第15話 ギャル聖女と魔術師アシュトン

 自分は王宮魔術師アシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショー。この国で最高位とされる魔術師であった。代々王家に仕えてきた由緒正しき魔術師の家柄で一応侯爵位も賜っている。


 代々魔術は受け継がれ、秘術となる異世界召喚を行える術もブラッドショー家のみだ。この異世界から聖女を召喚という術には自らの寿命を対価として差し出さねばならず、自分はそれを2度も行った。確実に寿命は減っただろう。


 しかし送られてきたのは身体の弱い死にたがり聖女やハゲた死にたがりのおじさん。

 そんなこんなで王がブチ切れるのも当然で、とうとう3度目の召喚を依頼された。


 えっ!!3度目って!!もう自分死ぬんじゃないかな??嘘でしょ?こっちのがもう死にたくなった。ていうかどうせ死ぬならもういいかとも思えてきた。


 しかも厄介なことに変身薬を開発しているのだが、試作品をカールが試してみたいと言い出し、勝手に持っていかれた…。


 しばらくすると聖騎士のパーシヴァルさんが来て隣国の王女の呪いを解いてくれとか訳の判らないことを言い出した。


 よくよく聞いてみるとそれは自分の作った変身薬で美女に変わっただけのヴィヴィアン王女じゃないか!確かあの王女…自分も見たことくらいはあったが元々の姿はかなりおデブさんで決して美女ではなかった!自分の薬で美女になったのだ。


 それをカールが食べ物に仕込んだのだろう。

 パーシヴァルさんは完全に美女の方が元の王女と信じており厄介だった。ライオネル王子との婚約話は王女の方から断られ、パーシヴァルさんを気に入った王女はそちらを紹介するようにと言ったらしく、もはや真実など気弱な自分には言えない。


「………の、呪いの解除薬です。まだ試作品でして…数時間程しか元の姿に戻れないでしょう」

 と言い変身薬を渡した。パーシヴァルさんは信じ込み何度もお礼を言ってきた。

 騙すのは心苦しいが自分もどの道次の聖女召喚でそろそろ寿命も無くなりそうだしどうでもいいやと思った。


 王子とカールは事情を知っているみたいだけど、パーシヴァルのあの恋する浮かれた顔を見て本当のことを言い出せないのは伝わったので。約1名は面白くて仕方ないようだけど。


 それにしても聖女を召喚したら自分の寿命が尽きる前にどうにか嫁を取り子を成し、ブラッドショー家の後継を残しておかなければならない。時間が無かった。王も急に召喚とか言うからその準備もあり、今見合いをしている暇はないから召喚が終わってからだ!


 もうため息しかない。短期間で恋に堕ちる相手など見つからないだろうし政略結婚で子が出来るまで、命が尽きる前に頑張らないといけないとか…。自分の人生って何なのだろうかと。


 親から受け継いだ術を王宮で役立てたくて頑張ってきた。人見知りの自分は時には沢山の魔術を新しく開発して役立てた。

 そして聖女召喚という儀式には最初緊張しつつもなんとか成功できてホッとしたが聖女は倒れていたりおっさんを召喚したりで王や他の貴族にもポンコツ呼ばわりされ自信はなくなった。


 引きこもることが多くなった。最初の聖女には何か恨まれたしめっちゃ睨まれたし最初の聖女は苦手だ。


「3番目の聖女も何か失敗したらどうしようか…」

 それでももういいか。4度目はない。これで最後だと王にも告げたし。


 自分の役目は後は子供を成すことしかない。

 魔術を受け継ぐ後継者となる子供だ。

 さっさと儀式を終わらせて適当な人と結婚して適当に後継者を残して自分は死ぬ。


「はぁ…自分…何してるんだろう…」

 しかし特に趣味もなく、今まで生きてきた。唯一魔術を頑張ってきただけである。それが自分の生きる道でしかなかった。


 *

 3番目の聖女の儀式の為にまた床に魔法陣を描き王や家臣に王子達が固唾を見守る。3回目ともなると


「今度はまともな聖女来ないかな」


「健康でハゲてなくてな!」

 とヒソヒソ言う声がする。ううう!

 するとライオネル王子が肩に手を置いた。


 ライオネル王子とは昔からの幼馴染でいつも自分と仲良くしてくれた。


「アシュトン…すまない。3回も…。兄上がバカなだけに…お前の寿命を…せめてこれが終わったらお前にぴったりな花嫁探しを手伝うよ」

 と言ってくれた。


「ライオネル殿下…ありがとうございます。自分…とても幸せでした!」


「おい、やめろ!今すぐ死ぬみたいな言い方!ただでさえ最近死に敏感だわ!」

 と突っ込まれた。ライオネル王子の突っ込みいつも的確だなぁ。それももうあと僅かとなるのか。残された時間は自分には少ないだろう。


「3番目の聖女召喚の儀に入ります!」

 自分は決意して召喚に集中して詠唱を始めた。


 いつものように眩い光が視界を覆った後…そこに女性の姿があった。なんか…結構胸がでんとあり、洒落た感じの服だ。上は白い暖かそうな服に短めの足の出たスカートにドキリとした!

 だって足なんか見せる女性はこの世界にいない。


 髪は茶色だが化粧は決めていて可愛い。顔はそう、可愛かった!!いや、化粧落とすと違うかもしれない。女は化粧で化けるのだ。

 あまり期待しないでおこうというか、スッピンを見ることなんか自分にはないだろう。


 太腿や足は出ていたけど靴はブーツなのか?

 最初の聖女とも違う服装だし。


 聖女はキョトンしていたが喋りだした。


「何ここ?あーし、変態オヤジに襲われて逃げてトラックに跳ねられたと思ってたんだけど…。マジ生存しててヤバくね?どゆこと?


 つーか何?イケメン多くね?ヤバ!テンアゲ!!バイブスヤバ!


 特にそこの黒髪赤目ロングとかマジタイプ!あ、ヤバ!ヤバイ!キュン死に!」


 と一気にベラベラ訳の判らない単語ばかりを喋っていた。しかも自分のことかな?最後の方。


「おほん!聖女よ!ここはウィンガルド王国だ。私は国王のスチュアート・バージル・ダウディングだ。この国の穢れを払う為に其方を異世界から召喚させたのだ」

 そしてライオネルに続きをと王は目配せした。


「初めまして。俺は王弟の第二王子ライオネル・ハリスン・ダウディングです。聖女様、どうぞよろしくお願いします」

 と言うと


「わっ!マジ王子って感じ!!マジ王子だ!つかなんとか王国?イミフだけどちょっとここさあ、映えない?インシュタ映えない?スマホどこだっけ?あれ無い?」


「い…インシュタ?映え??」


「マジウケる!インシュタ知らないの?フォロワー1000人だけどさ。ツイの方は3000人。うーん、まだまだあーしもダメだね。ヤバ、テンサゲ」


「おい、アシュトン…この聖女訳が判らんことばかり言っているが一応は健康そうだな!とりあえずは成功したな!よくやったぞ!先の二人とはマシな方だ」

 と王がやっと褒めた。


「ありがとう存じます。我が王。早速魔力量を調べましょう」

 と聖女の前に行くと


「わっ!イケメンタイプきた!よろしくー!あーしね、羽島優樹菜!ユッキーナって呼んでねっ!」


「ユッキーナ…様?どうぞよろしくお願いします。自分は王宮魔術師の…」


「アシュトンでしょ!?何か知んないけど名前が頭の上に視えるし、ヤバ!デス消しゴムみたい!てかアシュトン!ヤバイって声もイケボじゃん!何から何までいい!特に顔がいい!ねっ!あーしと付き合ってみない?」


「えっ!?何て?名前が頭の上に視える?後は…顔がいいと付き合ってしか判らなかった…です」


「それだけ判ればいいよー!あーしギャルだけど好きな男と付き合えるなら死んでもいーし!」


「ひっ!?し、死ぬー?」

 ザワリとその場は動揺した!またもや死にたい願望の聖女なのか!?


「アシュトン?この聖女も死にたいと言ったぞ?どういうことだ?」

 王は睨んだ。


「ちょっ!アシュトン苛めちゃあーし許さないしっ!」

 と何故か聖女に庇われた。

 自分はこの聖女の魔力量を見た。


 とりあえず普通だった。おっさんや最初の聖女よりは多い。


「魔力量は普通のようです」

 と告げると王は王子に命じ


「では聖女宮に案内してやれ。説明も頼むぞ。ライオネル」


「はい、兄上」

 と礼を取るライオネル王子。自分の仕事は終わったな。しかし…聖女はキョトンとしたまま自分の服の裾を持ったままだ。


「あの?聖女様。お離しください。お部屋に王子が案内するそうですので」

 チラリと王子を見た聖女は


「は?やだし!あーし、アシュトンがいい!部屋に案内ってそういうことっしょ?ここが天国ならアシュトンがいい!」

 と頰を染めた。

 なんなんだ?また何か勘違いしている??

 ライオネル王子はため息をついて


「うーん、アシュトン…どうもこの聖女はよく解っていないみたいだね。君から説明してやってくれないか?部屋にも案内してやってほしい」

 と言われてとにかく聖女と護衛や侍女を連れて部屋に向かった。


 その間も聖女は自分にベッタリしていて胸があた、当たって…。ダメだ!こんな化粧で誤魔化しているような…。素顔を見たら幻滅するんだから…。と言い聞かせる。


 部屋の前に着き聖女は護衛騎士と侍女に


「あんたら何?つーかどっか行ってくんない?邪魔!聞き耳立ててたら駄目だし!」

 と言い、侍女と騎士は真っ赤になり慌てて下がった。騎士はこの部屋の廊下の先の階段の前に移動してしまった。

 どういうこと??


「さっ!はいろ!!」

 と腕を引っ張られた。

 何なんだ強引すぎる!!


「うわー!凄い部屋!!ネズミーシーのお伽話に出てくるような感じじゃーん!!いいね♡100は付くかな??」


「ネズミ…!?」


 ともかく気に入ったようだとホッとしてとりあえず侍女もいないしティーポットから紅茶を用意して差し上げた。


「何紅茶?タピオカじゃないけど美味しい!!喉渇いてたんだ!あーし!ありがと!マジうれぴ!あーし、変態オヤジに絡まれて逃げてたんだよね!汗臭いからシャワーしたいな!」


「タピオカ?シャワー??」


「えっ?シャワーないの?マジあり得ないんだけど!あっ?ここ?」

 と風呂場に続く扉を開けた。シャワーとは風呂のことか?


「ああ、お風呂ですね?侍女を呼んで準備させます。自分は下がりますね。詳しい話は明日王子からお聞きになられたらよろしいでしょう」

 と立ち上がると止められた。

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