第2話 怠惰で何が悪い


「それじゃ、行ってくるね。」

「は~い。行ってらっしゃい。頑張ってね!」

「行ってらったい!」



幸せな生活と怠惰な生活は、どうやら隣り合わせのところにあるみたいだ。

今日も元気に出かけていくエバンさんやカイ、ケンの背中を見送ってすぐ、"今日も何もすることがない、怠惰だ"と考えている自分がいることに気が付いた。


平和で代り映えのない日々を、私は"怠惰"だと考えてしまうようだ。




「ママ。ルナ今日、お散歩行きたい!」

「ん~そうね。それじゃティーナについてお買い物に行こうか。」

「うんっ!」



でも怠惰で何が悪い。代り映えのない毎日こそ幸せだって、今まで経験を経て分かったじゃないか。



「ルナね~。美味しいトマトがどれか分かるんだよ!赤くて大きいの!」

「そうなの?じゃあ今日はルナがトマトを選んでみる?」

「うんっ!やるっ!」



それに代わり映えがない、なんてことはない。子どもたちは小さな体で、毎日信じられないほどのペースで大きく成長している。それを一瞬でも見逃さないように見守る毎日だって、充分"代り映え"のある日々ではないか。



「それじゃ少しお支度しますから、一旦お部屋に。」

「はぁい!」

「なんか哲学者みたいなこと言ってんな。」

「リア様?」



さあ今日も怠惰で幸せな生活を噛み締めよう。

不審な顔で私を見るティーナを置き去りにして、私はルナと手をつないで部屋へと向かった。





「リア、いいかしら。」



街に行くための準備を整えている最中、ドアの向こう側からレイラさんの声が聞こえた。私が返事をする前に、大好きなばぁばの声に反応してルナが扉を開けてくれた。



「お手紙が来てるわよ。」

「手紙?」



レイラさんはルナの手を取りながらそう言って、一通の手紙を私に手渡した。封筒の裏側を見て見ると、そこには"ジル・カルカロフ"という名前が書かれていた。



「ジルにぃからだわっ。ありがとうございます!」



ジルにぃはたまに、こうやって私に手紙を出してくれる。

ジルにぃの手紙には最近のアルやウィルさんの様子、そしておじさまの様子。あとパパやママの様子なんかも書かれている。パパやママからも手紙をもらうけど、客観的に見た二人の様子を知れるのが楽しくて、私はいつも彼からの手紙を楽しみにしている。



「ねぇ、ママ。まだ?」



早く読みたかったんだけど、しびれを切らしたルナが今にも外に飛び出していきそうな様子で私の手を引いた。



「ごめんごめん。いこっか。」

「どこかにいくの?」

「今日はお天気もいいので、お買い物について行こうかと思いまして。」



楽しみにしている手紙だから、子どもたちが寝てからじっくり読もうと決めて、手紙を机の上に置いた。レイラさんはにっこり笑って「行ってらっしゃい」と言って、ルナの頭を撫でた。




「ばぁばも一緒に行く?」

「ううん。ばぁばは家でお留守番してるわね。」

「寂しくない?」



悲しそうな顔をして聞くルナに対して、レイラさんはゆっくり首を横に振って「ううん」と言った。

最近ラルフさんとレイラさんは第二の人生を楽しんでいるようで、ゾルドおじ様のように二人で庭のお花を育てたり二人でゆっくり散歩をしたりして、穏やかな毎日を過ごしている。



「じぃじと待ってるから、寂しくないよ。」

「そっか!」



私も数十年後はこの二人みたいにゆっくりとした生活を過ごせているのだろうか。たまに仕事をしている今でも生活が怠惰だつまらない、なんて言っている私がスローライフを楽しめるようになるのかと自分で疑問に思ったけど、考えたところで今答えが出る話ではない。



「それじゃ、行って参ります。」

「はい、お願いします。」

「ばぁば~!アイスカレー買ってくるね~!」




そうだ、ルナの言う通り今日はアイスでも食べて帰ってこよう。

途中でイリスやエリスのお家に顔を出すのもいいかも。


頭の中でこれから計画を立てていると、さっきまで怠惰だなんて考えていたのが嘘みたいに楽しみになり始めた。馬車に座って楽しそうに歌を歌い始めたルナの顔を見て、今日も幸せだってもう一回心の中で呟いておいた。

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