第23話 戻ってきた楽園
「りぼん!!」
俺は目を覚ましたりぼんの元に駆け付けた。
侍女は下がり二人きりとなった。
「ライさん!!」
ベッドから起きてこちらにフラフラやって来るりぼんを支えた。
「大丈夫か?無理するな、ここの侍女が作ってくれたご飯を食べよう。お腹が減ったろう?」
「ここは?」
「…………何というか…信じられないんだが…」
と俺はりぼんにこの世界のことを説明してやった。りぼんは驚いていたが
「うーん、裏世界みたいなもんかな…。でもライさんの黒髪バージョンも見てみたい!!」
とはしゃいだ。
「いや…何で?見たらりぼん…そっちに惚れない?同じ俺だけどさ…」
「そんなことありませんよ、流石に!私が好きなのは目の前のライさんだけです!!」
と赤くなる。可愛いな。
「俺も…好きだよりぼん。一緒になんとかもう一度世界樹のところに行こう!きっとそれができるのはりぼんだけだ!」
と彼女の手を握り見つめた。
「ライさん…私…頑張ってみる。こっちにも精霊がいる。まだ視えるし頼んでみる」
任せてとりぼんは言ったが
「今日はもう疲れているからこれを食べてまた眠るといい…。大丈夫これは何も入っていないから」
「世界樹のくせに媚薬を盛られたのはびっくりしたけどあの…私…おかしくなっちゃってごめんなさい!自分でも訳がわからなくなって…」
「俺もごめん。つい…。咄嗟に気絶させてしまった」
とお互いあの時のことを意識し恥ずかしくなった。
「全てが終わり、この世界や俺のいた世界が元に戻ったら改めて結婚してくれ。りぼん!」
と俺は指輪もないのにプロポーズした。買っておいたワンピースはまだダスティン子爵家にあるんだろうな…。
「はい!!します!!」
とまたもや即答するりぼん。
「もし兄上に反対されたり他の貴族たちからも睨まれたら俺はもう王子という身分は捨てて君と二人どこかでひっそり暮らしてもいい。王子ではなくなりただのライオネルになるけど大丈夫かな?」
と一応聞いてみると
「そんなの関係ありません!むしろ身分ない方が気楽でいいじゃないですか。私の世界では自由恋愛だしそんなに身分関係ないと思います」
と言う。身分の関係ない世界か。そこからりぼん達は来たのだ。
「もしも世界樹が……りぼん達の世界も管理しているなら…その世界も消えることになるかもしれない。世界樹とは世界の中心に位置すると言っていたよな。このりぼんが言う裏世界も管理できているみたいだしアシュトンが呼べたのもどこか繋がりのある世界だから…」
「うわぁ…そういうのよくラノベで出てくるー!」
とりぼんは言う。りぼん達の世界では世界樹などは創作としてよく登場するのだそうだ。
もしかして世界樹を見て返された人間がりぼんの世界にもいて、それが伝承となり伝わり、人々はそれを頼りに創作し世界樹の存在を広めていったのかもしれない。仮説に過ぎないが。
ともかくりぼんに胃に優しいスープを飲ませて寝かせる。
「明日の朝もライさん来てくれる?いなくならないでね?もう会えないのは嫌…です」
と言うから俺は額にキスし
「会えるに決まってるだろう?俺は毎日りぼんの顔を見て話すよ」
と言って笑うとりぼんは照れて赤くなる。
「ずるいです!ライさん、その笑顔に私弱いんですからね!」
と言うから俺は心が燃えて熱くなる。
いつか結婚して子供を儲けて家族になりたいと思った。
「世界樹が許してくれるならいつかりぼんの世界にも行ってみたいな…。ここより文明は進んでいるんだろうな」
と言うと
「ふふ、本当に、いきなりそんな格好で私の世界に行ったら不審者で捕まっちゃうかも!!」
と言う。
ええっ!?俺が不審者に!?どう言うことだ!?でもりぼんが着ていた最初の服を思い出した。あの素材のいい服。そうかああいうものをりぼん達は着ているのだ。
「私の世界にはあまり戻りたくないな。辛かったし。…元の生活に戻りたくない」
「しかし、りぼんの両親は心配していると思うぞ?いきなり娘が消えたんだ。ヨネモリ先生もユッキーナ様もだ。親は娘を愛しているものだ」
両親が既に他界している俺は幼い頃から兄上に育てられたようなものだ。
「………そうだね、ずっと逃げてたのかもね私…。でもライさんと会って、気持ちが通じた今は一緒に生きたいと思えるようになったよ!もう死にたいって言わないら!」
とりぼんは言い、感動する俺!いつかりぼんのご両親に会ってみたいなぁ…。
「さぁ、もう休んで明日…皆と一緒に世界樹のところに行こう!…お休みりぼん…あ、愛しているよ」
と俺はりぼんの頰にキスして立ち上がる。りぼんは赤くなり俺が出て行くまで扉を見つめていた。
*
翌日、黒ライを見たりぼんは
「うわぁぁ!!黒髪赤目のライさん!!なんか凄いレア見た気がする!!」
と言ってジロジロと黒ライを見過ぎだ。
黒ライは照れて赤くなっている。俺だもんな!!
「金ライが嫉妬するからあまり見るな。興奮する」
いやするな!興奮!!
いやでも逆の立場なら俺もするかも。
こっちの世界のパーシヴァルにダーレンにカール、アシュトンも揃っていた。
りぼんも驚いて見ていた。
俺たちは円形になり互いに隣の奴と手を繋ぐ。俺と黒ライの間にりぼんがいる。黒ライはりぼんと手を繋ぎドギマギしているのが判る。
俺はジトリと睨んだ。黒ライは
「仕方ないだろう!!いちいち怒るな!!」
ちっ!まぁ仕方ない。
りぼんは
「精霊ちゃんお願い!もう一度私達を楽園に送って!」
するとゴウッと風が吹いたと思ったら俺たちはあの澄んだ綺麗な森にいた。楽園と呼ばれる世界樹のある場所だ!
「ここが楽園??綺麗な森だねぇ?………あっ、ちょっと催してきたな…トイレないからその辺でしてこようかな」
「早速森を穢そうとするな!カール!バカ!」
と黒ライに怒られるカール。こっちのカールも相変わらずだよな。
それから進んでいくと泉と世界樹の木が奥に見えた。
*
「お、王子いいいいい!!!」
俺の世界の黒髪赤目のアシュトンが小屋から出てきて自分そっくりの裏世界の真っ白な髪で黒い瞳のアシュトンと顔を合わせて驚いていた!!
「は、はじめ、はじめまままして…自分はアシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショーです。よろしく」
ついにアシュトンは白アシュに変な自己紹介をして手を差し出している!!
白アシュも黒アシュに同じように自己紹介をして経緯を説明していた。
「そう言えば…聖女ユッキーナ様は?」
「ええ…とりあえず縛り上げて眠らせてます…起きてるとすぐ自分を求めて誘惑してくるので…ユッキーナ様は媚薬使わなくても常に自分にはそんな感じですし、なんと言っても元聖女様とは違い、世界樹の意志と結託しております。つまり自分さえいれば他の世界がどうなっても構わないようです」
と黒アシュは苦虫を噛み潰すような顔をしている。
「まぁ…信じられない話だが、自分なら例え可愛らしい人の願いであっても世界を滅ぼそうとまでいかれた考え方の人とは一緒になれないですね」
と白アシュは同意した。俺と黒ライ同様やはり見た目だけ少し違っても中身はほとんど同じようだ。
「その通りです。流石自分。解ってますね。いくら可愛くても自分はユッキーナ様にもっと性格を改めて貰いたいのです!お義父様とも…判りあって欲しい。あの方…ヨネモリ様は良いお方です。別れる時もユッキーナ様のことを頼んだと自分に言っておりました!」
「………アシュトン…。確かにヨネモリ先生は良い人だ。それで…ここにヨネモリ先生を召喚できないだろうか?」
すると黒アシュは驚いた!
「えっ!?ここにですか!?いっ今ですか??」
俺と黒ライはうなづくと
「そうだ。聖女を…異世界の三人をここに揃える!!そして世界樹と話をしてダメなら…三人とも元の世界に送還する覚悟!…どの道世界を崩壊させると世界樹が願うなら俺たちも覚悟を決めようと思う!」
「か、覚悟ですか!?」
「そうだ!アシュトン!これはエルフのダーレンを交えて世界樹との交渉が上手く行かなかった時の最終決断とする!
交渉が決裂した際はアシュトンは他の世界から聖女召喚を行わない!俺たちも世界も共に消えよう。後に残されるのは放置された世界樹と精霊のみ。人間がいないなら繁栄も発展もしない。命は生まれない…そうだな?ダーレン」
銀色の三つ編み髪を垂らし褐色肌で赤目のダーレンは
「ええ…元々言い伝えですがエルフ族と言うのは昔々ミズガルズ世界の雌人間と世界樹の枝が人の姿の雄と変わり交わり産まれた存在…それが…エルフ族と言われております!
つまり私達エルフ族は本来ならば世界樹の子孫か親戚と言ったところでしょうね」
と説明すると黒アシュは目を見開いた。
「そう…なのですか……」
「世界樹はだから楽園から追放させられた子孫達をずっと不憫に思っていた筈です。追放したのは神々ですが、楽園に落とされたただ一人の人間の雌…。その雌が他の人間を楽園に招き結果火をつけられ世界樹を燃やされかけた。
そして散り散りなったエルフ族の殆どは人間に捕まって奴隷に近しい立場での扱い。私も昔は奴隷に近いような環境でした。
神官長となったのは私の先祖がその太古の昔よりの史実を知る末裔だったから。それに興味を持った人間の大司教により我がバークリーの一族だけは他のエルフとは一線を置かれたのです。
バークリーの一族が…もし伝承の通り世界樹の始祖に当たる存在ならば…無碍に扱うことは出来なかった…。しかし結果として世界樹は世界を作り替えることを今望んでいるということです」
長々と語ったダーレンの話にカールは楽園の散策をしたり、パーシヴァルにおいてはバカなので頭から煙を出しているだけだった。
「パーシヴァル…しっかりしろ?今の話理解できたか?」
「殿下…申し訳ない!俺様は難しいことは苦手だ!歴史とかも苦手だ!!今を生きている!!帰ってヴィヴィアン王女を押し倒し愛を囁きたい!彼女の呪いはまだ解けていないからあの美しい姿で愛し合うには数時間しか時間がないのだ!」
と押し倒すことしか考えてないバカは言った。つか、ヴィヴィアン王女が本当はデブスと言うことはもしこいつらの間に子供が産まれてその子がデブスだったらパーシヴァルは簡単にこう言うと思うんだ。
『なんと言うことだ!!子供まで呪いにかかっているというのか!!可哀想に!!』
とか言いそう!
とりあえずパーシヴァルのことは無視しておいて黒アシュはおっさん聖女…ヨネモリ先生を召喚することには同意した。
寿命が縮まることだが、白アシュはおっさん聖女の姿を知らない為に召喚することは不可能であるから黒アシュに頼むしかなかったのだ。
「少しだけ時間をください!ユッキーナ様とまともな話し合いをします!自分がユッキーナ様を改心させてみますから!」
と黒アシュは目をキツくした。こんな頼もしいアシュトン信じられるか?
「アシュトンかあれ?」
と黒ライも驚いていた。白アシュは完全に応援モードだ。召喚するともちろん白アシュも黒アシュ同様に命は縮むだろうに。
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