第88話 ルビーグラス
その日の夕方にはジャダルラックギルドからアークトゥルスが帰って来たとの連絡があり、ギルド近くの酒場にて竜種戦について話し合う事になった。
もう一つのSS級パーティーはここ数日仕留め損ねたモンスターを追って駆け回っているらしく、連絡が取れない為竜種戦に呼ぶ事ができない。
諦めてこの三組のSS級パーティーで臨む事とする。
「まずは顔合わせって事で俺達から紹介させてもらうぜ。こいつらが俺達が話してた新生パーティーの黒夜叉だ。若えが実力は俺が知る中でもダントツのパーティーだ」
カルロがそう説明してディーノ達は個々に挨拶をする。
「そんでこっちはマーカーズ領で評判のSS級パーティー【ルビーグラス】のメンバーだ。挨拶してやってくれ」
ルビーグラスは三十歳前後の二人とそれよりも少し若い二十四、五と思われる二人の、男だけのパーティーだ。
年長と思われる順にリーダーでファイターをジョブとする【マンフレード】、ランサーナイトの【ジョルジョ】、クレリックセイバーの【ドナート】にウィザードの【ウベルト】。
元は別々のパーティーだった彼らだが、以前の仲間が家庭を持ち冒険者を引退した事からまた新たにパーティーを再結成したとの事。
歳の差もあり最初のうちこそトラブルはあったものの、互いを知るうちに安定した戦いができるようになり、パーティーがうまく機能し始めてからは諍いも無くなったという。
マーカーズ領では指名依頼や緊急クエストも依頼される凄腕の冒険者パーティーのようだ。
しかしここしばらくは回避能力の高いモンスターに苦戦しており、アークトゥルスとの合同パーティーではネストレが活躍した事により回避動作を妨害、動きを限定されたモンスターを討伐する事に成功したとの事。
やはりシーフの存在は大きいと語るルビーグラスのメンバーは、アークトゥルスからディーノのイスレロ戦やティアマト戦の話を聞いており、竜種討伐の際にはその勇姿を見せてもらいたいと身を乗り出してディーノに迫る。
「素早さに特化してるだけだから」と苦笑いしながら謙遜するも、人間を超越したような戦いをするディーノは誰の目から見てもそれだけの男ではない。
ルビーグラスが期待の目を向けるのも当然と言える。
「まあ竜種戦はディーノがいるから負けはねぇと見ていい。しかし相手は黄竜だからな、ディーノといえどそう簡単にやれるとは思えねぇからよ。俺達がどう戦うかが重要になってくるだろうな」
「そうね。私とフィオレはアークトゥルスとは連携が取れるけどルビーグラスとは初めてだしある程度話を詰めたいところね」
「うん、あまり期待しすぎんなよ?オレも竜種戦は初めてだからな?」
「黄竜相手に勝利を前提に臨めるのは大きいな。それで俺達の戦いは攻撃に特化したものなんだがアークトゥルスよりも動きは限定したものになる。簡単に言えば……」
誰もが勝利を前提に話をすすめ、ディーノが期待しすぎるなという言葉を聞いてはもらえないようだ。
自分が何ができてどのような立ち回りをするのかと話を出していき、竜種を想定した陣形や状況に応じた対応を考え話し合う。
盾職が二人に回復職が二人、遠近で魔法職が一人ずつに遊撃が二人。
まずは正面からの攻撃には盾職が受け止め、ルビーグラスでは通常通りの一斉攻撃で少しずつダメージを蓄積させていくのが無難だろう。
前足による直接攻撃系は全て受け流す事とし、ファイター二人はその隙を突いて左右から、アリスは盾職の間から攻撃を加える事とする。
竜種のブレスには盾職でも耐えられるものではない為、遊撃のネストレとインパクト持ちのフィオレが放出前に抑え込む必要がある。
もし空へと飛び立とうとした場合には遊撃とウベルトの魔法攻撃で撃ち落とす事とし、その全てのバックアップをディーノが受け持つ事にすれば負ける事はないだろうと勝手に決められた。
しかしディーノの戦いを直接その目で見ておきたいマンフレード他ルビーグラスのメンバー。
「ディーノ。イスレロを相手にした際にソロで挑んだと聞いているんだが、最初は黄竜の動きを確認する為にもソロで挑んでもらってもいいか?」
「オレとしては是非とも挑んでみたいとこだけど」
どうやら強者に挑みたいディーノとしては望むところらしい。
アリスやフィオレ、アークトゥルスからすればそのまま一人で倒すのではないかとさえ思えるが、ルビーグラスにもディーノの戦いを見せてやりたい気持ちが強い。
イスレロ戦の時のようにある程度ダメージを与えれば交代してくれるだろうと、ディーノ一人と合同パーティーという括りで別々の戦闘を考えているようだ。
作戦会議もそこそこに、ここ数日のアークトゥルスとルビーグラスの戦いを聞きながら酒の席を楽しんだ。
◇◇◇
竜種討伐の為伯爵邸前に集まった黒夜叉とアークトゥルス、ルビーグラスは伯爵からこれまでの戦いに労いの言葉を掛けられつつ、今日この日の竜種戦への激励の言葉を受け取った。
「しかしヴィタ。なんでこんなにギャラリーが多いんだ?」
「皆さん初めて見る竜種ですよ!?確実に勝てる竜種戦なら誰もが観戦したいと思うじゃないですか〜!私もお休み頂いて見に来ちゃいました!」
他の者達を危険に晒さない為にもSS級パーティーのみで討伐戦に臨む予定だったのにもかかわらず、観戦する為だけに同行するつもりの十を超えるパーティーが馬車に乗って待機している。
アークトゥルスは笑いながら「こりゃ頑張んねぇとな」と楽しそうではあるが、ディーノとしては観戦してる暇があるならクエストに行ってほしいと思うところ。
しかし竜種戦ともなれば他の冒険者達の知識という経験と、今後の励みにもなるだろうと特に何も言う事はない。
「と、いう事はあの馬車……伯爵様も観戦しに来るつもりですか?」
「うむ。未来の息子の戦いをこの目で見ておきたいと思ってな。年甲斐もなく昨夜は興奮してなかなか眠りにつけなかったよ」
「まだ何も成し遂げてないし返事もしてませんけど……」
すでにセヴェリンとソフィアはディーノを息子として迎える容易はあり、他の者に隠すつもりもないようだ。
アークトゥルスやルビーグラス、ヴィタもその言葉に驚きの表情を浮かべ、フィオレの性別発覚事件の後に話を聞いていたアリスはコクコクと頷きながら、伯爵夫人であるソフィアとアイコンタクトをとっている。
いつの頃からかアリスとディーノの関係はバレており、元々ソフィアに可愛がられていたアリスはすでにお母様と呼び始めている程だ。
ディーノの意思は関係なく外堀が埋められて、いつの間にか伯爵家の養子が確定してしまうのではないかとさえ思えてくる。
そうでなければ今この場で言う必要はないのだから。
竜種戦前の緊張から一変、脱力したディーノは馬車に乗って出発した。
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