「共に来い」part.13

 オーヴァーを使った探知ができるのであれば、それを妨害する装備があっても不思議ではない。タケキがカムイに頼りきりにならず、肉眼にこだわったのはそれを予期していたからだ。

 中佐がタケキを見つめた。片目に単眼鏡のようなものを固定している。カムイを可視化する装置だと思われる。


「また会ったな、サガミ君」


 タケキは会話をする気などなかった。手早く障害を排除し、目的を遂げ、ホトミの元へ帰還するだけだ。その後、レイジを問い詰める。今はそれだけを考えていた。


 中佐の言葉を遮るように銃弾の雨が降り注いだ。カムイで加速したタケキは宙を跳ねる。立体的な動きで攻撃を回避しつつ、壁を蹴って敵へ迫った。速度は落とさず斜めに配置した盾で銃弾を弾き、圧縮した刃で敵を切り裂く。

 敵の意表さえ突ければあとは単純作業だ。ただし、それは長くは続かない。半分でも戦力が削げられたら、奇襲は成功といったところだ。

 

 十二人目の敵を殺した頃、敵の動きが変わってきた。ただタケキを狙うのでなく、意図的に追い込むような射撃だ。それに乗ってやる義理はない。斜めの盾を増やし、銃撃の中に飛び込んだ。


『危ない!』


 リザの叫びに反応し、その場から飛び退いた。瞬間、タケキがいた場所の空気が爆ぜた。カムイで空気を圧縮し解放した際の衝撃だ。タケキがそれに気づいたのは、カミガカリに空気の圧縮解放を特性とする者がいたからだ。そうでなければ、今頃は骨が何本か折れていただろう。

 姿勢を崩したところに銃弾が殺到する。弾道を予想している余裕はなく、厚い盾を展開し体勢を整える。


『あいつだな?』

『うん、筋肉ハゲ』


 中佐は左腕を突き出し、不敵な笑みを浮かべていた。その横には、リザの肉体が収まった銅色の円柱が見える。


「私を無視するからだよ」


 はち切れそうな上着を脱ぎ捨てると、鉛色の左腕がむき出しになる。リザが言っていたように、中佐の左腕は肩口から機械になっていた。二の腕に相当する部分には、彼がスピリッツと呼んだモウヤ製のカミイケが三本取り付けられている。

 どうやら、左腕そのものがオーヴァーのようだ。小銃や狙撃銃のように、機能が予想できない。あの自信に満ちた顔を見ると、空気を圧縮するだけではない事は確かだ。


 敵は三人一組を崩し、総出で包囲し始めた。タケキを中心に扇状に展開し、射撃で牽制しつつ距離を詰めてくる。既に刃の届く距離を見定めているようで、必要以上には近づかない。盾は限界に近い。

 眼前でカムイの気配がする。タケキは飛び退き、空気の破裂を回避した。


 着地に合わせて銃撃がくる。再び盾を展開し防ぐが背中には壁だ。次に破裂がきたら逃げ道がなく、盾の崩壊も時間の問題だ。もう後がない。


『試してみるぞ』

『まぁ、それしかないよね』


 タケキとリザは言葉にせず、意思を共有した。複雑にカムイを行使する場合は認識合わせが重要になる。


 盾の解除と同時に、カムイの刃を構想する。目の細かい格子状の刃だ。それを扇状に展開し、包囲する敵に向けて放った。

 密度の薄い刃は、銃弾を切り裂くと部分的に崩壊する。ただし、それはほんの一部だ。

 一秒にも満たない間に、刃は敵へ到着する。十二人の兵士は、オーヴァーの盾で守られた部分を除き格子状の刃傷を負った。急所は守られている上、絶命するほど深くはない傷だ。痛みに苦しんだまま、徐々に命を失っていくことになる。


 倒れる敵を一瞥する間もなく、タケキは加速をかけて移動する。後方で空気の弾ける音がした。


「さすがカミガカリだなぁ! 左腕も喜んでいるよ!」


 中佐の叫び声が聞こえる。それは、どこか楽し気な調子も含んでいた。

 残り一人であれば、作戦も技術も不要だ。圧縮と破裂は効果を発揮するまで多少の時間がかかる。一直線に近づけば、恐れるものではない。

 念のため厚く盾を展開しつつ、接近する。

 中佐は他の兵と違い、全身に盾を纏っている。盾というよりは、鎧だった。


 盾だろうが鎧だろうが関係ない。切り裂くだけだ。

 タケキは圧縮した刃を中佐に向けて振りかぶった。

 カムイの刃とスピリットの鎧が激突する。

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