第92話 黄竜戦決着

 黄竜の雷属性スキルに持続性が無くなってきた頃。

 ディーノは何度も受け止めながらカウンターとして黄竜の左右前足とブレスを吐き出すその顔に何度も爆破を叩き込み、ユニオンの新たな使用方法、自身のスキルとして魔法系スキルのカウンター技【リベンジブラスト】を作り上げていた。

 敵の魔法スキルに使用される魔力と自身の使用できる魔力とで威力は左右されるものの、自身の使用する魔力の二倍の出力で発動できると考えれば、ディーノの不足していた攻撃力を補える事になるだろう。

 しかし今は引き出している魔力を次々と使っている為、高い威力でのリベンジブラストを放つ事はできないのだが。


 次第に黄竜の雷光が衰え始め、今ではブレスを吐き出す事もできずに胸元から稲光を発するのみ。

 ディーノの位置を察知する能力は使用できるものと思われるが、今更隠れて戦う必要もなく左右前足の攻撃を回避しながらそろそろ仲間に任せようかと周囲へと視線を巡らせる。

 街の外へと移動して戦いを見守っていた仲間達を発見し、スキル待機時間を終えたディーノは鼻先を爆破してから駆け出した。




 ディーノを見守っていた冒険者達およそ五十名は、全員が遠見筒を持ってディーノの姿を追っており、側から見るとなかなかに異様な集団として映る。

 その前方に降り立ったディーノは汗を拭いながらいい笑顔を見せて歩み寄る。


「いや〜、いい戦いだった。久しぶりにオレより強いモンスターと戦えて最高の気分だ」


「ああ、なんだ……何と声を掛けていいのか悩むな。う〜む、ひとまずは労いの言葉を掛けるべきか。よくぞ戦ってくれたなディーノよ……むぅ、これで合っておるのか?さすがに私も思考が停止してしまってな」


 冒険者の戦いを見た事もなかったセヴェリンも、まさかこれ程まで大規模な戦いになるとは思っていなかったのか、普段厳格な表情を崩さないこの男もやや呆け気味のようだ。


「伯爵様はモンスターすら滅多に見る事はないでしょうからね。オレ達の戦いなんて大体こんなものですよ」


 これに誰しもが「そんなわけあるか」とツッコみたくなるものの、すでに人間の枠を超えたディーノの存在にどう接していいかもわからない。

 普段からディーノの戦いを見ているアリスはいつものようにうっとりとした表情でディーノを見つめ、同じパーティーメンバーとなったフィオレは「ディーノかっこいい」とアリスの横で飛び跳ねている。

 何度かディーノの戦いを見たアークトゥルスは地面に座ったままで「ま、ディーノにしては苦戦したか」と驚く事はなくやや呆れ顔だ。

 これから黄竜と戦う事になるというのにこの気の抜け方で大丈夫だろうかと思える程に脱力しているが。

 同じくこの後黄竜と戦う事になるルビーグラスはディーノの尋常ならざる戦いに身震いし、向かい来る黄竜に士気を高めて武器を握りしめた。


「結構弱ってるとは思うけど怒り狂ってるから気をつけてな。さあ行ってこい!」


「応!」と返したルビーグラスは歩き出し、「やれやれ」とばかりに立ち上がったアークトゥルスはカルロの「行くぞ野郎共!」の掛け声に合わせて駆け出した。


「じゃあ私達も行きますかっ」


 アリスはディーノに遠見筒を渡して拳を突き合わせ、右手に魔力を集中させながらここしばらく使っていない遠距離魔法を放とうと炎球を片手に走り出す。

「援護は任せて〜」とフィオレもアリスの後を追い、最初の一撃で黄竜の出鼻を挫こうとインパクトに意識を集中しながら全速力で駆け出した。


 ルビーグラスとアークトゥルス、黒夜叉が黄竜に向かった事でディーノも戦闘への警戒を緩め、「お疲れ様でした」とエンリコから渡された水を飲んで一息つく。


「さあ、皆さん!ここからは人間と竜種との戦いになりますからね!しっかりとその戦いを目に焼き付けましょう!」


 そう語るヴィタはディーノを人間とは思っていないのか、ディーノは遠見筒を覗き込みながら水を吹き出していた。




 黄竜も弱っているとはいえ上位竜としての強さは人間の理解を遥かに上回り、傍目から見た動きは鈍ったとしても接近すれば異常な程の速度で動く巨体は衰えを全く感じさせない。

 ナイトのカルロとランサーナイトのジョルジョを先頭に走り進んだ合同パーティーは、他に注意が向かないよう声を高めて黄竜を引き付ける。

 そして黄竜との接敵を前に右頬に射ち込まれたインパクトが頭ごと左を向かせ、顔面目掛けた魔法スキルがアリスから放たれると目元で炎が燃え上がる。

 その炎に気を取られている隙にウベルトが地属性スキルを発動して黄竜の足元の地面を崩す事で横倒しにし、近付く人間を薙ぎ払おうと右前足を横に薙いだところをカルロとジョルジョ二人掛かりで上方に払い除ける。

 腕が砕ける程の衝撃にカルロはバッシュを、ジョルジョはパリィを発動する事でなんとか耐える。

 その背後にいたロッコとドナートが回復し、次の攻撃に備えて盾を構えるカルロとジョルジョ。

 そこへネストレが黄竜の頭に飛び乗り、鱗の剥がれた首元へとダガーを突き立てると、黄竜は絶叫しながら地面を転がる事でネストレを振り落とす。

 さらにファイターであるコルラードとマンフレードが喉元へと斬り掛かり、大剣が深く食い込むとまともに発動できなくなった雷魔法で顎下から放電。

 ファイター二人はすぐさま大剣を引き抜いて後方へと引き下がる。


 一瞬の間が空いた事で素早く起き上がった黄竜は前足で地面を掴んで四足で這うと、尻尾を振り回す事で地面に立つパーティーを一気に薙ぎ払う。

 それを跳躍して回避したネストレは尻尾から背後へと回り込み、鱗の剥がれた部分を目指して駆け上がる。

 しかし察知能力の高い黄竜はネストレの位置も把握している為、体を起こす事で振り落とし、巨大な翼で叩き飛ばすと、空へ舞い上がろうと翼を広げて羽ばたくも飛膜が斬り裂かれている為飛翔する事ができない。

 怒りの咆哮をあげて立ち上がったカルロへと右前足を叩き付け、受け流されたその前足へとドナートの斬撃が振り抜かれる。

 クレリックセイバーとは思えない程の体躯を持つドナートの斬撃は黄竜の前足にも傷を残し、ジョルジョの槍が肘関節部へと突き刺さると突然の噛みつき攻撃がジョルジョを襲う。

 しかしそこへ距離を詰めていたアリスの魔鉄槍バーンが黄竜の右目に突き刺さり、内部へと放出された炎槍が右目を貫き爆散させる。

 絶叫と共に横向きに倒れ込んだ事で後方へと下がったカルロとジョルジョ、ロッコとドナート。

 巨大な翼が覆い被さる事で周囲を確認する事ができなくなり、盾で押さえてこの状況に何とか耐える。

 右前足で右目を押さえる黄竜は察知能力がある為警戒を緩める事はなく、近付こうとしたネストレに向けて左前足を振り下ろし、スキル待機時間であるアリスは後方に下がって隙を伺っている。

 と、そこへ少し離れた位置にいたフィオレからのインパクトが翼の付け根部分へと穿たれ、弱点に強い衝撃を受けた黄竜は絶叫をあげて悶え苦しむ。


 そして足側から回り込んでいたファイター二人は下腹部へと接近すると、スラッシュを発動して全力で斬り込んだ。

 パワー型のコルラードの斬撃は深々と肉を斬り裂いて地面へと大剣を叩きつけ、リッパー型のマンフレードの刃はコルラード程深い傷とはならないものの、反動が少ない為返す刃で通常の斬撃も食らわせる。

 互いに傷跡を確認してからすぐさま後方へと駆け出すも、黄竜の足元に近い事から倒れたまま暴れる後足に蹴り飛ばされて地面を転がった。

 起き上がって回復薬を口に含み、互いの求める強さの違いはあれどファイターとしてのその実力を認め合い、獰猛な笑みを浮かべて再び黄竜へと駆け出す。


 ネストレは黄竜に攻めきれずにいるものの、背中側からの攻撃を嫌う黄竜は実のところこの男を最も警戒している。

 左前足による叩き付けをバックステップ一つで躱すと、前足を足場にして背後に回ろうと急加速する事から警戒を緩められずにいるのだ。


 黄竜が再び起き上がった頃にはアリスのスキル待機時間を終え、フィオレもインパクトをいつでも射てるよう待機している。

 そして黄竜が起き上がれば翼に覆われていた盾職二人と回復職二人が解放され、前面にネストレ、右に盾職と回復職、アリスと少し離れた位置にフィオレ、左にファイター二人と黄竜を囲み込む形になった。

 陣形としては崩れてしまっているが、背面側に弱点がある黄竜が相手であれば仕方がない事だろう。


 フィオレが背面側に回り込もうと駆け出すと、カルロとロッコも黄竜の右側をルビーグラスに任せてネストレの援護をしようと移動を開始。

 黄竜もフィオレのインパクトを警戒してか向きを少し変え、目の前を横切ろうとするカルロとロッコを叩き潰そうと右前足を振り下ろす。

 黄竜程巨大なモンスターの攻撃に耐えられるようなスキルではないとはいえ、長年の戦闘技術と高められたステータスでこの一撃を受け流し、ロッコは黄竜相手に牽制にもならないだろうとは思いつつも矢を放つ。

 そして黄竜が動き出せば人間側も行動を開始しており、ネストレは注意がそれた瞬間に駆け出し、エアレイドによる超加速で左前足の肩に当たる部分まで跳躍。

 鱗に掴まりながら背面目指して這い上がる。

 同じように行動を開始したコルラードは尻尾へと向かって駆け出し、それほど硬くはないだろうと尻尾の先端をスラッシュで叩き斬る。

 切り落とされた尻尾はビチビチとその場で跳ねているが、切られた黄竜は怒りの咆哮をあげてその場から跳躍して全員を視界に捉えられるように向きを変えた。


 コルラードと同時に動き出していたマンフレードは踏み潰されそうになるものの、目の前に現れた後足にスラッシュで斬り付け、体重の乗った足に斬撃を受けた事で大きなダメージとなり黄竜も着地体勢を崩す事となった。

 そこに駆け込むジョルジョとドナート、その背後からはアリスが続き、悲鳴をあげてバランスを崩した黄竜に接近、前屈みになったところを顎下から突き刺しと斬撃、そして懐に飛び込んだアリスの炎槍が腹部に突き刺さる。

 その威力に口から血を吹き出し悲鳴をあげて右後方に倒れ込む黄竜。

 やはり収束された炎槍は竜種にも通用する絶大な威力を持つようだ。

 未だ鱗にしがみついていたネストレはそのまま背後へと回り込み、動きの鈍くなった黄竜の首筋へとダガーを突き刺した。

 回り込もうと走っていたフィオレも黄竜の右前足から駆け上がり、翼の付け根部分へとインパクトを射ち込み、近距離から放たれたインパクトの威力に黄竜も跳ね上がるほどの衝撃を受け、口から流れ出る血の量がさらに増す。


 黄竜ももう限界が近いのだろう、全員でトドメとばかりに次々に攻撃を浴びせていき、最後にアリスの炎槍が胸を貫いて黄竜討伐を終えた。

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