第16話 私が取り合われるって、そんなこと…
「エ、バンさん…っ。」
エバンさんはそのまま部屋を出て、お城の廊下を走った。だんだん息が切れてきた私がやっとの想いで声をだすと、エバンさんは足を止めて「すみません!」と言った。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ…。」
大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら、かなりしんどかった。でもなんだか気持ちはすごく弾んでいて、体力が続くのならどこまでも走りぬけたいとすら思う自分がいた。
「すみません。楽しくてつい…。」
するとエバンさんは、すごく申し訳なさそうな顔をして言った。同じことを思っていてくれたことが嬉しくなって、私は思わず「ふふふ」と笑ってしまった。
「ごめんなさい。私も同じことを考えてたので。」
急に笑い出した私に不思議そうな顔をしたエバンさんに、素直に言った。すると彼は少しうつむいて、「よかったです」と言った。
「歩けますか?」
「大丈夫です。」
そうは言ったけど、今日1日の疲れで足がふらふらだった。それを察したエバンさんは私の腰を持って、どこか座るところがないか探し始めた。
「リア…っ!!!」
すると後ろから、大きな声で私を呼ぶ声が聞こえた。
あまりにも大きな声だったからびっくりして振り返ると、そこには息を切らしたアルが立っていた。
「おい、エバン。」
するとアルは最初は私の名前を呼んだにも関わらず、怖い顔をしてエバンさんの方に寄ってきた。
ああ、二人って知り合いなんだと、他人事みたいにしてアルの顔を眺めている自分がいた。
「お前、どういうつもりだ。」
「どういうって…。」
アルはエバンさんに顔を近づけてまだ怖い顔をした。こんな顔をしているアルをみるのは、すごく久しぶりだった。
「どこに連れてくんだ。リアは要人だぞ。」
「ねぇ、アル。私別に要人でもなんでもないし、そんな怒らなくても…。」
「お前は黙っとけ!!!!」
あ、そういえばアルって今日の私の警護担当じゃん。
それを思い出したら勝手に逃げて悪かったなと思った。私がとても冷静なことを考えている間も、二人はなぜかにらみ合っていた。
「お前になぜそんなことを言われなきゃいけない。」
「俺はこいつの警護担当だ。」
「警護出来てないじゃないか。なんなら僕が変わってもいいけど?」
え~っと。もしかして、もしかしてですよ?
これって、もしかして、
私って取り合いされてます?
険悪なムードのはずなのに、私の気持ちはすこぶるよかった。もう少しこの空気を堪能してようとすら思ったけど、今度はアルが私の手を急につかんだ。
「リア、戻るぞ。」
「ちょっと、アル!」
アルはそのまま力強く手をひいて、来た方向を進み始めた。
「きゃあっ!」
私のフラフラになった足はアルの歩くペースについて行けなくて、ついに足がもつれて転びそうになった。
危ないと思って反射的に目をつぶった次の瞬間、私の体は暖かい何かに包まれていた。
「大丈夫、ですか…?」
ゆっくり眼を開けてみると、目の前にエバンさんの顔があった。やっぱり彼の眼は燃えるように赤くて、とてもキレイで暖かかった。
「は、はい…。」
しばらく静止したまま見つめ合ってしまった。しばらくするとエバンさんも顔を真っ赤にして目をそらしたまま、私の体を起こしてくれた。
「アル。お前、警護担当なんだろ?ケガさせたらどうする。」
優しい目をしていたはずのエバンさんは、アルの方をにらみつけて言った。
"私のために喧嘩しないで!!"って憧れのセリフでも言ってやろうかと思ったけど、自分で自分に恥ずかしくなりそうな気がしたからいうのをやめた。
「お前たち。」
するとその時、背後から冷たい声がした。また私を取り合う男性でも現れたのかしらと思って振り返ってみると、そこには久しぶりにみるゾルドおじさんが立っていた。
「何をしている。」
おじさんは冷めた目のまま近づいてきた。最近はおじさんの顔が怖いと感じることもなくなっていた私だけど、久しぶりに背筋が凍る感じがした。
「と、父さん。俺は…。」
「俺は、なんだ。今日はお前にリアの警護を任せたはずだが。」
「だから今…っ!」
「言い訳ばかりだな、お前は。エバンのいう通りだ。警護を担当するお前が危険にさらしてどうする。」
アルはそこで完全に黙ってうつむいた。それを見たおじさんは今度はエバンさんの方を振り返って「お前もだ、エバン」と言った。
「自覚が足らん。お前たちは国を、大切な人たちを守る仕事をしているんだ。自分の欲望に負けていてどうするっ!」
エバンさんもついに、燃える瞳を伏せてうつむいた。どうすればいいのか分からなくなった私があたふたとしていると、今度はおじさんが私の方に近づいてきた。
やばい、怒られる。
「リア。」
お前も呼ばれた身として自覚が足らん!とか言われるのかなと思って、私は二人と同じように目を伏せた。すると次の瞬間、体がふわっと宙に浮いた。
「お、おじさま?!」
なんとゾルドおじさんは、私をお姫様抱っこしていた。子供の時以来にそんなことされるのがなんだか恥ずかしくて、照れ隠しをするためにもおじさんの胸にぎゅっと つかまってみた。するとおじさんも、私に負けないくらい恥ずかしそうな顔をしていた。
「顔色が悪い。少し休め。」
「は、はい…。」
イケおじっぷりを存分に発揮したおじさんは、私をお姫様抱っこしたままお城の人に何やら指示を出した。そしてお城の人に案内されるがままに、私を王城の中の一つの部屋へと連れて行ってくれた。
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