「全てのカムイを」part.6
カムイ研究の権威であり《カミイケの父》として知られるイカワ・ヨシキ博士の孫娘、イカワ・リョウビ。
タケキが初めて見た彼女はモウヤの技術者だった。そのリョウビが、今は王の傍らに立っている。
「あんたが何者かは気になる。だが、今話すべき人間は違う」
タケキは後方に控えるレイジへと振り向いた。
「わかっているよ。全部話す。技術的な面については、彼女に代わってもらうけどな」
そう言いながら、レイジはタケキ達の正面に回る。その目には未だ曇りを感じなかった。
「王都への攻撃は、王の奪還を目的として俺が計画したものだ」
「スピリッツか」
「その通りだ」
ハクジはタケキの視線に目を伏せた。
王の力はカミイケを作る。モウヤで言うところのスピリッツだ。
敗戦の際、王制が廃止されることはなかった。王を敬うクレイ国民からの反感を減らすため、形だけの王制を残したというのが定説であった。
だが、その本質は別のところにあったということだ。
国民を人質にとられては、ヤクバル中佐の要求には逆らえなかった。カムイによる戦争を終結させたはずが、再び争いの火種になる手伝いをしている。ハクジは再び矛盾に放り込まれてしまっていた。
そんな中、クレイ軍から登用した諜報員の謁見という形でレイジと出会う。少年の面影が残る眼鏡の男を見て、カムイを使う者だと直感した。
そこでハクジは一計を案じる。探知器に捉えられない程度に薄くカムイを広げ、その意思を伝えたのだ。意思の受信を特性としていたレイジはすぐに理解し行動に移すことになる。
以降、二人は結託し、カムイの軍事利用を妨害していった。
「それが《仕事》と?」
「ああ、正確にはその一部だがな」
「囮だな?」
レイジは頷く。ホトミが息を飲んだのがわかった。
王の名は影響強く、旧クレイ軍人を中心に計画への参加者は増えていった。秘密裏に行動できたのは、王に対する信仰に近い国民性と、レイジの読心があってのことだ。
タケキ達に渡されたカムイの筒は、ハクジから提供されていた。
「当初はお前たちに注意を向けた上で王都を攻撃し、王をここにお連れする予定だった。ただ、途中で王へのカムイ供給指示がなくなった」
「あの設備の稼働か?」
「その通りだ」
リザの体を使った設備の稼働が始まったことにより、ハクジの存在は不要になる。ただモウヤとしては統治の都合上、王は王であらねばならなかった。
そのため、王は単純に幽閉されることになり身動きがとれなくなる。
「俺たちは手詰まりに近かったが、協力者が現れた」
レイジはちらりと、隣に立つリョウビを見た。
「それが私です。モウヤでカムイの研究をしてたんですけどね、軍事ばかりで嫌気がさしてしまいまして。それに、彼女の姿は見ていられませんでした」
リョウビは意図的に設備の稼働効率を落とし、スピリッツ製造を再びクレイに移行させることを画策する。そして、技術交流と称して王と謁見し、カムイを通して計画を共有した。
「実は私もカムイが使えるんです。あなた達程ではないですけどね」
設備の輸送計画もリョウビの提案によるものだった。王とリザの体を会わせ、機能を停止させる予定だったらしい。ヤクバル中佐は、その掌で踊っていたようなものだ。
「その混乱に合わせて治安維持局を攻撃し、陛下を奪還する予定だった。だが、タケキが想定外の存在になった」
『私のことだね』
カミガカリに執心していた中佐は、ハクジでなくタケキを使うことを決める。そこで、計画の一部を急遽変更することになった。
あとは知っての通りとのことだ。
「経緯はわかった。一番重要なことを話せ」
タケキ眼前の三人を順に見つめる。目を逸らさなかったのは、かつて友と呼んだ男だけだった。
「無関係の人を殺してまで、この人をここに連れてきた理由だ。お前達は、何をしようとしてる?」
タケキにとって、それが最も知りたいことだった。ここまでの情報も重要ではあるが、比較するならば些事ともいえる。
「私から話すよ。全ての責は私にある」
覚悟を決めたように、ハクジがゆっくりと口を開いた。
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