雲の壁
gino
第1話
(はぁ、はぁ、はぁ、はぁ)
冬の風で、呼吸をするたびに喉が痛む。もうこの山に入って2時間が経つ。水もそろそろなくなってきたところだ。俺は今、樹木の後ろに隠れている。息を潜ませ後ろのやつの気を窺う。ちなみに今とてもピンチである。
————話は2時間前に遡る
はじめはいつも通りだった。万事いつも通りに、毎月の日課でこの山に入った。獣を避け、モンスターの通らない道を選んできたはずだった。
だが、山の中腹辺りで何かの足音がした。何かがいたのだ。そいつは周りの木々を押しのけるほどのプレッシャーを放っていた。その瞬間に、俺は反射的に樹木の後ろへと転がり込んだ。
————そして今に至る
何かが数十m先にいる…。
背中を樹木にあずけ、頭の中を整理する。
俺の目的は頂上にいくことだ。しかし実はこの山、とうの昔に王都の管轄下から外された山で、今ではモンスターどもが住み着く無法地帯と化している。
そのため誰もこの山に近づこうとせず、この山にいる人間は俺だけ。だからこの山に他にいるとしたらモンスター…。そしてくたばればそれまで……。あとはこの冷涼とした風にさらされ、モンスターどもの餌となる。
あれこれと考えているうちに、俺の体は短剣の位置を確認し、腰につけていた短剣用のポーチのボタンを外していた。俺の心情とは裏腹に、この体は勝手に動く。
冷や汗とともに流れる緊張の中、心臓の鼓動は早まり、呼吸が荒くなってきた。
グルルッ
低い唸り声が聞こえた。そして雪を踏み進む音が続く。
こっちに近づいてきている!
その瞬間、俺は気づいた。
——しくじった。。。
なぜなら
この位置は………風…上…だ…!
頭から血の気が引いた。
小刻みに震え出した手を握りしめ、深呼吸を一回。
初歩的なことを忘れていた…。そして何より、
相・手・が・悪•い
この唸り声、存在感、間違いなく 狼
ここで説明しておくが、狼といえど、通常種でも体長5m。爪で裂かれれば重症は免れず、即死もありえる。しかも、上位種ともなれば魔法を操り、多彩な攻撃手段を用いる。また、上位種は「ウルフ」と呼ばれ、戦闘能力は通常種の5倍以上と言われている。
そして、この威圧感からして通常種ではない。
それに対して俺は、まだ14歳そこいらのガキ。持ち物は、使いなれた短剣一つ、安い回復薬が一つ、あとゴミ…
状況は絶望的だ。
しかし、先制攻撃は危険だ。戦いの素人である俺が敵の隙をつけるはずがない。攻撃を見切られて反撃されるのがオチだ。
敵の出方をうかがおう…。
この張り詰めた状態が1分続いた。
その間、狼は雪の上を右へ左へと歩いているようであった。
———今出ていって攻撃した方がいいか…
———いや、やられるだけだ
———だがこうしているときにもやつは…
すると、急に足音がしなくなった……………。
しびれを切らし、俺は樹木の横から顔を覗かせた。
そのとき、一瞬、間があった。
狼がいた。
体長は10m以上、身体中に無数の傷痕、毛が白く、堂々とした立ち振る舞い。
そして、
少し細身の身体。きっと飢えている。
狼が振り向き、互いに眼が合った。眼の奥が淡い蒼青色で、とても神秘的だ。
次の瞬間、狼の眼が不気味に光り、爪が俺の血肉を切り裂いた。
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