死にたい聖女がやってきた

黒月白華

第1話 聖女召喚をしようか

 この国ウィンガルド王国は霞んだ黒い霧が立ち込め…まさに滅びの瞬間を迎えようとしていた。


 誰かがこの国を穢し民達は病気で苦しむ者が増えた。このままでは王国が滅びる。議会でこの国に聖女を呼び寄せることにした。


 上手くいけばこの国の瘴気は聖女が浄化してくれるはずだ!

 そう第二王子である俺…ライオネル・ハリスン・ダウディングは思っていた。金髪で蒼い瞳を持っている。正に王子様と言われる容貌。


 つまり異世界から聖女を召喚し国を救うという儀式を執り行うことが決定した。


 聖女を迎える為、王宮魔術師と聖女護衛騎士と聖女付きの侍女や従者も用意して準備万端の夜…


「聖女だからきっともんの凄い美人に決まってるぜ!」

 と兵士の一人が喋っている。俺は壁に隠れて聞き耳を立てた。


「だよな!おいおい、どうする?めっちゃ胸おっきかったら!?俺の息子反応しちゃうかも!」


「いいよな、聖女付きの騎士や従者…それに王子…召喚されたら側にいれるんだろ?何せ聖女様だからな!きっといい匂いするんだろうな!あわよくば結婚なんか申し込んで聖女様の子供産んじゃうかも?」


「あの中の誰が聖女を堕とすのかな?」


「やっぱりそういう展開だよね?だって…イケメン揃いだぜ?俺もイケメンに産まれたかった!第二王子に魔術師様に騎士に従者…あ、神官もいたか。なんで揃いも揃って皆イケメン?」


「知らんけど凄いよな!聖女様逆ハーレム状態になるんじゃね?もしかして全員と関係をもっちゃうとか??」


 というなんとも下世話な会話が聞こえた。減給決定だな。あいつら。


 俺は女などに興味がない。だから来る見合いもやんわり断り夜会で媚薬を盛られそうになったりしているのに。それでも国の為に瘴気をなんとかしてもらう為に全力で聖女をもてなせという王である兄上から仰せつかった。


 もてなすのはあくまでも仕事と割り切っている。誰が口説くものか!そんな暇ないだろ!?瘴気をなんとかしなきゃいけないのに!今も城下ではどんどん死人が増えてきているんだぞ!?彼等に言われるわ!


「口説いてる暇あったら何とか浄化しろはよ!!」

 と。


 *


 王宮の図書館で明日の儀式の為の呪文の本を確認する自分…アシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショーとやたら長い名前の王宮魔術師だ。長い黒髪と赤の瞳を持つ。

 自分は真面目なので予習復讐をきっちりする。聖女を召喚したらその魔力量を調べなければならない。魔力量は人の胸に集中している。自分にはそれが視える。


 そんな中、ロマンス小説を読み、話している令嬢達の声がしたのでさっと本棚の影に隠れて話を聞いた。自分は極度の人見知りだ。今まで女性と話すら出来なく見合い話は断った。


「それで…明日聖女様が召喚されたら聖女様逆ハーレムですわね!!いいなぁ!イケメンに囲まれてみたいわぁ!」


「乙女の夢ですわ!それ!!」


「私も可愛い顔とか美人で綺麗な顔でしたら良かったのに!」


「まぁ、さっさと瘴気払ってイケメン達の誰かとくっ付いて終わりですわ!決まってるわ!私達は精々残ったイケメン達を崇めましょう!!」

 という会話だった。


 そもそも聖女を召喚し、魔力量を測ったら自分の仕事は終わりだ!元々人見知りだしこの先関わることもない。自分は絶対にその逆ハーレムとやらの一員にはならないと思う。いくら美人とか可愛い人が来ても自分はさらっと他の人に譲りますから勝手にどうぞ。はい。


 *


 聖女の護衛騎士を任された聖騎士パーシヴァル・エマニュエル・ボルトンだ。赤髪で碧の目を持っている。


 明日の儀式が終わると聖女を部屋まで従者を伴い護衛。王子もいる。だるいな。


 そう思っていると聖騎士団の仲間達が話していたからさっと柱の影に隠れて話を聞いた。


「パーシヴァルの奴いいよなぁ…聖女様の護衛騎士とかカッコよくね?危険から身を守るパーシヴァルに惚れちまうよきっと。聖女って美人に決まってるし!」


「それな!!俺もカッコいいとこ見せて女を惚れさせて愛をささやき、最終的に押し倒したい!!」


「俺も美人押し倒したい!」


「ああ!美人!早くきて!!もう妄想で俺押し倒す!」

 という会話が聞こえる。

 バカな奴らだ。

 俺様が本気で一人の女で満足するとでも思っているのか?俺様は確かにモテるし女性達からキャーキャー!と黄色い歓声が飛ぶ。正直贈り物や告白もされたが夢中になるわけでもない。それほどの魅力のある女に出くわしたことなどないのだ。つまらん。


 逆に押し倒せるくらいの女なら会ってみたいが早々そんないい女いるわけがない。それに護衛は影から見守るのが仕事だ。聖女と言う特別な位置付けの女と気軽に話せる機会は少ないだろうな。


 *


 明日…やっと聖女様召喚か。もっと早く議会で決定したら被害も少なかっただろうに。バカなのかな?この国の奴らって?ほんと死ねばいいのに。上層部。


 まぁ僕の仕事は聖女様の身の周りの世話をする一人だけど。

 僕はカール・デイヴィッド・ノース。可愛い顔つきのちょっとたまに毒がでちゃう男さ。髪は栗色で瞳は薄桃色。基本魔術は使える。


 双子の妹のジェシカ・エセル・ノースは同じく侍女としてつくのだ。

 執事服を綺麗にしていると妹が入ってきた。


「カール…明日は聖女様が召喚される日ね!聖女付きなら給金も弾むはずよ?もし聖女様に気に入られたらカールの子産んでさらに私はお金持ちに!!頑張ってねカール!聖女を口説いて結婚できれば我がノース伯爵家も聖女の加護付きとして有力貴族からの支援も望めるわ!」


 と。伯爵家と言っても先代がやらかし、負債を背負いカツカツの生活で長男であるにも関わらずこうして聖女様に仕える従僕として奉公することになった。選ばれて良かった。


 必ず聖女を落として金持ちになってやるよ!!

 僕の必殺技を使えば女なんてきっとイチコロだよね?


 *


 明日の聖女召喚の為に、ゆっくり休まないといけない。私は肩より少し長い緑の髪を編んだ三つ編みを垂らし瞳は金色で耳は少しとんがったエルフの神官ダーレン・ブルーノ・バークリーだ。


 けしてエロい神官ではない。

 お風呂の用意を側仕えたちに頼もうとしたら彼等の声が部屋の中から聞こえてきたから耳を澄ました。


「聖女様か…どうする?エッロイ身体の人だったら」


「エッロイ!!?まじ?」


「バカっ!禁忌な言葉を使うな!神官長や大司教様に知られたら俺たちクビだ!!」


「大丈夫だよ。もう今日は仕事ないし。たまにはいいじやないか!?神様も息抜きは必要だよって」


「よし判った!連帯責任な!!エロい話しよか!」

 するな馬鹿者!規律違反だ!!

 しかし見逃してやるか。私心広いので!

 けしてエロい話聞きたいとか思ってないので!


「それでどうだと思うよ?ぶっちゃけ聖女様の予想」


「胸がデカくて時々転んでパンチラもいいよな!!ドジっ子聖女最高です!ごちです!」

 いいですね!世俗で言うラッキースケベじゃないですか!!


「お前…鼻血もんじゃん!!それ!!」


「そりゃ、エロくなきゃ、聖女じゃないだろ?神官長はいいよな?明日聖女の健康状態に異常がないか隅から隅まで見れるだろ?ああ!神官長と聖女様のいけない恋が!!」



 とか言っている!!

 やめてください。そんなこと。エロくなきゃ聖女じゃないは称賛しますが。


 私は確かに神官長で癒しの力を持っています。

 健康状態を確認するには確かに一度服を脱がした状態で一瞬で視る。しかし裸は一瞬視界に入るだろうがそんなじっくり眺めまわすなんて変態なこと聖職者である私に許されるわけがない!

 例え下半身が反応しようとも!


 そして私は身体の痛い箇所や悪い場所を探し当てる事ができるのだ。


 もし何らかの異常が見られた場合ヒーリング治療を行う。それが私の役目なので終わったら聖女が怪我しない限りは早々会うこともないだろう。例え聖女がエロい身体をしていようと…妄想で頑張れますから神様!!


 *


 そして儀式の日…。一同が講堂に集まり床に巨大な魔法陣が描かれた。

 王も見守る中ついに王宮魔術師が詠唱を唱え出した。


「穢れを払いし者よ!今、ここに降り立ち我らを救いたまへ!


【ディパール・ゴドラ・エイブランディラ!!】」


 詠唱が終わると床が白く光り眩しくなった!!

 光りが弱まると何か赤いモノが見えた。

 そしてボサボサで長い黒髪のガリガリの女が手首から血を流して倒れていた。


 一瞬皆時が止まったようになり女を見ていた。

 あれ?ヤバくね??

 聖女死にかけてない?

 俺はやっと意識を戻して


「神官長!!何してる!!せ、聖女を助けろ!!」

 と叫ぶと神官長がビクリとして聖女に駆け寄りまず血を止めた。そして他に異常がないか確認して叫んだ!!


「貧血と栄養不足と何か臭いです!!」


 見りゃ誰でも判ることを!!

 王…兄上は


「えっ!!?召喚失敗じゃないのか?アシュトンくん!どうなってんの?」

 と魔術師を責めた。


「えっ…あうああ…王!そ、そんな!ちゃんと…やりました!手順通り!やだ!牢屋だけは!!」

 と泣きそうだ。


「兄上!!アシュトンの詠唱は完璧でした!アシュトンは王宮魔術師の中でも随一の腕を持つ者です!そのアシュトンが失敗などしません!聖女側に問題があったのでしょう!」


「おおお!王子…あり…ありあ…とう」

 アシュトンはテンパっている。

 腕は確かでも人見知りコミュ症だからな。


 とりあえず聖女を俺が運び、従者と騎士も付いてきて一応神官長も付いてきた。

 侍女を呼び身体を清めさせ、寝かせてやった。

 神官長はヒーリングを施し


「何とか最悪の状態からは脱出できました。このまましばらく安静にさせて回復を待ちましょう。しかし衰弱が酷いです。見れば判りますがとにかく栄養を採らせましょう。血を作ることはヒーリングではできません!最初は軽めの流動食からゆっくりと普通の食事に変えて…運動ができるようになるまで様子見で…」

 と言うから王子の俺は叫んだ。と言うか突っ込んだ。


「それもう病人そのものーーーー!!!」

 まさかの衰弱聖女が召喚されてくるなんて聞いてないよ!!

 この国は一体いつ瘴気から救われるんだーーー!!!

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