第9話 育成パーティー

 料理を堪能する事で緊張も解け、自然と会話が進むとソーニャは自分の気持ちを打ち明ける。


「ねぇレナ。私、AA級のクエストなんて初めてだったからわからないんだけど、オリオンはいつもあんな命がけの戦いをしてたの?もしそうなら私……ブレイブ続ける自信ない」


 初の高ランククエストで命の危機に晒され、パーティー内でもどう動いてもいいかわからず、結果としてクエスト失敗したとなれば自信をなくすのは当然だ。

 ソーニャだけに問題があったわけではないのだが、元のパーティーメンバーであるディーノの代わりに自分が入っただけで、SS級パーティーがAA級クエストで失敗したのだ。

 自分のせいかもしれないと思うと胸も痛む。


「この際だから正直に言うよ?オリオンの時はねぇ、リザード相手でも無理なく勝てたんだ。それどころかもっと危険なモンスター相手にもジェラルドとマリオが怪我を負う事もなく勝ててたの」


 本当の事を話すレナータにソーニャは顔を歪めて泣きそうになる。


「でもね、それはオリオンで一番強かったディーノがいたから勝ててただけ。ディーノは前衛としてずっと一人で戦うの。傷付いて動けなくなるまで、ずっとずっと、モンスターの体力が無くなるまで戦い続けて。弱りきったモンスターを倒すだけならジェラルドやマリオでも倒せるでしょ?だから私達はSS級まで上り詰められたし、高ランククエストでも簡単に達成できると思ってた。本当は、ディーノ一人で戦ってただけなのに……ジェラルドも、マリオも、勘違いしちゃってたんだ。自分達は実力のあるSS級パーティーだって……なんて、私も人の事言えないんだけど」


「そんな……じゃあ私にディーノと同じように戦えって言ってるの?リザードよりももっとずっと弱いモンスターでも私は倒せる自信なんてないんだよ?ブレイブはシーフをなんだと思ってるの!?」


 感情的になるソーニャの言い分は最もだ。

 しかしレナータはディーノがいたからこそオリオンがSS級になれたのだと知っていた。

 そして自分がマリオの誘いに乗ってパーティーに入る際にはレナータが涙を堪えているのを見ている。

 レナータの気持ちも知らず、いや、考えずにパーティー加入を決めてしまった自分にも非はある。

 ディーノを追放したのはジェラルドとマリオであり、きっとレナータの意見に耳を貸す事はなかっただろう。


「ごめんなさい。言い過ぎた……」


 言葉を返せずにいるレナータにソーニャは謝罪する。

 しかしここでザックは二人の会話をぶち壊すような発言をした。


「いや、オリオンで一番悪いのはディーノだろ。パーティーってのは全員で強くなっていくもんだろ?それを一人だけ強くなって追放されてよぉ。マリオとジェラルドが弱えのはディーノのせいだ。お前らの誰も悪くなんかねぇよ。ま、気付かずに追放したあいつらは相当なバカだとは思うけどな」


 そう言い放って酒をグイッと煽る。

 呆気にとられる二人は何故ディーノが悪いのかわからない。


「強くなる為に必要な事ってのが何かわかるか?」


「え、多くのモンスターを倒す事、ですか?」


 レナータが答えるがザックは笑顔で否定する。


「違うな。倒すってのもまぁ間違いじゃねぇんだけどな。けど重要なのはそこじゃねぇ。経験だ。経験がオレ達のステータスを底上げする。どれだけ敵と戦うか、どれだけ敵を殺せるか、どれだけ自分を追い込むか、どれだけ死線くぐり抜けれるか。それが全てだ。オレ達は経験を積む程に強くなる。マリオみてぇに死にかけの獲物を殺すのに何の経験があるんだ?調理前の肉を切るのと変わんねぇだろ」


「え……じゃあ……」


 レナータは気付いたようだが、ソーニャはまだ理解できていなさそうな表情だ。


「ディーノが前衛ってのは誰が決めたか知らねぇが、あいつは本能で強くなる方法を知ってんだろ。自分で望んで命かけて戦ってたんだ。獲物を前にすりゃパーティーでも早い者勝ちってのがわかってたんだろな。だが結果としてそれが仲間を弱くした。だから全部ディーノが悪いだろ?」


 それは極端な考え方では?とも思うが、ディーノはモンスターを前に躊躇う事なく前に出る事をレナータはよく知っている。

 だからこそディーノと対峙するモンスターにレナータは矢を射る事で注意を引き付けた。

 これは自身を危険に晒す行為であり、次にどう動くか、立ち位置をどうするかをその場で考えて行動していた。

 ギルドでブレイブとしてステータス測定をした際に、最も評価値が高かったレナータは多くの経験を積んでいたという事だろう。


「ソーニャ。お前はブレイブの結成メンバーだ。結成メンバーってのはすぐにはパーティーを抜けらんねぇ事は知ってるな?自信が無くてもパーティーの為に働く必要がある。でも考えてみろ。ディーノはレナータ達を引き連れてSS級まで上り詰めたんだぞ?お前だって命かけて戦い続けりゃS級冒険者になれるかもしれねぇ。ブレイブをSS級まで導く事だってできるかもしれねぇ。なんたってブレイブはシーフ育成パーティーだ。こんな美味しいパーティーは他にねぇだろ」


「命がけ……」


「あの、ザックさん。言い方気を付けて下さいね。シーフ育成パーティーって……」


 命をかける恐怖を思い返すソーニャをよそに、レナータは自分達がまるで道具扱いな言い方をされた事に少し怒ってみせる。


「レナータもソーニャのサポートしてれば強くなるだろ。クレリックアーチャー育成パーティーとでも思っとけ」


 カラカラと笑うザックを呆れ顔で見るレナータだが。


「レナは私を助けてくれる?いっぱい迷惑かけると思うけど、レナが助けてくれるなら頑張れるから」


 レナータがサポートをすればと聞いて少し前向きな気持ちになったソーニャ。


「……うん。そうね。あの二人は私の言う事聞かないんだし、よし、利用してやろっ!」


 やや黒い発言は気になるが、二人共前向きな気持ちになったのはいい事だ。

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