。そんなに急がなくても、俺は逃げないから」


「あっ、そうだよね。ごめんごめん。私の悪い癖だ……コホン」


灰花さんは可愛く咳払いをしてから、俺に向き直る。その顔には、満面の笑みが広がっていた。


「これからよろしくお願いします、北王子君」


「……あぁ、よろしく。灰花さん」


この日から、怒涛の一週間が始まるのであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る