第84話 いよいよ到着!
「よし、行こうか。」
そうこうしているうちに、船はリオレッドへと到着した。
確かにずっと緊張している必要はないけど、でも今からはちゃんと気持ちを引き締めるシーンだ。私は一番気を引き締められなさそうなカイとケンを呼び出して、二人の前にしゃがんだ。
「ねぇ。カイ、ケン。」
「なぁに?」
「どしたの?ママ。」
少し真剣な私の顔に驚いたのか、二人も緊張した様子で返事をした。二人を怖がらせようとなんて思っていなかった私は、今度は穏やかに笑ってみせた。
「今日はね、王様じぃじもパパもママも、お仕事しに来たって知ってるでしょ?」
「うん!」
「パパに聞いた!」
二人は元気に返事をしてくれた。
無邪気な様子を見ていたら微笑ましい気持ちになって、二人を抱きしめたい衝動にかられた。
「だからね、二人にもお仕事を手伝ってほしいの。」
でも今は二人が暴走しないように、しっかりと言い聞かせなくちゃ。
いう事をちゃんと聞いてくれるようにそう言うと、カイもケンもポカンとした顔で私を見ていた。
「船を降りたら、じぃじだけじゃなくて、たくさんの人がカイとケンを待っていてくれると思う。だからね、二人にはその人たちにしっかりと、ご挨拶をしてほしいの。」
「それが、お手伝い?」
「そうよ。」
きっと今日は、あのクソ王が出迎えてくれるんだと思う。
いつもの調子で二人が船を飛び出してパパに抱きつきになんかいってしまったら、アイツがどんなことをしでかすか分からない。
そこで何か危害を加えるとは思えないけど、交渉に少しでも不利になる余計な要素を出来るだけ排除するためにも、今回ばかりは自由にさせられない。
「二人がしっかりご挨拶出来ると、ママやパパは褒めてもらえるの。だからね、ご挨拶も立派なお仕事なんだよ。難しいかな?」
5歳になった二人は、やたら"お兄さん"なんだってことを主張したがる。
大人から見ればまだ小さくて可愛い存在なのに、少し背伸びをして何かをやろうとしているのを見るのは、とてもかわいくて応援したくなる。
芽生え始めた"お兄さん心"をくすぐれば、きっという事を聞いてくれる。そう思って言うと、案の定二人は私の言葉に大きく首を振った。
「ううん!出来るよ!」
「僕お兄さんだもん!」
「ルナもお姉さん~!」
お兄ちゃんの真似をして自分が"お姉さん"だと主張するルナも、続けて返事をしてくれた。ルナに関しては大人しいからあまり心配していないんだけど、そんな風に言ってくれるとより安心できる感じがした。
「ありがとう。さすがお兄さんね!」
頭を撫でながら言うと、二人は得意げな顔をした。満足した私が立ち上がったのを見て、王様が大きくうなずいた。
「行こうか。」
「はい。」
それを合図に、王様が先頭を歩きはじめた。
私はそれに続いて歩くエバンさんとロッタさんの後ろについて、出来るだけ背筋を伸ばして歩いた。
さっきした約束通り、カイとケンも大人しく私についてきてくれていた。ルナも私に手を引かれて小さい足で一生懸命歩いてくれていた。
――――ありがとね。
大人の都合で振り回しているのに、こんな風にいい子でいてくれてありがとう。そう思ってルナを見つめると、ルナは私の方を見て無邪気な笑顔を見せてくれた。
そうだ、私はこの笑顔を守るために頑張るんだ。
もう一度胸の中でそう誓って、今度はまっすぐ前を見据えて王の背中を追った。
「ようこそ、お越しくださいました。」
船から降りると、案の定そこにはあのクソ王となよなよ弟が立っていた。
クソはクソでも挨拶くらいはちゃんと出来るらしく、こちらに向けてとても丁寧に頭を下げた。そしてそれにつられるみたいにして、マージニア様も頭を下げた。でも彼は立場が変わっても、オロオロした様子は変わらなかった。
「ああ。今回はお招きいただき、感謝する。」
それに対して私たちの素晴らしい王様は、とても勇ましく堂々とした姿勢でテムライム式の挨拶をした。そう言えば彼を始めてみた時、軍人かなにかではないかと勘違いしたことをぼんやりと思い出した。
「ゴードンも久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
王様とパパの挨拶は、やっぱり軍人同士の挨拶みたいに見えた。
そんなことを考えていたら面白くて笑ってしまいそうになったけど、今はそういう時間ではない。私はなんとか凛とした表情を作って、挨拶が私の番が回って来る時を大人しく待ち続けた。
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