第18話 デートって…なんでしたっけ?
港に向かってみると、周りには見送りをするための国民たちがたくさん集まっていた。あまり見覚えのない船が止まっているから、あれがテムライムの船なんだろう。
まだ旅立つ前だったってことには安心したけど、それでも急いでパパと船の方へと向かった。
近づいてみるとちょうど王様が船に乗り込む前みたいで、じぃじと船の前で何やら話しているようだった。昨日まで緊張で何も考えられなくなっていたはずなのに、急いでいるせいか無駄なことをあれこれ考えることもなく、駆け寄るようにしてそちらに向かった。
「王様。」
出来るだけ息を整えて、私は挨拶をした。するとテムライム王はそんな私に「来てくれてありがとう」と言った。
「旅の無事を祈っております。」
さっき起きたっていうのを悟られないように、出来るだけ丁寧に言った。顔をあげるとテムライム王の後ろにはエバンさんが立っていて、目が合った瞬間小さくこちらを見て礼をした。
「帰ったら早速日程を調整させてもらうよ。今度はテムライムで会おう。」
「はい、楽しみにしております。」
行きたいか行きたくないかで言ったら、まあ行きたくはない。面倒くさい。家に居たい。ゴロゴロしてたい。
でも新しい場所で見る景色とか、新しい場所で食べるものには少し期待もある。もしかして新しい発見もあるかもしれないとどこか胸を躍らせて、にっこり笑ってお別れを告げた。
「カイゼル様、それではまた。」
「ああ。またいつでもおいで。」
二人はがっちりと握手をして、笑顔でお別れを言った。この人たちがいる限り、テムライムとリオレッドの未来は明るいなとその光景を眺めていた。すると握手の手を離したテムライム王にエバンさんが近づいて行って、何かを言った。
どうしたんだろうと思ってボーっと二人を見ていた。何かを言われた王は笑ってうなずいたと思ったら、エバンさんは体をこちらに向けて私の方に寄ってきた。
え、え、?!なになに?!きまずい!
急にこちらに来たエバンさんにみんなが注目していた。それは同時に私にも注目が集まるということで、私の心臓は昨日みたいにまた高鳴り始めた。
「アリア様。」
「は、はい…。」
エバンさんははっきりと私の名前を呼んだのに、私の返事はすごく弱々しかった。恥ずかしくて顔を見れずにいると、パパが「前を見ろよ」と言わんばかりに私の背中を押した。
「昨日は本当に申し訳ございませんでした。」
「い、いえ!そんな…っ!」
本当に謝られる事なんてないと思う。私だって楽しんでエバンさんと走ったんだし、ダンスをしたときだって、すごく幸せだった。
自分の体力の限界を自分でわからなかった方が絶対に悪いんだけど、エバンさんは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
「守ってくださって、ありがとうございます。」
ずっと申し訳なさそうな顔をしているエバンさんに、昨日一晩守ってくれたお礼を伝えた。するとエバンさんは顔を真っ赤に染めてはにかんだ。
「いえ、私がしたかったことですので。」
ドッキーーーーーーーンッ
なにその可愛い顔?!いますぐにでもチューしてやろうか?おお?!
なんてことを考えている下品な女だなんてエバンさんは知るはずもなく、「あの…っ!」と勢いよく言った。おばさんみたいなこと考えてると本当に精神年齢がどんどんおばさんになってしまうと思って思考回路を停止していると、エバンさんは燃える目で私をまっすぐに見た。
「テムライムに来た際には、ぜひ僕と、デート…してくださいっ!」
どこからか、女の人が叫ぶ声が聞こえた。私はそのセリフが自分に言われたセリフとは思えなくて、どこか他人事みたいにして聞いていた。
デート…それは惹かれている者同士がお出かけをする、あれ…?
いや、私とおじさんがしている…あれ?
デートって何?なんだっけ…
デート…
「すみません、迷惑ですよね!」
「い、いえ。ぜひ…、お願いします。」
そんなにストレートに好意を伝えられるなんて久しぶりすぎて、もう顔が見ていられなかった。その上周りにいたギャラリーたちはもっともっと大きな声で騒いでいて、昨日みたいに逃げてやろうかと思った。
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
私がうつむいている間に、エバンさんはひざまずいて私の右手をとった。そして真っ赤な瞳で真っ赤な顔をしたまま、私の手に触れるだけの優しいキスを落とした。
ああ、天使ちゃんよ。
あの時の天使ちゃんよ。
元気ですか?私はとても元気です。
その節はお選びいただきどうもありがとうございました。
私なんか、すごく、すごく青春をしています。
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