「私だって」part.4

「仲良くなる?」

『もう仲良いよ?』


 面食らうタケキとリザに向けて、ホトミは説明を続けた。リザのことは見えていないため、カムイを感じる方に向けて。


「従うにしても逆らうにしても、十日後に何があるかわからないと始まらないでしょ?」

「だからリザか」


 ホトミは大きく頷いた。リザ程ではないが、よく表情が変わる。それだけでタケキは少し幸せな気分になった。


『え?なんで私?』

「また力を借りたい」

『いいよ』


 リザは迷いなく即答する。頭上を見上げたタケキの目に魅惑的な腰の曲線が入り込み、慌てて目を背けた。ぼやけてはいるものの、どうにも目のやり場に困ってしまう。ホトミの視線が痛い。


「探知の範囲はわかる?」


 ホトミが皿を片付けつつ問いかける。タケキの頭上をちらちらと見ていることに触れてはいけない。


「今のところ、あの地下でやったのが最大かな。地下一階は全部把握できた。範囲自体は俺単独と変わらなかったよ。精度が段違いだったけど」

「そっか、じゃあその確認からだねー」


 ホトミはそう言って事務所と繋がった台所へ向かった。


「いつもありがとうな」

「いえいえ」


 洗い物をするホトミに礼を言う。家事をやる気がないタケキにとっては非常に助かる存在なのだが、申し訳なくも思っていた。


「リザ、確認なんだが」

『なぁに?』


 食卓を離れソファーに向かうタケキにリザも追従し、頭上から回転するように下りてきて首をかしげた。リザの力を借りる上でこれだけは知っておかなければならない。


「力を借りたとして、リザを構成するカムイは散らないのか?」


 カムイは通常、大気中に拡散する性質がある。そして、行使すればする程拡散の速度が早まっていく。戦時中にカミガカリの支援用に使われた高濃度カムイでも、使う度に拡散していったことを覚えている。その製法はタケキ達にも知らされていなかった。


 だからこそ、その場に空気が歪む程のカムイを留まらせているリザが目立つ。彼女の朗らかさで誤魔化されているが、これは異常なのだ。治安維持局では単にタケキの特性として扱われたが、それは彼らにカムイの知識が薄かったからだと想定している。もしくは、異常さを理解した上で利用しようとしているのかもしれない。


『んーたぶん大丈夫だよ。生きてた時は自分で集められたし、今も何となく集めてるっぽいから』


 リザは顎に指を当て思案するが、曖昧な回答しか得られなかった。


「カムイを集める、か」


 もしかしたら、高濃度カムイもリザのような力を持った者が作っていたのかもしれない。その結果、カミガカリのような兵士が生まれたとしたらお互いに不幸と言うしかないと思う。


「一旦信じるが、それで消えてしまっても文句は言うなよ?」

『あー、いいよいいよ。その時はその時だし、体残ってたらきっと消えないから。あと、タケキ達の協力はするからその後はお願いね?』


 約束通り、リザの願いも叶えなければならない。これは中佐と交わしたものとは違い、反故にしてはならない約束だ。どちらにせよ、今の事態を切り抜けなければリザの体を探すのもままならない。


「リザちゃんは大丈夫そう?」


 洗い物を終えたホトミがソファーに座る。三人がけの右端がタケキ、左端がホトミの定位置だ。


「本人が言うには、カムイは散らずに使えるらしい」

「そっか、じゃあとりあえずはいいね」

『いいんだよー』


 リザはふと思い付いたように、ホトミとタケキの間に座った。正確にはソファーの上に浮いた。


『ふふーん、ここ私ね』


 自慢げな笑顔を浮かべてリザは宣言する。タケキもそれに釣られるように苦笑を浮かべた。


「そうそう」


 ホトミが手を合わせ、少し大きめの声を出す。


「私とリザちゃんも対話できるようになりたいな」

「確かに不便だよな」


 タケキもそれには賛成だ。ホトミの方を見たが、満面の笑みを浮かべるリザと目が合った。


『私もホトミさんとお話ししたい! ホトミさん可愛いし綺麗だし、なにより乙女! タケキのアホ!』


 リザも両手を振り回し同意した。タケキには後半の意味がわからなかった。


「でもどうやるんだろうな?」

「私の声は聞こえているみたいだし、リザちゃんの意思が私に伝わればいいんだよね。ちょっと考えておくね」


 そう言ってホトミは膝を軽く叩き、ソファーから立ち上がった。


「とりあえず今日は休みましょ。たまにはお風呂にお湯を入れてゆっくりしましょ。掃除してくるね」


 浴室に向けて消えていくホトミを見送った。タケキの顔のすぐ横で、リザが不敵に笑う。


『お風呂ですってよタケキさん』


 一日目の夜はまだ終わらない。

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