第47話 前途多難な旅の始まり


そして出発の日。

今回はレルディアの街からとりあえずノールに向かって、ノールから小さな船でルミエラスに向かうらしい。



「それじゃパパ、ママ。行ってくるね。」

「ごめんな、リア。よろしく頼む。」

「気を付けてね。ケガのないように。」



パパとママはすごく心配そうな顔をして私を抱きしめた。そのくらいなら私にも行かせるって言わないでよと、パパをすこし恨んだ。



「じぃじは、来られないって?」



テムライムに行くときはじぃじが見送ってくれたけど、今回は長期滞在の予定じゃないからか姿が見えなかった。するとパパは少し困った顔をした後、「王様はね」と言った。


「少し体調を崩されてるんだ。」

「え…?」



そんな話、一切聞いてなかった。大丈夫かなと心配になって後ろ髪を引かれていると、パパは私の肩にポンと手を置いた。



「大丈夫、軽い風邪をひかれただけだから。リアによろしくと、伝言を預かった。」

「そっか…。」


ならいいけど…。

じぃじだってもういいお年だ。この国の平均寿命がいくつなんて統計をとってないから分からないだろうけど、少なくとも私の住んでいた日本よりも低いことは確かだと思う。



「仕事のことは私に任せて、ゆっくり休んでねって伝えておいて。」

「わかったよ。」



パパはにっこり笑って、私の頭に手を置いてくれた。いつもパパがいてくれたから、心細さだって少しは軽くなっていたのにと思うと、なんだか急に寂しくなり始めた。



「お待たせ致しました!」



私たちが別れを惜しんでいたその頃、人ごみの向こう側から声が聞こえた。誰だろうと思って目を凝らしていると、人ごみの間から現れたのは、まさかの人たちだった。



「…エバン、さん?」



そこに立っていたのは紛れもなくエバンさんとロッタさん、そして数名の部下の人たちと護衛の人たちだった。てっきりノールで合流すると思っていた私が思わず言葉を失っていると、エバンさんはこちらを見てにっこりと笑った。



「リア。久しぶり。」

「お、お、お久、ぶりです…。」



久しぶりに見たら前より体が一回り大きくなっている感じがして、イケメン度の増し方に目が合わせられなくなった。集まっていたアルの見送りの女の子たちも、エバンさんを見てキャーキャーと騒いでいた。



「ウィリアムさん。お久しぶりです。」

「ああ。子供の時以来だね。すっかり僕より大きくなって。」



ロッタさんやそのほかの人とあいさつをしている間も、私は自分の心臓がおさえきれなくて、どこかふわふわとした気持ちでそこに立っていた。しばらく心臓の音が収まりそうになくて、私は思わず胸にぶら下がっているエバンさんにもらったネックレスをギュっと握った。



「それじゃ、行こうか。リア。」



一通り挨拶を終えたエバンさんは、パパから受け取ったウマを手に、私のところにやってきた。


私たちの荷物は馬車で運ぶことになっている。あまりたくさんの馬車で行くと大変だから人はウマに直接乗っていくってことになってるんだけど、数日間もあんな風に密着していたら耐えられるかなって心配になりはじめた。



「いや、リアはこっちだ。」



するとその時、後ろから来たアルが言った。あまりにも怖い声をしているもんだからゆっくりと振り返ると、アルはエバンさんをにらみつけていた。



「久しぶりに会ったんだ。話をするくらいいだろう。」

「いや、リアの警護は俺の担当だ。お前は自分の仕事を果たせ。」



懐かしいな~なんか。

これ前もあったやつじゃん?

またおじさんが来たら怒られるよ?

っていうかアルって私のこと好きなの?

好きな子いじめたくなる、あれなの?



「リア、どっちにする。」



するとアルが、怖い顔をしたままこちらを見て言った。

本当はエバンさんを速攻で選びたいんだけど、リオレッドの人間として、アルを選ぶべきなのか…。



もうよく分からなくなってアタフタとしていると、後ろからポンと、肩に手を置かれた。



「リアは僕と乗るから。」



それは救世主・ウィルさんだった。

そのまま救世主は私の方を見て「ね?」と言って笑ってくれたから、私はそれに笑顔でうなずいて「はい」と返事をした。



この旅、色んな意味で前途多難だ。



幸先が不安過ぎてたけど、そんな不安をルミエラスに持ち込むわけにもいかない。レルディアにすべて置いていく意味でも私は深いため息をついて、手を差し伸べてくれるウィルさんのウマに乗った。

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